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第二話

骨抜き作戦<Ⅱ>

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「全く、何処に行ったんだよ」

 デルはドーム内をくまなく探してみたが見当たらない。

「そうなると……やっぱり温泉かな……」

 慌てて地下に向かって走り出した。

「こ、こら! いい加減に!」

 温泉に向かう洞窟の奥から、紋様族にはない低い男の声がこだましていた。
 デルはその言葉の意味を察して、より脚を速めた。

「勇者さんはキスが凄く上手なんだよー……ねえねえ、ちゅーしよ?」

「作戦は中止だから!」

 デルは辿り着くと同時にそう叫んだが、床に寝かされた新たな主に群がる女の子達という構図だった。

「って、なにやってんだ!」

 うっとりとしたカトリナが勇者に顔を寄せてせがんでいた。

「え、だから勇者さんを骨抜きにする作戦を実行中だよー。あ、もしいかしてヴェンデルも一緒にしちゃう?」

「それは中止! 中止だから!」

 慌てて止めに入るデルに不満そうな顔を見せる紋様族の少女達。

「えー、そうなの?」

「でもでも、ここまで来たんだし……」

「主様も続きをしたいよね? ね?」

 ちなみに俺の頭の上にはお尻が乗っていてそれで口を塞がれているので何も言えず、もごもごと声にもならない音を出すだけである。

「あんっ! くすぐったいってばぁ」

「ちょっと、主様そんなに暴れたら、ひゃんっ!」

「そんな触るんだったら、もっとちゃんと触ってぇ……」

 キャッキャと楽しそうな紋様族達に、デルはわなわなと怒りをこみ上げていく。

「止めなさいっ!」

「わあ、ヴェンデルが怒ったぁ」

「ちぇー、なんだよー」

「せっかく楽しくなってきたのにぃ……しょーがない」

 デルの一喝により俺の上に乗っていた女の子達が次々と降りていく。

「はいはーい撤収だよー、勇者さん半端でゴメンねー、でももししたくなったら何時でも言ってねー、みんなでいっぱいしてあげるから」

 カトリナが他に不満そうな子達を引き連れて去って行くのだった。

「全くもう……」

 ため息を漏らすデル。

「はぁ……助かった……」

 なんとも甘ったるい空気から脱してホッとした。
 本来なら、これだけのハーレム状態は嬉しいはずだけどさ。

 あれだけの娘に囲まれて、もし暴発なんてしようものなら重度のトラウマになって二度と3次元の女の子と会話すら出来なくなってたかもしれない。

「何時まで寝てんのよ。……ほら」

 そう言って手を差し出してくれるデル。
 その手を取って立ち上がる。

「ありがとう助かったよ。それにしても酷い目に遭った……」

「その割には抵抗していなかったみたいだけどね」

「ヘタに力づくで退けようとして怪我でもさせたら可哀想だろ」

「ふーん、まあ……そーかもね」

 明らかに信じていない顔をしている。
 そんなデルのふと見て気がついたが、なんて格好をしているんだ。

 彼女以外にも紋様族は元より薄着というか手や脚はもろに露出した格好をしているが、今着ているのは胸元と腰回りだけを覆っているだけで、それも薄らと肌が透けていてもはやほとんど隠す気がないような代物だった。

 無駄な贅肉のない身体に薄らと見えるお尻や色素が薄めのぽっちがなんというか……裸よりもエロスを感じてしまう。ああ、なんて眼福眼福。

「ちょっと……、一体何処を見ているのよ」

 デルが俺の視線に気付いたらしい。

「その格好で見るなと言われてもだな……」

 その言葉に彼女は手で胸元を隠すと、薄らと桜色の紋様が浮かび上がった。
 どうやら恥ずかしいらしい。

「し、仕方がないでしょ! これは族長命令だったんだから!」

「そうなのか? あ……もしかしてこれまでの全部って、そういうことか!」

「そうよ……あんたをこの里にずっと置いておきたいって、でもさっき族長から中止の命令があって……」

「なるほどな……」

 骨抜き作戦ってそういうことか。
 気持ちいい思いをさせて、俺をこの里から出さないつもりだったのか。

「さすがにその作戦は穴だらけじゃないか? セレーネだっているんだし、それに巨乳好きだったらどうするんだよ」

「そんなこと知らないわよ。ただ族長が主様はみんなで裸になって迫ればお優しい方だから無碍に出来ずずるずると流れるだろうって」

「ぐぬ……」

 否定出来ないところがなんとも。確かにあのトラウマがなければ、あれだけ可愛らしい子達に囲まれたらあっさり轟沈していたかもしれない。いや、してたな。

 それにしても……デルって結構あるんだな。あくまでも紋様族の中でって話だけど。

「って、だからなんでずっと見ているのよ! 悪かったわね似合わない格好で!」

「いや、似合っていると思うぞ、なんていうか……凄くセクシーって感じ?」

「ば、バッカじゃないの……って、なにしてんのよ!?」

 顔を真っ赤にさせ紋様が濃いめのピンクになりながら怒りながら、俺の下半身の方を指差していた。

「え? うおっ!?」

 そこには素っ裸のあげくにいきり立っているヤツがいた。

「こ、これ……ま、まさか……ぼ、ぼ、僕で……って、な、なんてものを見せるのよっ! あほぉ!!」

「ぐえっ!」

 まるでマンガやアニメのような展開だった。久々に見たぜ……暴力ツンデレ。
 それにしてもなんて綺麗な回し蹴りなんだ。思わず見惚れてしまって避けられなかったぜ。
 あ、いや決して可愛らしいお尻に見とれていたわけじゃ……なんて思っていたら、俺の身体は吹っ飛び、ついでに意識も吹っ飛んだのだった。

「あ……」

 ぼちゃーん!!

 思わず勢いで蹴ってしまったが、まさか当たるとは思ってもみなかった。
 いつも紋様族相手だとあっさり避けてしまうのだが、どうやら人間は避けらないらしく綺麗にヒットして吹っ飛ばしてしまった。

 新たな主は温泉にそのままお腹を打つように激しい音を立てて着水するとそのまま沈んでいった。
 そしてそのまま浮かび上がってこない。

「あ、あのさ……いきなり蹴って悪かったって、ふざけてないで出て来なさいよ」

 そう話しかけるが、浮かび上がるどころか泡一つ上がってこない。

「ちょ、ちょっと?」

 やっと浮かび上がってきた主はうつ伏せになったまま全く動かなかった。

「うそ……?」

 そしてそのまま再度沈んでいく。

「ちょー! うわっ!? うわっ! うわぁぁ!!」

 彼女は自分の主を温泉に沈めてしまったのだった。

「やっちゃったー!?」
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