もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

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1巻

1-3

 そういうわけで、俺の部屋にゲイルの荷物がどんどん運び込まれてくる。治療に必要な道具やゲイルの着替え、生活用品はともかく……このたくさんの絵本はなに? 俺の左右にぎゅうぎゅう詰め込まれたモコモコふわふわの肌触りの可愛いぬいぐるみは? みるみるうちに俺の部屋がおもちゃ部屋のようになっていく。おもちゃ一つない生活だった俺は、この変化についていけてない。お気に入りになったぬいぐるみ、ウサギのウサオをモフモフすりすりしながら、俺は唇を尖らせた。

「たくさんありがと。でも、多い。ゲイル、やりすぎ。ぜいたくよくない」

 愛してくれるのは嬉しいし、俺もゲイルが大好き。でも少し心配。ゲイルは……いわゆる「親バカ」ではないだろうか? 医者ってそんなにお金持ちなの? こんなことをしていたら破産してしまわない? 大丈夫? 俺はゲイルの懐事情までも気にするよい子なのだ。
 そんな俺の心配もつゆ知らず、当のゲイルは鼻の下をデレデレに伸ばして上機嫌。

「会えなかったこれまでの分なんだから問題ない! 俺の楽しみを奪わないでくれよ? ああ、俺のサフィ、可愛いなあもう!」

 せっせと俺の頭を撫でている。ゲイルに会ってから撫でられた分だけで、たぶん四年分の撫では十分クリアした。あまりにも撫でられすぎてハゲちゃうかもしれない。俺の毛根、頑張って!
 ちなみに公爵たちからもあれこれ届けられたけど、それは全部ゲイルが棚に押し込んでしまった。「精神衛生上よろしくないから。後で必要があると判断したら渡してやる」だって。とても黒い笑顔だった。ゲイルの分だけで十分すぎだし、俺もそれでよきですよ。
 僅かな間にゲイルと俺には確かなきずなが生まれていた。俺の疲れ具合を見ながら、ゲイルは色々なことを教えてくれる。その中で、ゲイルは自分自身についても語ってくれた。
 ゲイルは、俺の母エリアナの叔父にあたる。俺の母方の祖父は前侯爵で、その年の離れた弟がゲイルなのだそう。兄である前侯爵よりもその娘であるエリアナのほうが年齢が近かったということもあり、エリアナとゲイルはまるで兄妹のように育てられ、とても仲もよかった。
 そのこともあり、エリアナの出産に際してゲイルが付き添っていたのだ。


 ところで、そもそもどうしてゲイルは医者になったのか。それはこういった事情だった。
 ゲイルは筆頭侯爵家であるサフィール家の次男として生まれた。遅くに生まれた子で、兄である前侯爵とはなんと十七歳違い。五つのときに両親が引退して田舎いなかに引っ込んでしまったため、王都の邸で兄夫婦によって育てられた。ゲイル六歳のとき兄の前侯爵にエリアナという娘が、さらにその四年後にエリアスという息子ができ、ゲイルはその二人と兄弟のように育った。このエリアナが俺の母だ。
 幼い頃から身体の弱かったエリアナを診察するため、侯爵家には専属の侍医がいた。気さくな人物で、休みの日などにはゲイルに色々なことを教えてくれた。また、その医者はボランティアとして孤児院などで無償の治療も行っていた。お金を貰わなくていいのかと心配するゲイルに、彼はこう言って笑った。

「病気や怪我をした人がいれば助ける。そこに身分は関係ありません。まあ、侯爵様に雇っていただいているおかげでこのようなことができるのですがね」

 そんな医者の姿を見て、いつしかゲイルは「自分も医者になりたい」と思うようになる。
 十歳になったゲイルは貴族学校に通うかたわら、週末にこっそり下町に通い、薬草や薬についての「医療」を学んだ。ある程度の知識が付くと「今度は実技だ」と暇さえあれば侍医について回り、助手として仕事をするようになる。努力もしたが、元々の才能もあったのだろう。この世界での成人にあたる十五歳になる頃には「独り立ちしてもよい腕を持っている」と侍医に言わしめたのだった。
 しかし、ゲイルは将来的に公爵家の持つ伯爵位を貰ってグリフィス伯爵となる予定だったし、伯爵家の当主が医者になるなどということは認められなかった。「当主の仕事は領内を治めること、事業をおこしたり事業に出資したりすること」というのが貴族の共通認識だったのだ。
 そもそも領主云々うんぬんを除いても、医者になるのは市井しせいの者だけだった。王国の貴族は代々魔法を使える者が多い。そんな貴族の中でもヒールを使える者は少なく、特別扱いだ。ヒーラーは医者の代わりに貴族の治療をする。つまり貴族の言う医者とはこのヒーラーのこと。薬やポーションなどで治療をする類の医者は、地位は高いけれど「魔力のない平民の仕事」という認識なのだ。
 ゲイルの魔力は多く、様々な属性の魔法が使えた上、最強のヒール能力まであった。それだけでも医者として十分なのに、ゲイルは薬を使える医者になりたいと言い出した。
 当然、兄である前侯爵は仰天。

