青春クロスロード ~若者たちの交差点~

Ryosuke

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第6章

一日千秋⑩ ~白熱と熱狂の3on3~

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 基礎練習を終えて男女別れてコート半分ずつ使いシュート練習や連携の練習を終えると時間は夕方5時になるところだった。ここで一端5分休憩を男女ともに取ると男バス部長の尊と女バスの部長の忍と副部長の歩が次の練習について話し合いをしていた。

「それじゃ、予定通りこのあとは試合に向けて男女ともに3on3をやる流れでいいか」

「うん、それで大丈夫だよ」

「ありがとう。済まないな。ウチは人数ギリギリだからボール拾いは女子から出してもらっていいかな」

「もちろんそのつもりだよ。そこまで気にしなくて大丈夫だからさ。お互い試合に向けて頑張ろう」

 尊の言葉を忍と歩は快諾し、それぞれ準備をし始めていた。

 尊が気にしていたのは3on3をする場合の補助員の人数不足のことだった。男女ともにハーフコートを使い試合をする場合、審判と得点係の他にもコートの間にボールが転がり、反対側での試合に邪魔にならないようにボールを拾う係が2人、それに加え体育館にネットを張り二分割して使用している関係もあり、隣のバトミントン部に迷惑を掛けないようにネット際にも常時ボール拾いを配置しながら練習をする必要があるため部員が現在8人しかいない男子バスケ部は女子バスケの協力がなければ、安全に練習が出来ないこともあり、毎度このやり取りを経て尊は忍達に頭を下げて協力を仰ぐのであった。

 試合時間は10分やって、2分休憩し、さらに10分試合するのを1セットとし、メンバーを入れ替えてそれを3回繰り返す流れだった。メンバーは尊、大和、一の2年3人に1年の岩田と中林の5人のレギュラーが出ずっぱりとなり、残りの二郎と1年の控えメンバーである小柳と大城が1セットずつ試合に出ることになった。レギュラー陣にとってはかなりハードな練習となるが、日曜日の練習試合でも一日4試合する予定となっており、今のうちに疲労した状態でも動けるようにする対策としてこの振り分けとなった。

 1セット目は2年と言うこともあり、二郎がレギュラー陣の5人に加わり試合に参加することになった。チームは尊、二郎、中林の3人と大和、一、岩田の3人に分かれ始まった。
 最初の10分は両チーム拮抗して尊チーム10点、大和チーム12点だった。二郎も何とか最初の10分は最低限の役割を果たし1本シュート決めてそれなりの役割を果たした。ところが後半に入り5分程経過した頃には徐々に疲れが見え始め二郎のマークが甘くなったところを大和チームが上手く突き、あれよあれよと得点差が広がり終わって見れば19対26で大和チームに軍配が上がった。

「おい、二郎さぁ。お前いくらなんでもスタミナ切れるのが早すぎるだろう。もうちっとやれると思ったのに、日曜日もこれじゃやっぱり控えだな」

 大和、一、岩田の3人に圧倒され悔しがる尊は大の字になって転がる二郎に文句を言うと二郎が自身の失態を棚に上げて肩で息をしながら言った。

「はぁ~、はぁ~、バカヤロウ。俺の華麗な3ポイントシュートを見なかったのかよ。完璧だっただろう、あれは、はぁ~まったくマジで疲れたわ」

 そんな事をわめく二郎に、それなりに汗をかくもまだまだ問題無いと言った様子の大和と一がお灸を据えるようにキツい言葉を投げかけた。

「バーカ、そんなバテバテで40分フルタイム戦えると思ってのか、お前は。それにディフェンスがあれだけザルじゃ、3ポイント一本決めた位じゃ割に合わないぞ。今のままじゃ良くて第2クォーターの途中で交代だわ、アホ」

「全くだわ。普段サボってばかりだから、スタミナ切れするんだぞ。これに反省して今後はしっかり練習に出るようにするんだな、二郎」

「クソ、負けたから何も言い返せないぜ。尊、お前がもっと点を入れてりゃボロクソに言われずに済んだんだぞ。こんにゃろめ」

「こんにゃろはお前だ、アホ。途中からお前の足が全然動いてないからこっちのマークがキツくなったんだわ。まったくその減らず口みたいに足ももっと動かしてみろ、バカタレが!!」

「ッぐはっ!!このやろう~」

 大和と一に怒られヤケクソになる二郎は尊にその責任を押しつけようと無茶を言うも、ド正論を突きつけられ、寝転がっているところにボールを腹に落とされて悶え苦しむのであった。

