もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

文字の大きさ
495 / 538
東の国

古龍さん4

ハクは小さな身体をゆらりと揺らして笑った。

「聖女よ、我を癒してくれるというのか?
ならばぜひ頼みたい。
なに、駄目で元々よ。
このまま何もできぬのなら、賭けてみようぞ」

「うん!俺が思うに、ヒールだって『治って欲しい』っていう祈りの一種じゃないかな。
だからね、絶対にハクも元気になるよ。信じて!」

俺とゲイル、二人並んでハクの上の手をかざした。
今まで一緒にやったことはないけど、何しろ相手は精霊さんだもの。
一人よりも二人の方がいいと思う。

みんなが見守る中、ゲイルとふたり呼吸を合わせる。

「……ゲイル、いくよ」
「よし!」

「「せーの!ハイヒール!!」」

ぱああっ!
辺り一面が真っ白な光に包まれた。

「わあっ!」

思わず両手で目を覆う。


光が収まったその後には……

ブリードさんの横に、大きな大きな白い龍の姿が!
その龍は長い長い尻尾をゆらゆらさせながら、大きな体を嬉しそうにくねらせていた。

【聖女らよ!助かったぞ!おかげで我が力が戻った!
これならば、そちらの力になれようぞ!
さあ、盟約を果たそうではないか!】

ぶるりとその巨体を揺らし、あっと空に飛び立ったハク。

巨大な白蛇にも似たその姿は、なるほど、ドラゴンとは似て非なるもの。
翼はなく、代わりに美しい鬣のようなものが風をうけてたなびく。
陽光を受けた鱗が虹色に光り輝く様はなんとも神々しいものだった。

思わず口を開けて魅入ってしまった。

あれが小さな白蛇さんの本当の姿!
凄い!

「ふふん!わが友は美しかろう!」
「うん。なんていうか……精霊って感じ!祈りや信仰を糧にっていうのが分かる気がする」

欲などとはかけ離れた存在。
純粋に善なるもの。

ゲイルが感嘆の声を上げた。

「……綺麗だ……」

そうだね。すごくキレイだ。

「この地にかような方がいらしたとは……。我らはなんと無知で愚かなことを……」

ミカゲ陛下とブルーが沈痛な声を上げる。
ハクの圧倒的な存在感を前に、改めて精霊をないがしろにしてきた罪悪感に打ちのめされているようだ。
ガクリと肩を落とし、今にも崩れ落ちそう。

「記録を怠ったことは確かに東国の人に責任があるけど、あとは善意と不幸が重なった結果だもん。仕方ないよ。
ハクはきっと恨んでもいないと思うよ。だからこそ、盟約を果たすって言ってくれてるんだし。
悪いと思うんなら、新しい祠を作って、今度こそしっかりと祀ってあげて。
祈りが絶えないように。後世にも伝え続けて。それでいいと思うよ」

身体だけでなく、きっとその心も大きな存在だから。




ハクは氷の山の方に向かうとその真上でぎゅーんと空に向かって一直線に飛んだ。
するとハクの後を追うように氷の山から水蒸気のようなものが空に向かって立ち昇る。
それはみるみるうちに巨大な雲のような塊となった。

大きな口を開け、ハクが海の方向に向かって咆哮。
すると集まった雲が一斉に海に向かった。
そして海の上でぎゅうっと固まり真っ黒な雲に。
その雲はどしゃーっと大量の雨を降らした。
正にその場だけ蛇口をひねったような雨だ。

雨がやみ、空がさあっと晴れる。
雲一つない真っ青な空だ。

風も嵐も止み、天からは温かな陽が降り注いでいた。



「……冬が……去った………」

ミカゲ陛下の口から、かすれた声が漏れた。

「冬が去ったぞ!ははは!冬が去ったのだ!!」
「はははは!や、やった!やりましたっ陛下、やりましたよっ!!ははは!
これで、これでようやく……ようやく春が来ますっ!!」

抱き合って喜ぶ陛下とブルー。

「やったね、ゲイル」
「ああ。これでようやく東国の冬は終わる」



作物が育つまでの間をなんとかすれば、もう東国は大丈夫だろう。

あとはその先を望むかどうか。

これまでと同じ生き方を望むのならばそれでよし。
でも、新しい世界に踏み出すのなら。

「後はトンネル!ハクにやってもいいか聞いてみよう!」


感想 892

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

あなたの愛したご令嬢は俺なんです

久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」 没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。