「伯爵が町医者など! そもそもお前にはヒールがあるのだぞ? それで十分ではないか。領主の仕事もある。町で医者をする暇などないだろう?」

 と反対した。それは兄として弟を思うがゆえの反対だった。
 ならば自分が継ぐことになる伯爵の地位を放棄して平民になる、と息巻くゲイルを諫めたのは、当時十歳だったエリアナだった。

「ゲイルお兄様のお気持ちはわかります。でも、身分があればこそ救えるということもあるのではなくて? 伯爵位は持っていて邪魔になるものではありません。いらないと捨てることより、お父様を説得する方法を考えましょう。私も協力しますから!」

 彼女はまず自分の診察をゲイルに任せた。「専属の侍医がいるのに? ゲイルはまだたった十六だぞ?」と侯爵は強固に反対したが、エリアナは笑顔で前侯爵を黙らせた。

「学校も卒業し、もう成人なさったでしょう? 医師の資格も取っているではありませんか。治療される本人である私がいいと言っているのです。それ以上に何が必要ですか?」

 エリアナは自らの治療を任せることで、医者としてのゲイルへの信頼を示した。
 専属の侍医は優秀な人だったけれど、それでも身分の差ゆえエリアナに対する遠慮があった。が、ゲイルは身内だからこそ甘やかさない。薬草とヒールを併用して治療しながら、身体が弱くて過保護にされていたエリアナに遠慮なくどんどん運動させた。それがよかったのだろう。結果、エリアナは劇的に回復し、一年もする頃には普通の生活が送れるようになっていたのである。
 結果を出され、前侯爵も「これならば」とゲイルが医者になることを許した。
 こうしてゲイルは伯爵でありながらヒーラー、さらに薬草も使える医者という稀有けうな存在となる。ゲイルの実家は筆頭侯爵家で、王族が降嫁こうかしたこともある由緒正しき名家。薬草も使え、おまけに高位貴族の家系で自身も爵位を持つ最高のヒーラーとして、ゲイルは貴族から絶大な信頼を得て引っ張りだことなった。
 それでもゲイルは拠点を下町に置き、平民の治療を無料や安価で引き受けている。

「治療など必要ないと言っても聞かず、治療費が高額なほどいい治療だと信じているような貴族から、金を巻き上げるだけ巻き上げてやるんだよ。それで本当に治療を必要としている人を診ることができる。貴族は金を払って満足する。平民は安価で治療できる。お互いにウインウインだ。それに俺のやっていることを応援してくれる人もいるしな。言ったろ? こう見えて、それなりに伝手つてもあるんだって」


「てなわけでサフィのお母様は俺の妹みたいなもん。だからサフィは俺の甥みたいなもんだ。しかも生まれるまでずっと見守ってたんだぞ? つまり名実共にサフィは俺の息子ってことだな! サフィが元気で大きくなってくれたら、それが俺の幸せなんだよ。序列では公爵家にはかなわないが、それでも俺には公爵家に立ち向かえるだけの力がある。サフィは安心して自分のしたいようにしていいんだぞ?」
「ゲイル、さいこーのお父さま! さいこーにカッコよ!」

 さすがゲイルだ。ますます尊敬の念が高まった。だけど話を最後まで聞いて、どうしても疑問に思ったことがある。

「ゲイル、りょうしゅ。りょうちは誰が治めてるの?」

 とたん、ゲイルは渋い顔になってすっと俺から目をそらした。

「ゲイル?」
「……独立するとき、ものすごく有能な側近をつけてもらってな? 彼が俺を支えてくれているんだ」
「……ゲイルゆうしゅうなおいしゃ。さいこーのお父さま。でもダメりょうしゅ」
「サフィいいいい! 適材適所って言葉があるんだ。知ってるか?」

 知っているけど、そういうことじゃないでしょ! もう!


