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第四話

正規ルート再開<Ⅱ>

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「この!」

 どんっ!

 デルが魔術師を蹴っ飛ばすと触手が空を切る。ように見えたが彼女のローブの一部を溶かされてしまう。

「ああ! これ買ったばかりなのに!!」

 メチャクチャに動く触手を避ける新米冒険者達、だが避けることに必死でロープで囲っているあの魔方陣に気付かず、俺様男がそこに足を踏み入れてしまう。

「バカー!」

 すると魔方陣が光り出し、来た道以外の出入り口にシャッターが降りてくるように塞がると、天井から骨の塊が落ちてきた。

「な、なに!?」

 その骨の塊は組み上がるようにボーンゴーレムとなって現れた。

「こんなときに! ふざけんな!」

 デルが魔法を使おうとする。

「駄目だ! ここじゃ失敗する!」

 敵味方入り乱れての状態である。しかもこの分類不明生物にどれだけ魔法ダメージが与えられるかも分からない。
 デルの広範囲系魔法だと味方にも被害が出てしまう。だがファイアーショットやマジックアローだと一発タイプしか出なかった場合ローパーしか倒せない。

 幾ら最弱のモンスターであっても、既に武器を失っている俺様男にMPがない魔術師、そして四方八方から囲まれた状況では女戦士一人で敵を全て相手にするのは無理な話である。

 ここは広すぎる……そうか来た道戻って敵を一方向に絞ればデルの魔法でいけるか。

「戻るんだ! 来た道を駆け抜けて戻るんだ! デル先に行ってくれ!」

「いいの!?」

「お前の魔法が必要なんだ!」

 デルは溶けたローブを脱ぎ捨てると、廊下に向かって走りだすが途中の邪魔なボーンゴーレムを豪快な跳び蹴りで吹っ飛ばす。いつもながらワイルドな魔術師だな。

「戻れ! 戻って逃げるんだ!」

 デルが拓いてくれた道を走る。すると新米冒険者達もそれに習って追従してきた。
 だが俺様男だけはパニックになったのか、魔方陣のところで脚が止まっていた。

「私に任せて!」

 女戦士が駆け寄ってパニックになっているそいつを思い切り殴った。

「何してんの! こっちよ早く!」

 我に返った俺様男は一目散に走り出した。

『一つ前の部屋にまで戻ったけど、こっちも出口が塞がれている! これ以上逃げられないわよ!』

(大丈夫だ。デルの魔法さえあればどうとでもなる)

『そうなの? じゃあ僕はどうすればいい?』

(全員そっちに向かっている。モンスターを一方向に絞れば数が多くても倒せるだろ)

『そういうこと……分かった。とにかく全力でこっちに走って!』

 なんとか部屋に戻るとデル以外にバンダナ盗賊、魔術師は既に部屋に辿り着いていた。
 後は女戦士と俺様男が来れば……。

「どうするんだよ!? こんなところにいても……」

 バンダナ盗賊、いや既にバンダナが溶けて普通の盗賊になってるけど。焦っているが説明している暇などないので無視をする。

 あまり他人に見せたくはなかったがこうなって仕方がない。
 俺はデルに黙って首を縦に振る。すると彼女も軽く縦に首を振ると白い紋様が浮かび上がる。

「なんだ……?」

 珍しいのかそれを見て驚いた顔をする魔術師。

 通路から女戦士と俺様男が必死になって走ってくるのが見えると、直ぐ後ろにローパーとボーンゴーレムが追いかけてきているのも見える。

「二人とも伏せて!」

 デルが大きな声でそう叫ぶ。
 パニックの俺様男は聞こえていないのか走り続けようとして、女戦士が自身ごと無理矢理伏せさせた。

「“サンダーボルト”!」

 デルは二人が伏せるのを確認すると両手を前に出して呪文を唱える。
 手の先からはバチバチと音がして放電したように物凄い光が走る。

 バチバチッ! バチン! バチバチッ! バチン!!

 巨大な放電がモンスターをことごとく襲う。
 ボーンゴーレムは光に触れるだけで爆発したかのように身体を四散させ、ローパーも触手に当たるだけで感電したように震えて動かなくなる。

 バチバチッ! バチン! バチバチッ! バチン!!

 放電は数秒に渡って続き、あっという間に骨人形の集団は消え、最後の方は残ったローパーに全て喰らわしていく。

 バチンッ!

「……ふう」

 放電が終わった後、そこには真っ黒焦げになった巨大な塊だけが残っていた。
 プラスティックが焼けたような臭いが充満する。ローパーが焼ける臭いはあんまりいいと言えるモノではないんだな。

 あまりの出来事にその場の全員が言葉を失っていた。

 伏せていた二人が音が止んで顔を上げる。後ろを恐る恐る見るとそこには巨大な消し炭だけが残っていた。

「ひぃぃ!!?」

 だが意味が分かっていないのか俺様男は、恐怖に陥ってこちらに向かって走ってくる。

「何してんだ馬鹿野郎!」

 其奴は前が見えていないのか。その先にはデルが居てその後ろ、部屋の中央には怪しい魔方陣がある。

「くっ……」

 半狂乱になったそいつは俺の制止など全く聞かず脚を止めようとしない。デルは魔法を使った直後でMP欠乏症で足取りも怪しい状態である。

「この!」

 俺がなんとか割って入るが体格差は歴然で俺の身体ごと押し込まれ結局デルも巻き込んでしまう。今ばかりは自分の身体が子供であると実感する。

 そして魔方陣に倒れ込むように触ってしまう。

「馬鹿野郎! ふざけ……」

 魔方陣が光り、ふざけんなよと言い終わる前に俺の身体は消えてしまうのだった。
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