もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

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東の国

王様のところへ2

「よく耐えた。さっさと済ませような」

えぐえぐとしゃくりあげながら歩く俺の頭をキースが撫でる。

泣きながら歩く他国の冒険者(小)とそれを慰めながら歩く冒険者(大)にすれ違う人が困惑していた。
でも空気を読んでか、そっと目をそらし見ないふりをしてくれた。

防犯上どうなの?
この要塞に入れってる時点でおーるおっけーってこと?

とにもかくにも俺たちを咎めるような人はいない。
有難い。

お城の手前の方には人がたくさんいたんだけれど、奥にいくにつれて人が減っていく。
一応ゾーニングされているのかもしれない。
余所者の俺はそんなの知らなかったってことで!
通りすがりの冒険者だからね。
色々説明の前だったから、知らずに張りしまわっちゃったの。仕方ないよね。



「……とりっあえず、ゲイルっ……ずずっつ……だいじょぶ、だよ……ね?ちゃんと、ヒール、でてたよね?ずずっ」

「ああ。ちゃんと出てた。周りの奴ら驚いてたぞ?あとで説明を求められるだろうな。……てか、その鼻チーンしとこうか。サフィ、ほら、チーン」

ハンカチを出してくれたので遠慮なく使わせてもらう」

「ご、ごべん゛……ちーん!」

ハンカチに注がれる視線を受けながら「ヒール」をハンカチと顔に。
これでキレイな俺、ふっかーつ!
誰も泣いてたなんて気付かないもんね!

「ありがと。返すね」

ハンカチを返せば、キースが微妙な表情で「ああ、それサフィがしまっとけ。やる」。

「クリーンしたからキレイですし?!」

「……なんとなく。まあ、いらんもんじゃねえだろ?持っておけ」

いいけど!




よし!とりあえずゲイルの命は繋いだ。
かなりドビャッと出た感じしたから、きっと大丈夫。

俺たちは王国の使節としてじゃなく、一冒険者、ゲイルの息子とその仲間としてここに来た。
だから、ゲイルの顔を潰すわけにはいかない。
ゲイルのこれまでの行動に恥じぬよう、きちんと王様にご挨拶しなきゃ。


そう思って向かった王様のお部屋(推定)なのですが……。
その前に難しい表情の東国の人たちと、憮然とした公爵が居た。

……ですよねー……

オデコにメロンの網目を浮べたサモンさんが、敬語をかなぐり捨てて低い低ーい声を発した。

「……いかに自由な冒険者といえど、勝手をされては困る!ここをどこだと思っている
緊急時で開放されているとはいえ、走り回るなど!」

拳を握簡易の革の鎧のようなものを身に着けた衛兵さんらしき人達が、槍みたいなものを構えてズラリしている。
彼らが俺たちを捕らえに行こうとしたのを、サモンさんとコテツさんが止めていてくれたみたい。
特に案内役として俺たちを率いてくれていたサモンさんにしてみたら「信じたのに裏切ったのね!」な気持ちなのでだろう。
……ほんとうにすまんかった。

一応言い訳だけはしておこう。こういうのが大切だって知ってるから。

「えっと、ちょっと初めての場所ではしゃいじゃって。王様がお待ちの場所に先に行こうと思ったんだけど広いから迷ってしまって……ごめんなさい。ゲイルの部屋の前はたまたま通っただけですし!ササーっと通り過ぎただけですので!」

しーん。
明らかに信じてない。
でしょうね……。でも、これで体裁は整ったでしょ?

ここで俺に救世主が。元宰相という権力者、コテツさんだ。
彼は恩義に厚い人だったようで、明らかにやらかした俺なのになんとか庇おうと努力してくれた。

「まあまあ。
確かにサモンの言う通りではあるが、サフィラス様は、父親であるゲイル殿のことが気になっていたのだろう。
この小さな身体で氷の山を越えて来たのだぞ?どれだけ大変だったか想像に難くない。それだけの想いがあるのだ」

……ごめんなさい、ドラゴン便で来ました……などと言えるはずもなく。
俺は神妙な顔で「頑張ってきた俺」をアピール。
公爵とキースがそっと俺に寄り添い、慰めるかのように肩を抱く。

さっきまで身構えていた衛兵さんたちも、なんとなく同情するような空気になってきた。

「むしろようやく再会という前に待てをかけたのは私たちの方なのだ。
冒険者ドラゴンライダーとドラゴンバスターの名は伊達ではない。
無理を通すこともできるだろうに、我らの顔を立て、王への謁見を先にと体裁を整えてくれたのだ。
そう思えば……」

「た、確かにそうではありますが……。しかし……」

「そもそも、ゲイル殿のお陰で今の我らはいるのだぞ?」

コテツさんの穏やかで、でも有無を言わさぬ声音にサモンさん喉がぐうと鳴った。




「……で。サフィラス、ゲイルは……」

強張った表情で公爵が口を開いた。
きっと本当なら俺たちを追いかけたかったはず。
でも、向こうの顔を立てて当てて一人残ってくれたんだろう。
握り締めた掌には、爪が食い込んだ跡があった。

「うん。取り急ぎヒール飛ばしてきた。ひとまずはあれで大丈夫なはず」

さり気なく手を繋ぎ、小さくヒール。
これくらいなら詠唱も、光もなしにできる。

いきなり手を繋がれて一瞬ビクッとした公爵だが、痛みが引いたことで俺の意図に気付いたのだろう。
小さな声で「……すまない」と囁いた。

「俺もおいて行ってごめん。残ってくれてありがとう」





ごほん。うおっほん!
まだちょっとオコなサモンさんが、ぴしりと表情を引き締めた。

「であれば、余計に時間を無駄にできません。私も分かっておるのです。だからこそ……いや、ご案内しよう。陛下がお待ちです」

「はい。……ごめんね、サモンさん」

「いえ。……ゲイル殿のは感謝しておるのです」

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