 こうしてゲイルと俺が仲を深める一方、俺と公爵の関係は微妙なままだった。あの後、俺とゲイルと公爵は一応の話し合いをした。俺がベッドに起き上がり、その俺を庇うようにすぐ横にゲイルが座る。俺たちから少し離れた椅子に公爵。俺とゲイルVS公爵の構図である。
 公爵は悄然しょうぜんとした様子だった。目の下が真っ黒。毅然きぜんと背筋を伸ばした怜悧れいりな美貌は見る影もない。しばらく黙って座っていたが、振り絞るようにして声を押し出した。

「……サフィラス。今まで本当にすまなかった。私は自分をあわれむばかりで、エリアナの意志を忘れてしまっていた。お前を見るとエリアナの死の辛さがよみがえり、それに耐えられなかったのだ。エリアナの死をお前のせいにしてしまいそうな自分が、怖かった。自分の弱さのせいでお前を傷つけてしまいそうで、怖かった。だからお前を避け、お前と向き合うことから逃げた」
「……」
「……勝手なようだが、お前を失いそうになって初めてお前と向き合うことができた。そしてようやく納得できた。エリアナの死とお前の生は別なのだと切り離せるようになったのだ」

 俺は言葉を挟むことなく黙って聞いていた。だってどれもすでに夢うつつでも聞いていたことだったし、俺の中では整理がついていたことだったから。だけど……納得はしていない。
 むっつりと押し黙ったままの俺に、公爵は改めて頭を下げた。

「私の弱さのせいでお前を辛い目にあわせ、お前の命を危険にさらしてしまった。謝って済むことではない。だが、謝ることしかできぬ。本当にすまなかった。もう遅いのかもしれない。それでも私はお前のことを家族だと思っている。侍女頭がお前に吹き込んだことは嘘だ。私はお前を憎んでなどいない。嫌ってもいない。愛している。都合のいいことをと思うだろう。だがこれが本心なのだ」

 つたなく言葉を重ね、必死で自分の気持ちを語る公爵。でも、何を言ったらいいのかわからない。公爵は俺を傷つけ、ずっと俺を見なかった。公爵の顔を見るだけで俺の胸に何かが詰まる。おなかの中が石ころを詰めたみたいにぎゅうっとなって、詰まったものを出したいのに出せない、そんな感じ。
 俺は公爵が少し怖い。家族だなんて思えないのに、それでもどこかに「嫌われたくない」っていう気持ちがインプリンティングされているみたい。我ながら矛盾しているけれど。
 公爵の顔に浮かぶ懇願こんがんのようなものが怖かった。だって、懇願こんがんされてもこたえられない。今さらそんなこと言って、俺にどうしろっていうの?
 心の中がぐちゃぐちゃになった俺は、救いを求めて横に座っているゲイルに両手を伸ばした。

「ゲイル。だっこ」

 よじよじとゲイルのお膝に登って、その胸に顔をうずめてぐりぐりと頭をこすりつける。大丈夫。ここにいればなんにも怖いものなんかない。大好きなゲイルが守ってくれる。ゲイルはとっても強いんだ。
 ゲイルはそんな俺を黙って抱きしめ、そうっと背中をさすってくれた。


 何分くらい経ったのだろうか。静かに返事を待つ公爵に、ようやく俺は向き直った。

「……こうしゃく」

 その呼びかけにビクリと震える公爵。俺の表情にその目がハッと見開かれ、すぐに諦めに染まっていく。俺が何かを決意したことに気付いたのだろう。
 そんな公爵に、俺は淡々と告げた。

「たおれてごめんなさい」

 頭を下げる俺に、公爵が静かに首を横に振る。

「倒れたのはお前のせいではない。すべて私の責任だ。だから……お前が謝る必要などない。むしろ謝罪すべきなのは私だ。今後はお前のよいようにすると約束しよう。これからどうしたい?」

 膝に置かれた公爵の手がかすかに震えていた。でも、俺は決めたから。

「十さいまでここにいる。ここで剣や魔法をならうの。よきですか?」

 俺の返事を聞いた公爵の顔に希望の色が浮かんだ。彼は必死なほど前のめりになって了承した。

「もちろんだ! この名に誓って、素晴らしい師を手配すると約束しよう!」

 一方、俺を抱きしめるゲイルの腕にかすかに力がこもる。寂しげな表情。俺が公爵家を選ぶと思ったんだろう。大丈夫だよ、ゲイル。俺はゲイルが大好きなの。ゲイルがいいの。
 安心して、とゲイルの腕にそっと触れ、俺は改めてしっかりと公爵の目を見た。