「よし、アホは放っておいて、10分休憩の後は二郎に代わって次は小柳が入ってくれ。最後のセットは大城がやるからそのつもりで頼むぞ」

「うぃーす」

 そう言って2セット目が始まり、二郎は後輩の大城に審判を任せて、ネット際のボール拾い兼得点係に付くことになった。

 試合が始まりしばらく外野から試合を見ていた二郎は、反対側コートの女バスの方に目線を奪われていた。そこでは男バス以上に白熱した3on3が繰り広げられていたからだった。
 
 現在女子バスケ部は13人の部員がおり2年6人、1年7人の計13人のメンバーがおり、校内でも注目を集める部の一つだった。それは校外でも実力が認められて、私立の強豪高校でも名を轟かせている忍の存在があったからだった。忍は高校一年の夏の時点ですでに当時の3年生に交じりレギュラーに選ばれており、チームは大会でも2回戦敗退だったが、相手が都でベスト16位入った強豪高校相手に孤軍奮闘して爪痕を残したことから、忍の存在は一部の女子高校バスケ界隈で名を上げることになったのだった。それに加えて、背は低いも抜群の運動神経を持つ歩も1年の終わりには2年生を押しのけてレギュラーに選ばれるほどの実力をつけて、琴吹高校の成田と神部は要注意と認識されるようになった。さらに相乗効果として2人がバカが付くほどの練習の虫であったせいか、同学年の部員達もそれに釣られて練習に打ち込むようになり、歴代の琴吹高校女子バスケ部の中では間違いなく最強のチームとして2年の秋を迎えることになっていた。

 忍、歩以外の4人のメンバーを紹介すると1人目が173センチの忍に次ぐ長身でセンターの岩田冴子。実は男バス1年の岩田の実姉で男バスの連中からは岩田姉と呼ばれている。冴子は忍のように小学校の頃から友達よりも背が高く、その頃からミニバスケに入っていた事もあり、センター以外のポジションも出来る。実力も申し分ないレベルでチーム内の3番目の実力者だった。忍、歩、を含めた三人は不動のレギュラーとしてチームの中心選手である。

 2人目が丸山瑠美で、170センチの長身で中学からバスケを始めており基礎はしっかり出来ているが、冴子のように器用なタイプではなくゴール下に張り付いてポストプレイを得意とするタイプであり、その点冴子と比べると見劣りするが、センターとしては十分な戦力だった。

 3人目がシューティングガードの田村明奈で、身長こそ165センチで女子バスケの選手としては並だが、とにかく頭が良く視野が広く器用に何でもこなす万能タイプの選手であり、ガードからスモールフォワードまでこなすマルチプレイヤーだった。

 そして4人目が伊達藍子で、性格は大人しい真面目なタイプだが生粋のシューターであり、身長こそ160センチでチーム内で歩と並んで最小の選手であるが、とにかくロングレンジからのシュートを得意としており、チーム内の点取り屋の忍の次に得点力のある選手だった。

 そして現在この6人が日曜日に行われる練習試合に向けてガチンコ3on3を繰り広げているのであった。

 チームは忍、明奈、藍子と歩、冴子、瑠美に分かれて試合をしており、一進一退の白熱した展開となっていた。

 6人はそれぞれに課題をもってこの練習に臨んでいた。

 忍はとにかく他の5人と比べても頭一つ実力が抜けているため、試合において最も厳しいマークをつけられることと、代わりがいない事もあって最後までバテずに戦えるスタミナとペース配分を意識してプレイをする事としていた。

 明奈はマッチアップする歩をいかに出し抜きチャンスメイクするか、点取り屋の忍と藍子をどう上手くいかしてゲームメイクするかを重視した。また藍子は普段スクリーンアウトを積極的に掛けてくれる冴子や瑠美がいない中でいかに自分からフリーのタイミングを作ってシュート体勢に持って行くかを目標としていた。

 対する歩はゴール下のインサイドプレイを得意とする冴子と瑠美がいる中で、攻撃のバリエーションをどうやって作るか、冴子は自分よりも背が高くジュンプ力もある忍をどう抑えてシュートを楽に打たせないかを重視し、瑠美はゴール下以外でも得点できるように攻撃にバリエーションを持つ事を目標としていた。

 このようにそれぞれが個々の目的を持ってプレイする中でも、やはり練習でも勝ちたいという思いは6人全員もっており、それぞれの意地と意地がぶつかり合う壮絶な打ち合いとなっていた。

