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勇者、異世界に降り立つ

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翌日、セーラさん達は朝早くに起きると焚き火の後始末をして、寝床を綺麗に片付け始めた。

俺もそれに習い、自分の寝ていたところを綺麗にして荷物をまとめる。

といっても俺のまとめる荷物は小鬼の棍棒と本、それから貸してもらった予備の皮袋だけなのだが。


昨日、あれからセーラさん達に頼み込みユタムの街に戻るセーラさん達に同行させてもらえることになったのだ。

森を抜けて少し歩けばユタムの街にはつけるらしいが、肝心の森の抜け方が俺にはわからない。

それに、小鬼だけでなくオーガとかいう魔物の存在まで知った今、彼らと行動を共にできることは心強かった。


「なぁ、ハル。お前、一応戦力として考えていいんだよな?」


出発する前にこのパーティーのリーダーらしい戦士のハンクからそう聞かれた。

一人で旅をする以上、魔物と戦えないなどというと不審に思われそうだったので小鬼程度なら一人でも倒せると伝えておいたのだ。

彼らがそれをどう受け取ったのかはわからないが、俺の持っている小鬼の棍棒を目にしている以上「小鬼を倒せる」という部分においては信じてもらえただろう。


ハンクさんに聞かれて俺は頷く。
パーティーの連携とかそういうのはゲームの知識しかないが、これだけ人数がいれば後ろから数発小鬼を殴るくらいならできるだろう。


「そうか、じゃあ五人になったし遠回りはやめてオーガの巣を突っ切って行こう。その方が近道だ」

続くハンクさんの言葉に俺は耳を疑う。
強い敵と戦いたくないから彼らと行動を共にするのに彼らと行動を共にしたら強い敵と戦う可能性が高まるなんてありかのか?

そういえばセーラさんは昨日、「オーガでも四人いれば倒せる」と自信満々に言っていたがハンクさんの口ぶりからすると遠回りしてオーガを避けていたことになる。

ちらりとセーラさんの方を振り返ってみると恥ずかしそうに顔を背けていた。

どうやら強がって少しオーバーに説明していたらしい。


「あの、本当にオーガの巣を通って大丈夫なんですか?」


と恐る恐る俺が聞くとハンクさんは昨日のセーラさんばりに自信たっぷりに胸を叩いた。


「まかせろ、俺たち何回か四人でオーガを倒してるんだ。ただ、少し疲弊するからな任務終わりとかは遠回りしてるだけだよ。でも、五人いれば楽勝だよ。巣を通った方が早く帰れるし、そっちの方が楽だろ?」


と話すハンクさん。
昨日のセーラさんの話はオーバーすぎるというほどオーバーなわけでもないらしい。

ただ、四人が五人に増えれば余裕になるというのは余り納得がいかない。

たったそれだけでそんなに大幅に変わるものか?

というよりも、増えたその一人って俺だし。
まだ、自分がどのくらい戦えるかわからない若輩者なんですけど。


俺が「自分は戦力になるかわからない」と打ち明けるかどうか迷っていると耳元で治療術師のリーリャさんが「大丈夫だよ」と囁いてくれた。


「オーガは目の前に来た敵を狙うの。だからオーガの気をそらせるように動き回るんだけど、四人だと少し人数が少ないんだ。五人だとオーガも誰を狙っていいかわからなくなってすぐ目を回しちゃうから簡単に倒せるんだよ」


とこっそり教えてくれるリーリャさんのおかげで俺はようやく納得できた。

どうやら増える人間の戦力は対して関係なかったらしい。

四人なら追えるのに五人だと追えなくなるというのは疑問だが、俺の戦力は関係ないというのなら大丈夫だろう。

タタルさんとセーラさんもハンクさんの決めた方針に反対はしないようで、俺たちは五人でオーガの巣を抜けていくことに決まった。

リーリャさんがわざわざ俺に耳打ちしてくれるあたり、本当は俺が戦いに自信がないことはパーティーの人全員にバレていたのではないかと俺は少し恥ずかしくなった。

それから、もしも次似たようなことが起こったら自分や他の人の命に関わる事態になる前に正直に話そうと心に決めたのである。
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