「でも、こうしゃくはぼくの家族じゃなくてよき。ぼくの家族、ゲイル。ぼくのお父さま、ゲイル。ぼく、あいしてくれるゲイルお父さまといたい」

 厳しいようだけど、これが俺の本当の気持ち。ありのままの気持ち。
 俺の言葉に公爵の顔から表情がするりと抜け落ちた。そんな彼の様子には構わず、俺は淡々と言葉を続ける。

「ぼく、ここでこうしゃくのお金と力をつかってべんきょうする。でもそれだけ。ぼくの家族はゲイル。こうしゃくじゃないの。ぼく、ゲイルのむすこになる」

 黙って俺の言葉を受け止めた公爵。彼は真っ青になりつつも、ギリと唇を噛みしめてその激情を抑え込んだ。大きく息を吸い、次に深く深く、息を吐いた。

「……わかった。すべて受け入れよう。だが……私がお前のことを家族だと思うのは許してくれ」

 青ざめた顔にそれでもなんとかぎこちない笑みを浮かべてみせる公爵。それはいつも自信に満ち溢れた公爵が浮かべたとは思えないほど、切なさと痛みといつくしみに満ちた、とても人間くさくて哀しい微笑みだった。
 初めて公爵から自分に向けられた笑みは、俺の胸に喜びよりも切なさを呼び起こした。胸の痛みを感じながら、それでも俺は続ける。

「十さいになったら、ゲイルのところにいく。十さいならぼうけんしゃになれるでしょ? ぼうけんしゃになって、ゲイルみたいに人を助けたい。たくさんお金かせいでゲイルのおやくにたつ。ゲイル、だいすきなので」

 ポタリ。俺の首筋に水滴が落ちた。それはゲイルの瞳から次々と溢れ出し、俺を濡らしていく。
 温かな涙の雨を受け止め、俺は笑った。心の底からの笑顔で。

「ゲイル。ぼく十さいになるまで、ここにいる。だからゲイルはここに会いにきて。ぼくたくさんべんきょうしてつよくなる。それで十さいになったら、ゲイルのおうちにいく。よき?」
「……ああ。ああ。俺がここに来る。安心しろ、サフィ。サフィは俺の息子だ。俺がサフィのお父様だ。サフィが望むなら十歳まで待とう。絶対に俺のところに来るんだぞ、サフィ。約束だ」

 まるで本当の親子のように頬をくっつけて笑い合い抱きしめ合う。そんな俺たちを公爵はじっと見つめていた。ひたすら見つめていた。公爵は自分が失ってしまったものの重さを、もう二度と手に入ることのない幸せを、改めて目前に突きつけられていたんだ。



   ◆第三章 俺の新生活


 こんにちは、サフィです! 倒れてから半月が経ちました。
 途中、公爵に「家族じゃない宣言」してからも俺の扱いは変わらなかった。もちろん以前のような「いない子」扱いというところからは激変したけど、「家族じゃない宣言」後も「公爵家の三男」という待遇のまま。間違っても「間借り人」みたいな扱いではない。とにかく至れり尽くせりなのです。
 ゲイルはあれからずっと俺の部屋に居座っている。通ってくるというよりも、仕事で留守にするとき以外はここに住んでいると言っていい。「公爵は家族じゃない。ゲイルが家族だ」と公爵に言った俺からしたら、公爵家の中に俺とゲイルのゲイル一家が間借りしているようなもの。だけど……意外なことに家主である公爵は文句一つ言わないのだ。逆に公爵のほうが俺たちに気を遣っているような状態。あまりにも殊勝しゅしょうな態度なので「ちょっと悪かったかな」なんて気すらしてきた。だって、俺の部屋はいわば「公爵家の中の治外法権」。ここの法律=俺とゲイル。ここの正義=俺とゲイルなのだ。
 公爵は俺に何か用があるときすら、申し訳なさそうに遠慮がちにやってくる。俺を無視していた使用人たちもほぼ入れ替えたらしい。俺の部屋につけられた(と言ってもほとんどゲイルがやってくれているんだけど)新しい使用人さんはみんな明るくて優しい。「必要なものはございませんか」「お食事はお口に合いますでしょうか?」「何かございましたらお声がけくださいね」と下にも置かぬおもてなしぶり。そこまでされてはなんだか逆に申し訳ない……


