もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

文字の大きさ
458 / 538
東の国

混乱の東国

詳しく話を聞いてみると、暴動と言っても内乱とかそういうことじゃあなかった。
その発端は、飢餓によるものらしい。
食べるものに困った東国の国民たちが、飢えに耐えかねあちこちで暴徒化しているようなのです。

「そもそも東国では慢性的に食糧難に悩んでるんだ。
東国は氷の国だからな。寒さで植物が育ちにくい。
その代わりといってはなんだが、鉱石や宝石などの鉱山資源には恵まれていてな。
今回来た商人も、嵩張らない宝石などの貴金属をバースに持ち込み、バースから毛皮などを持ち帰るっているんだが……今回は毛皮じゃなく全てを食料品にして持ち帰った。こんなことは初めてだ。
バースと東国の間には氷の山があるんだぞ?利益優先の商人が嵩張るうえにあまり儲けにならない食品にするなんて、これまでにはなかったことだ。
つまりはリスクを侵してもメリットがあるほどに食料の値段が高騰している。そんだけ食料を必要としているということだ。
ゲイルにもそれは伝えて、東国に行くんなら日を改めるようにと言ったんだが……『気になるから様子だけ見に行ってくる』って言うんで、しぶしぶ送り出したんだ。
『ウチから護衛を付けるぞ』と言ったんだが、むしろ足手纏いだと断られた。
まあ、そういわれちまうと、なあ。ゲイルより強いやつなんてウチにはいねえからな。大人しく引き下がったってわけだ」

なんと!ゲイルってば、東国で国民が暴徒化してるってわかってて行ったの?



でも俺にはなんとなくその理由が分かった気がした。
飢餓、というあたりで。
ゲイルってばどうしようもなく医者だもんね。救える命なら救いたい、っていう。
俺の場合はもう少しシビア。
聖女の力だのヒールだのあるから、俺たちは救おうと思えばみいんな救えちゃう。
でも、じゃあ、それはどこまで?
時間だって有限で、俺たちの身体はひとつ。
全人類救おうなんてことしてたら、人生全てを捧げちゃうことになる。

悪いけど、俺にはそれは無理。
なんでもかんでも俺がしたら、俺が居なくなったら何も立ち行かなくなるでしょ。っていうのは言い訳で。
俺は楽しく生きたいし、大切な人と色々なことやって、笑い合ったり怒ったり泣いたりしたいもん。
サフィとしての俺の人生があって、その上で俺にできることがあればやってもいい。そんな感じ。

だから俺は「手の届く範囲で」「俺の関係するところで」って決めてる。
火の粉がうちにかかりそうだったり、何か思いついちゃった利した場合は手を出すけど、基本的には「自分のことは自分でやってね」って思ってる。



でもね。ゲイルは違う。
この「手の届く範囲」が「手を届かせちゃう範囲」なんだよね。
これまでのゲイル見てたら分かるでしょ。
貴族なのに、わざわざ平民街に行って医者をしちゃう人だもん。
ギルドに顔を出してせっせと治療しちゃう人だもん。
それを当たり前みたいにやって「俺は好きでやってんだよ。金だって取ってるしな」とか言っちゃうの。ほぼボランティアの癖に。
そういうところが好きなんだけど。
いかにもお父様って感じだよね。

そんなゲイルが「飢餓」だとか「食べ物が無くて飢えて、暴徒化してる」なんて聞いて平気だとは思えない。


「あー……そっちかあ……」

思わずドンって床を叩いてしもうた。
俺渾身の床ドン。

頭くしゃくしゃってして「しゃあねえなあ。知っちまったからには放っておけねえだろ」って困ったみたいな顔で笑うゲイルの顔が目に浮かぶ気がした。




「あー……すまない。俺がもっとゲイルを引き留めるか、無理にでもついて行けば良かった。まさかまだ帰っていないとは思わなかった」

心底悔やんでいる表情でバースくんが90度の角度で頭を下げた。
こらこら、一国の王が簡単に頭を下げたらダメでしょおに!

「俺のほうこそ、ゲイルがごめんね?今回に限ってはバースくんは巻き込まれた側でしょ」

ペコリと頭を下げたら「……サフィラス様が頭を下げた!」ってカチコーンとされてしまった。

「ちょっと!なんでそこでびっくりした顔するの?!
俺だってこっちが悪いときには謝罪くらいするよ?当たり前でしょお!」

「い、いや、だって、サフィだぞ?!」

そこで俺を指ささない!失礼ですぞ!俺を何だと思ってるの?

「驚愕しすぎたのかサフィ呼びしてるじゃん。いいけど。
あのね、俺だって自分がそれなりに地位みたいなのがあるってわかってるから。だからこそ負うべき責任があるでしょ。
自分が間違ってたらちゃんと認めて謝罪くらいするよ。できないことは頼まないし」

パチパチ、と瞬きしたバースくん。
「さすがゲイルの息子だな」とゲイルに向けるみたいにぱあっと破顔して、俺の頭をワシワシと撫でた。




とにもかくにも、ゲイルの帰りが何故遅れているのかのヒントは得た。
やっぱり面倒に首突っ込んでた。

いつもは俺がゲイルにこうやって心配かけてるんだろうな。
今回は逆だね。

ゲイルやみんなが俺を助けてくれるみたいに、今度は俺が助けに行く番。




「ねえ、バースくん。結婚祝い、今貰っていい?」

「……はぁ?!何言ってんだ?いいけど。
どうして今?!」

「結婚祝いとしてマジックバックをできるだけたくさん欲しい。
それに、こっちは後でお金払うから、毛皮と食料、チーズとか牛乳とかもできるだけたくさん詰め込んで。薬とかも。
無理を言って悪いんだけど、できれば今日のお昼までにお願いできる?」

「ああ。なんとかする。



あと、中庭を貸してもらってブリードさんを呼んだ。

「悪いんだけど、狩りしてきて!ゲイルのピンチなので!
ドラゴン大集合して、森に居る食べれそうなオークとか角ウサギとかいたら採ってきてここに置いてくれる?
俺が後でどんどん焼いてマジックバッグに入れるから。お願い!」

「うむ。いいだろう」

ブリードさんは詳しい理由を聞くことなくすぐに飛んでくれた。
ありがたい。
後でお礼をしないとね。



忙しそうにあちこちに指示を出しているバースくんにあとはまかす。

「俺は一旦王国に戻る。またお昼までに戻るから、お願いね、バースくん!」


さあ、こっちはこっちで準備せねば!
バース連合の食料だけねこそぎ、って訳には行かないからね。

「ルーダ、もっかい王国に戻って!」




感想 892

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。