上 下
119 / 388
第二話

戦いが終わって<Ⅰ>

しおりを挟む
 例の羽のない輸送機みたいな建物の部屋に通されていた。

 ここって綺麗だけど、何度見ても殺風景だよな。
 彼らは飾り付けるといったそういうのにあまり興味がない種族なのだろうか。

 とりあえずおぶっているデルを先に座らせる。

「あ、ありがとう……」

「気にするな。身体は大丈夫か?」

「う、うん、頭の方は大分良くなってきた」

「そうか。よいしょっと、ふう……」

 椅子に座ると同時にやっとひと落ち着き出来たと感じたのか思わずため息が漏れてしまう。

「やべえ……一気に疲れが出て来たかも」

「そうかもしれませんね、わたくしも少し気を緩めると直ぐに眠ってしまいそうです」

 セレーネは隣に座ったが、俺と違い姿勢を正したままだった。

「俺は、なんでもいいから飯が食いたいよ」

「おまたせー」

 俺の言葉を聞いたからではないだろうが、奥からお盆にご飯を載せた紋様族の女の子達が次々と運んでくる。

「うおぅ!?」

 料理は先ほど獲ってきたという猪みたいのの肉を焼いたものと豆がいっぱいだった。
 この世界って豆が好きだよね。

「しかし……お、お肉……ごくりっ」

 それでも腹が減っている俺にとってはどれもごちそうに見えた。

「た、食べても?」

「もちろん、どうぞどうぞ」

 カトリナの声と同時に俺は手が勝手に動き出していた。

「おっと……ではいただきます」

 勇み足で手が出たが、それでもいただきますを言う俺は典型的な日本人であった。
 そして俺とセレーネは、むしゃむしゃと食べ始めた。

「うまいっ! 肉っ凄えうまい!!」

「新鮮だからなのでしょうか。お肉が柔らかくて美味しいです!」

 食べ続ける中、デルとカトリナは見ているだけだった。

「二人は食べないの?」

「私達はこっちで大体十分なんだよね」

 先ほどデルから一欠片貰ったバランス栄養食を取りだしてそういった。

「ぼ、僕だって大丈夫だよ」

 カトリナは本当にそれっぽいが、デルの方はなんかウソっぽい。

「全然大丈夫に見えないんだが」

「そ、ごく……そんなことないって」

 生唾を飲みながら料理をガン見で否定しても全く説得力がないのだが。

「無理せず食べていいんじゃないのか。お前だって功労者だって言われてたんだし別に怒られないと思うが」

「え、い、いいの? だってこれはお客様の分だし」

「わたくしには少々多いので出来ればデルにも食べていただけると無駄にならないかと」

「ほんと!?」

 そのままデルはカトリナの方を見る。

「うーん、勇者さん達がいいって言ってるからいいんじゃない? でも少しは自重しないとダメだよ」

「うんっ! いただきます! あむっ……んー! 美味しい!」

 何とも幸せそうな顔で食べるデルだった。
 やはり食事はそうでなくては。

「おや、お食事中だったかい」

 3人で食べていると族長が入ってきた。

「ほう、さすが人間の食欲は凄いものじゃのう」

「あっ……」

 族長に気付いたデルが手に持っていた肉を戻して慌てて口元を拭う。
 それはさすがに無理があるだろ。しっかりと族長に見られてるし。

「やれやれ……勇者殿の了承は得ているのだろうな」

「は、はい」

「全く、しょうのないヤツじゃの」

 デルは、そーっと手を伸ばして口を付けた肉を取ると食べ始めた。

「お二方、少し話しよろしいかの? もちろんそのまま食事を続けたままで構いませんので」

「構いませんよ」

 俺の言葉に笑顔で返すと族長は優雅に俺の対面の席に座った。

 なんでだろうな。他の紋様族と同じく子供のような身体つきなのに、仕草一つ一つに妙な色気を感じてしまうのは。

 だが彼女をよく見ていると、なんとなく顔が少しやつれてるように見えた。
 こんな環境で一族の代表をしていれば、それなりに気苦労が耐えないのだろうか。

「それでお話というのは?」

 一旦食事を止めて、族長の方を見ながら話を聞く姿勢になる。

「そうじゃのまずは、このようなところに勇者殿は何しをしにやってきたのかの?」

「それは……うーん、なんと言えばいいか。話の流れというか気がつけばこうなっていたというか」

「ほう、それはまた何とも難儀な話のようじゃの」

「勇者さんは、この世界に降りたってまださほど経っていないそうです」

 カトリナが説明するが、地上に降りている期間は合計で2週間くらいか。

「なるほど、どうやら普通の勇者ではないようじゃの」

「私もそう思う! 凄く良い人なんです」

「そうか、いずれにせよ話の分かる御仁なのは大助かりじゃ」

「そうなんですか?」

「ほら、なにせ我らのこの紋様は今の時代の人間には異様に見える様で邪悪な生き物と思われているからな。エルフやドワーフ達と違って何かと討伐対象にされがちなんじゃよ」

 どうして、こんな子供みたいに見える種族を殺そうとするんだ?
 性格的にも穏やかだし、知的レベルもかなり高い。

 何かしら、古くからの因縁関係でもあるのだろうか。

「皆さんも結構難儀そうですね」

「なに、もうそこは慣れておる。ここ100年くらいずっとそんな感じじゃし」

 軽い感じに100年とか言っているが、それって昭和と平成を合わせたくらいの年月だろ……。
 その間、この族長はずっと生きているってことなのか?
しおりを挟む

処理中です...