 生死の境をさ迷うような衰弱具合だった俺だけど、この半月でほぼ身体は元通りになっていた。
「ゲイル、すごい!」とはしゃぐ俺に、ゲイルは苦笑。

「いや、元々、魔力が多い者は身体が丈夫なんだ。だからサフィがあんなに弱ること自体がありえないんだよ。サフィには俺のヒールは効かないからな。十分な栄養と休息で、サフィが本来持っている力を存分に行き渡らせてやっただけだ。あとは投薬と塗り薬で怪我の治療……それくらいしかできなかった。すまん……」

 悔しげに呟くゲイル。ヒールを多用すると人間が本来持つ回復力が育たない。だから普段はなるべくヒールは使わず、薬草や薬を使用するようにしているのだそう。とはいえ、緊急を要する場合にはヒールを使うし、俺の場合も容態的にはヒール案件だったらしいけど……。俺の魔力多すぎ問題のせいで、ゲイルのヒールは俺には効かないんだよね。だから、ゲイルは自分の無力さに打ちひしがれているのであります。

「俺の魔力がもっと多ければ、サフィを早く治してやれたのに……! くそう!」

 十分やってくれたと思うのだが、それでもゲイル的には納得がいかないらしい。「もっと魔力を増やしてみせるからな!」と意気込んでいる。

「公爵には『回復には時間がかかる』と言ってある。せいぜい罪悪感に苦しむがいいさ! はっはっは! これまでの分、めいっぱい心配させてやろうぜ!」

 人の悪い顔でゲイルが笑う。こういう優しいのにちょっと腹黒なところも好きー! 俺は「ゲイル、すき! さいこう!」とゲイルの首にぎゅうっと抱きついた。
 ちなみに魔力がトップレベルで多い俺の身体には、他の人の魔法はほぼ効かないそうだ。効くのは魔力自体を封じる魔道具とか物理攻撃とか。ええ? 何それ? 初耳なんですけどー!?

「だから、サフィが心配しなきゃならんのは物理攻撃と魔道具だな! といってもそのへんの傭兵くらいならお前の魔法で簡単に勝てるだろう。だから徐々に魔法を学んでいこうな!」

 いやいや、俺の魔力、どんだけあるの!?


 さて、話は変わるけど、どうやらこの世界の魔力には色々な特性があるらしい。そのうちの一つが魔力量。俺の魔力が母の身体をおかしたように、大きな魔力は小さな魔力に干渉する。だけどその逆はない。強い魔力は、自分より弱い魔力に侵食されるのを拒む。
 ゲイルの魔力も王国で最強レベルだそうで、ゲイルが生まれるときも大変だったという。でも、そんなゲイルのヒールでも俺には効かなかった。ゲイルの魔力は俺の魔力に拒まれ、物理的な治療をするしかなかった。
 正確な魔力量は五歳の合同お披露目ひろめ会で測定されるまでわからないけど、このことから、どうやら俺の魔力はゲイルの数倍以上はあると思われるのであります。

「言っただろ? 本来、サフィの魔力量ならこんな風に倒れるなんてありえないんだ。あんな扱いをされながら、これまでサフィが無事だった理由。それはサフィの魔力量が多かったからだ。実はな、俺たちみたいなのはちょっとした怪我くらいなら通常よりも早く自然回復するんだよ。それなのにあそこまでサフィが重症になったのは、身体を維持するだけの栄養が足りていなかったからだろう」

 俺に説明しながらまたまた「あの野郎!」と剣呑けんのんな顔になるゲイル。「普通にしてほしい」って頼んでから敬語をやめて素になったゲイルは、存外口が悪かった。まあ、そこが好きなんだけど! 下町で治療をしている影響なんだって。本当かなあ? 最初に会ったときは、公爵に対しても俺に対しても(内容はともかく)丁寧な物言いで話をしていたのに、ゲイル本来の口調はこっちらしい。あの公爵とも元々はこんな風に砕けた口調で話をしていたんだそうな。じゃあなんであんな風に公爵と「貴族的会話」をしていたのかと聞くと……

「ムカついたから。エリアナを救えなかった俺の力不足は認めるが、だからといってサフィが病弱だと俺に嘘をつき物置にたった一人で押し込んでいやがったのは許せない。『そんなことになってるとは思わなかった』と言うが、そんなの関係ねえ! サフィを気にかけていれば気付いたはずなんだ。どんな言い訳をしようとあいつの管理不足だ。自分の弱さのツケをサフィに払わせやがって!」

 またまたオコ。でもって、なぜだか急にしょんぼりしちゃった。ど、どうしたの?