 そのなかでも一番目立っていたのはやはり忍だった。明奈の絶妙なパスに反応した忍はゴール下を堅く守る冴子と瑠美のダブルチームの厳しいマークを振り切り、左サイドから大きく踏みきり一気に右サイドまで移動すると思い切り踏みきってゴールに背を向けた状態でレイアップを決めるのであった。

 それを見て居た一年の女バスの後輩や隣で休憩をしているバトミントン部の生徒達がわーっと歓声を上げた。

「うぉ、飛ぶな~」

「すげー、反対側から決めたぞ!」

「きゃ~!忍先輩カッコイイです~♡」

「やはりお前が一番だな」

 そんな思い思いの感想を述べるギャラリー達の中で、二郎がいるネットの反対側のバトミントン部の男子が数人固まり話す声を二郎は聞いた。

「やっぱり成田いいなぁ。マジで惚れるよな」

「そうか、俺はなんか気が強そうでちょっと怖いわ」

「バーカ、確かに部活やっているときは真剣な顔でおっかなそうだけどな、ああやって点を決めたときにたまに見せる笑顔がまた溜まらないんだよなぁ。まぁ長い間、成田のことを隣で見てきた俺にしか分からないことだがな」

「隣で見てきたって、そりゃ隣で部活していただけで、まともに会話もしたことないだろ、お前」

「う、うるせい!先週土曜の部活の時に朝の挨拶をしたぞ、凄いだろう」

「あぁ、凄い凄い良かったな。憧れの成田と会話が出来て」

「あぁ~全くお前達は分かってないな。俺は断然、冴子ちゃん推しだぜ。彼女ってあんだけ図体がデカい割に普段は結構天然でめちゃ可愛いんだぜ。身長も俺とほとんど変わらないけど、やっぱり女の子でさ、すげー乙女なんだよな。分かるか、この冴子ちゃんの可愛いさが」

「バカヤロウ!ギャップ萌えだったら伊達ちゃんが一番可愛いだろうが!あんなに大人しそうな彼女がすぱすぱ3ポイントシュート決めてすげーカッコいいんだぜ」

 馬鹿話に華を咲かせる野郎達の後ろで二郎は1人毒づいていた。

(バカかこいつ。忍が本気で笑顔を見せるのは自分のシュートが決まった時じゃなくて、仲間のシュートが決まった時だっての。何を今まで見てきたんだ、このバカヤロウは。それに岩田や伊達も悪くいないが、常識的に考えて断然女バスの中じゃ忍が一番まともだろうが。アホかこいつら。全員まとめて説教してやろうかな)

 何故かよく分からないが二郎はイライラを募らせながら女バスの試合に目を向けていたところ、今度は男バスのコート側で試合をしている一がこの日一番の綺麗な弾道を描いた3ポイントシュートを決めるのであった。

 二郎もそれを見るや自然と言葉が溢れた。

「ナイッシュー」

 そして今度は女バスの一年とバトミントン部の女子達の中で黄色い声援が飛んだ。

「きゃー!一ノ瀬先輩かっこいい~」

「凄い3点シュートだ。さすが一ノ瀬君!」

 そんな声援の中で二郎は思わぬ言葉を拾っていた。

「だから優子がもっと早く告白してれば良かったのに。今頃優子が一ノ瀬君の彼女だったかも知れないのにもったいないな」

「そんなこと言ったって、里香だってまさか全くノーマークの橋本さんに持って行かれるなんて考えてなかったでしょ。もう~どうして橋本さんなんかと付き合っちゃうのよ。一ノ瀬君のバカ~。でも、やっぱりカッコイイよ~」

 そう話すのは二郎のクラスメイトである高橋優子と加藤里香だった。二郎は春先の放課後の教室での一幕を思い出していた。

(あぁ~そういえばこいつらバト部だったな。春先の中間テストの前に確かエリカに勉強を教わっていて、急いで部活に行くとか何とか言っていたなぁ。そう言えばあの時は三佳が赤点の危機で関東大会に出られないかも知れないとか言って、ギャーギャーあいつらも騒いでいたなぁ。それにしてもまさか高橋の奴は一に惚れていたのか。一もすみれも気付いてないかも知れないけど、意外と近場に火種がありそうだわ。怖い怖い)

 そんなこんで男女バスケの3on3は色んな意味で盛り上がりを見せていたが、そんな時思いも寄らない出来事が起きるのだった。
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