「ごめんな。早く助けてやれなくて。ただ俺はもちろん、侯爵家の連中だって何度も『サフィに会わせろ』ってかけ合ったんだぞ? なのに『サフィラスにはもう別の者を付けている』の一点張りでな。エリアナに似た俺らに会うのが辛かった? 知るか!」

 なんとか俺に会おうと頑張ってくれてたんだ……。それだけでも俺の心はほっこり。

「そうこうしているうちに……事故で俺の兄貴、サフィの祖父にあたる前侯爵が他界してな。それで、急遽きゅうきょエリアナの弟で、サフィの叔父エリアスが侯爵位を継いだ。だが、本来なら爵位を継ぐのはまだまだ先だと思っていたもんだから……『あまりに跡継ぎが若すぎる』と老害どもが出しゃばってきやがって、俺を担ぎ出そうとしたせいで、ちとごたついてな。俺たちもサフィのことに気付けなかった。すまなかった。魔力量からして『病弱で外に出せない』だなんておかしいと薄々気付いていたのに……。エリアナの忘れ形見、末息子として溺愛するあまり囲い込んでやがるんだとばかり……。それがまさかあんな扱いをされていたとは……!」

 申し訳なかった、と頭を垂れるゲイル。ほんとにタイミングの悪さと色々なすれ違いの結果だったんだなあ。うーん。まさか当主がいきなり他界するなんて思わないもんね。仕方ない。

「でも、ゲイルはきてくれた。お父さまになってくれたでしょ。それでいいの」

 俺はゲイルの頭を撫でた。よしよし。ゲイルの少し茶味がかった柔らかな金色の髪は、俺の髪の色とそっくりだ。えへへ。家族って感じだよね! 俺はモフッとその頭に顔をうずめる。
 本当に怒ってなんていない。嬉しいんだよ。知らないところで俺のことを想ってくれている人がいたって、そのことだけで救われたような気がするの。


 さてさて。
 今、ゲイルは公爵家に、いや俺の部屋にほぼ住み込みの状態で俺の治療をし、俺を息子として溺愛しておりまするが。それがね、普通の家族愛を超えていきなりの溺愛モードなのであります! 今も俺をぎゅうぎゅうしながらほっぺすりすりしつつ、グダグダ言っている。

「サフィー! 十歳になったらなんて言わず、このまま俺んとこに来ればいいのに……。ウチもそれなりに広いぞ? お馬さんだっているぞ?」

 なぬ!? お馬さんとな!? それはちょっと興味ある! だけどそれとこれとは別なのです。俺はゲイルをよしよししながらこうさとした。

「ダメ。こうしゃくけはエライでしょ? その力をりようする! ぼく、つよくなりたい。なので、こうしゃくけの力で、よき先生をおねがいする。こうしゃくけのお金つかってまほうと剣をおしえてもらう。それでゲイルのお役にたてるようになるの。だからそれまで、まってて」

 そう、俺の夢は冒険者になること! 十歳というのは冒険者登録できる年齢なのだ! 十歳までに公爵家の権力とお金を利用して、魔法も剣も使えるツエエ俺になるのです! それで十歳になったら、俺は冒険者になってゲイルと家族として暮らすの。そういう完璧な計画!
 あとゲイルには言わないけど、このままここから離れて公爵たちに「なかったこと」にされたくないって気持ちもあったりする。自分の罪って、目の前にあると忘れられないでしょ? 最低でも俺が辛かった四年間くらいは、俺としっかり向き合ってもらいたい。俺って性格悪いかな?


 ところで、どうして俺が冒険者にこだわるのか。実はそのルーツは絵本だったりする。
 四歳で貴族教育とやらが始まって、唯一よかったことがある。それは文字が少し読めるようになったこと。
 辛い毎日で俺の救いになったのは、夢で励ましてくれていた卓也の声と、絵本を読めるようになったこと。楽しみは図書室だった。暇さえあれば図書室にこもり、ふかふかの椅子に座って絵本を広げた。
 その絵本で俺は冒険者について知った。冒険者は自由だった。自分の腕一本で戦い、道を切り開いていく。それでたくさんの人を救っていたんだ。最高に憧れたし、羨ましいと思った。今は何もできないけど、冒険者になれば誰かの役に立てるのかもしれない。そうしたら自分だって愛されるかもしれない。だから十歳になったらこの家を出て冒険者になる。それが俺の夢になったんだ。
 予定としては、俺は十歳で公爵家を出て「ゲイルの息子兼、冒険者のサフィ」になる。たくさんお金を稼いで、ゲイルの病院をいくつも建てるつもり。ゲイルと一緒にたくさんの人を助けて、みんなを笑顔にするのだ!
 そのためには色々力をつけなきゃね。俺の魔力量は特殊らしいから、俺に教えることのできる魔法の先生となるとなかなか見つからないでしょ? それにどうせなら一流の冒険者になりたい! そのためには一流の先生から魔法と剣を学ぶ必要があるのだ。
 ってことで、冒険者になれる十歳まで、公爵家の罪悪感を利用してその権力とお金を最大限使わせてもらうつもり。ゲイルにも権力や伝手つてはあるっていうけど、俺としては公爵家から搾取さくしゅできるだけ搾取さくしゅしてやりたいのです。
 だけど、ほんとは大好きなゲイルと一緒にいたい。だから、ゲイルにお願いなの。

「ゲイルだってねむるでしょ? だから、ぼくのとこにねむりにきて。ぼくといっしょにねよ。そしたらゲイル。お仕事もいけるでしょ。ぼくもまいにちゲイルといっしょにいられる」

 そう! これですべて解決なのです! 俺ってば、頭いい! こうすれば、公爵家に寄生して利用しながら、俺はゲイルと毎日一緒にいられるのであーる!
 あれ? でもよく考えたら、今だってゲイルはここに入りびたっているよね? なんだかんだ言って毎日俺と一緒に寝ている。ん? 今と変わんなくない? 頼まなくてもすでにこの状態じゃない?
 だけどゲイルが「もちろんだ! 毎日一緒だぞ! 任せとけ!」って言ってくれたから、それはそれでおっけーってことでね!




 療養して一ヶ月。さんざんゲイルに甘やかされ、美味おいしいものをたくさん食べ、部屋で「ゲイル登り」やら「ゲイル飛び」やら「ゲイル引き」やらの運動をした結果。俺はあっという間に健康体になった。俺の身体ってすごくない? 魔力多すぎチート万歳ばんざい
 これにはゲイルも「いや、俺の予想よりヤバい。いったいどれだけ魔力があるんだ? 俺も多いほうだが、俺なんて目じゃねえぞ……」なんて眉根を寄せてブツブツ言い出した。え? もしかしてチートが過ぎた? ……俺はこれ以上考えることを放棄した。
 ちなみにあの家庭教師だが「ああ、適切に対処したぞ? もう心配いらない」と、とてもいい笑顔でゲイルが言うので、気にしないことにした。適切に対処と言ったところで目がギラリと光ったのを見ると、ゲイルが何かしらしたのだろう。お父様に任せておけば問題なっしんぐ!


 さて。
 ようやく元気になった俺は、次のターンに入ることにした。そう、俺をボロボロにしたきっかけ「貴族教育」の再開である! 五歳のお披露目ひろめ会で、ばっちりとスンバラシイ姿を見せる予定なのです。だって、俺はゲイルの息子なんだもの! 優秀でスンバラシイ、ゲイルの自慢の息子になるんだ! ドヤア!
 というわけで、俺は公爵に向かって「お披露目ひろめ会はちゃんとする」と宣言した。でも公爵は「無理しなくてもよい」という。いや、それ、今さら! そもそも公爵が俺を四年もなんの教育もせず放置した挙げ句、「一年でなんとかしろ」なんて教師に無茶ぶりしたからこうなったんでしょー! もお!
 でも大丈夫。だって今の俺には前世の卓也の記憶がある! そう、チートなのだ! 四歳児には難しかったかもしれないけど、今は一部の記憶とはいえ、受験戦争を勝ち抜いた頭脳があるのですよ? しっかりきっちり覚えちゃうからね! インプットは問題ないとして、あとはそれをうまくアウトプットできるか。それだけが心配。待っててね、貴族の衆! 目に物を見せてやりますのでね! はっはっは! サフィちゃんの実力を思い知るがいい!
 貴族教育を再開すると言った俺を、ゲイルは止めなかった。

「お前がやれると言うんなら、やれるんだろう。でも、無理だけはするんじゃないぞ?」

 そう言ってくれた。信頼されているんだなー、ってなんだか嬉しい。と思ったら……

「その代わりしばらくは俺が先生だな! 医者の仕事は、緊急以外は助手に任せて、俺はサフィの選任教師だ! これでも一応当主として貴族教育は受けているんだ。お父様に任せなさい!」

 なんて言い出した。
 すると公爵が慌てたようにこう口を出してきた。

「いや、ゲイルにそこまでさせるのは……。今度こそ私がよくよく吟味ぎんみした教師を……」
「「は!?」」

 俺とゲイルの声が見事にかぶる。ゲイルが氷点下の視線を公爵に投げた。

「いやいや、公爵様がよくよく吟味ぎんみして選んだ相手がまさかのアレだったんですよねえ? 吟味ぎんみって言葉の意味を理解してます? てか、ここは父親である俺に任せておけばいいんだよ! フィオ、お前は黙ってろ!」
「……」

 何も言えない公爵。ゲイル……強すぎません?
 にしてもフィオって公爵のこと? いきなり言葉が崩れたね。元々はこんな感じだったのかな? フィオって呼ばれて公爵はちょっと嬉しそうだった。が、そこはまあ触れないでおこう。
 勝ったとばかりに満面の笑みを浮かべたゲイルに、俺は言った。

「ダメ! ゲイルはお仕事しなきゃでしょう! お仕事したらここにかえってきて。ぼく、ゲイルじゃないせんせーでよき。ゲイル、おいしゃさん。あと、りょうしゅ。お仕事をしてね!」
「サフィ……。お父様、教えるのもとっても上手だぞ? お父様が先生なら、勉強の間もお父様と一緒にいられるんだぞ?」
「でもダメ。お仕事、だいじ」

 上目遣いで訴えても、ダメなものはダメなのですよ。それにしても「オッサンの上目遣いなんて」と言えない破壊力があるのが、ゲイルのすごいところだ。俺、オッサンにメロメロにされてしまいまする。ゲイルってば無駄に顔がいい上に、その威力もわかっていらっさるのですもの。
 そりゃあ俺だってゲイルに教えてほしいよ? でも俺、負けない。ゲイルのためだもん。ゲイルにはきちんと仕事ができるカッコいい大人でいてほしいの。だから、俺は胸の前で腕を組み、断固とした態度を示した。

「お仕事ちゃんとする、カッコいいゲイルがすき。だからお仕事して!」

 俺の言葉にゲイルがグハアと胸を押さえ、「仕方ねえなあ」と大きくため息をついた。

「……フィオ。教師の手配は任せる。だが、サフィに会わせる前に必ず俺が面接するからな! 信用していないわけじゃねえが、何しろ、あのサド教師……失礼、とんでもない教師という前例があるからな……。お前、昔っからどっか抜けてやがるんだよ」
「わかった。今度こそしっかりと吟味ぎんみするつもりだ。ゲイルさえよいのであれば、サフィラスの前に必ず会わせよう」

 そう言った後、公爵はおずおずと俺に確認。

「……サフィラス、それでよいか?」

「よきです」と俺は素直に頷いた。だって公爵、俺の意見を聞いてくれた! うん、よくできました。失敗を繰り返さないの、大事だよ、公爵。
 こうして平和に貴族教育再開の打ち合わせは終わったのだった。


(主にゲイルが)すったもんだした末に、俺の貴族教育は再開された。教師として選ばれたのは、俺と同じ緑の目に茶味がかった金髪の二十歳くらいの男性だ。一目で高級品だとわかる服を身にまとっており、その立ち居振る舞いにも品がある。いかにも高位貴族という感じ。でも……チャラい! 具体的に何がとは言えないんだけど、でもなぜか致命的にチャラい! それに、この人も顔がいい。とにかく顔がいい。なんか……なんか……ゲイルに似ているんですけどおおおおお?
 教師は目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべている。眩しい! 顔面攻撃力も半端はんぱない! しかもいきなり両手で俺の手を握り、ぶんぶんと振り回してきた。

「はじめましてサフィラスくん! 僕はね、エリアス・サフィールと言います。僕もサフィなんだよ? サフィラスくんと一緒だね! というよりも、サフィラスくんの名前がうちの家名からつけられたんだと思うんだけど。姉さんったら家族が大好きだからさあ!」

 テンション高っ! この人、すんごいぐいぐい来るんですけど? って、姉さんってもしかしてお母様のことだったりします? てことはこの人、もしかしなくても俺の叔父さん? ゲイルが言っていた、現侯爵家ご当主様じゃん! 嘘でしょ! なんでご当主自らこんなとこに来ちゃってるのーっ!! てか、俺の教師ってどゆことーっ!? ゲイルに次いでエリアスまで! みんなこっちに来ちゃって大丈夫なのですか侯爵家っ!!
 侯爵家と公爵家とのあまりの温度差にくらくら。怒涛どとうの展開に頭がついていかない。だけどもとりあえずご挨拶。挨拶、大事!

「……はじめまして。サフィラスです。サフィとよんでよきです。……エリアスおじさま?」

 言ったとたん、エリアスの顔がぱあああ、と明るくなった。


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