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勇者、異世界に降り立つ
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しおりを挟む森を歩き、オーガの巣とやらに入った後もしばらくは平和な旅路であった。
昨日はあんなに襲われた小鬼にも全く出会わなくなったし、拍子抜けである。
そのことをハンクさんに聞いてみると、
「はは、まぁあいつらは自分たちより人数の少ない相手を獲物として襲うからな。五人ならそうそう小鬼に襲われることはないよ」
と笑っていた。
どうやら、この世界の魔物とやらには習性があるらしく冒険者はその習性を学んで上手く利用して魔物を倒す者達のようだ。
オーガの巣に入ってしばらく歩くと先頭を歩いていたタタルさんが足を止める。
弓術士のタタルさんは耳がよく、パーティーの索敵の要らしい。
そのタタルが足を止めたということは敵が近いということである。
そして、その音は俺にもすぐに聞こえるようになった。
ドシンドシンという大きな足音。心なしか足音に合わせて地面が揺れているような気がする。
森の中を猛スピードでかけてきたそいつは草木をかき分けて俺たちの前に姿を現した。
「ハル! 初めてみるオーガはどうだ? ビビんなよ」
弓を構えたタタルさんはそう言うが、ビビるなというのは無理な話である。
だが同時に俺はオーガの姿を見て納得していた。
リーリャさんの言っていた「四人だと少ないけど五人なら大丈夫」と言う言葉の意味がすぐにわかったからである。
オーガは赤い皮膚を持つ大きな体格の魔物だった。長身のハンクさんよりもさらに倍近く大きく、横幅も大きい。
特徴的なのは頭に生えた大きな角と目だった。
目が四つあるのである。
その目が四つともぎょろぎょろと独立して動いていて気持ちが悪い。
つまり、四人だとあの目に一人ずつ捉えられてしまうが、五人だとオーガの目が追いつかなくて目を回すそういう意味である。
魔物の特性を利用した見事な作戦に俺は妙に納得してしまい、そのおかげでビビる気持ちは半減していた。
「よし、お前ら! 走り出せ!」
ハンクさんの号令で俺たちは一斉に走り出す。
事前に打ち合わせた通りに五人がそれぞれオーガの目の前を横切り交差する形になる。
オーガは四つの目をぐりぐり動かして、それから意味があるのかは疑問だが首を左右に振って俺たちのことを追っていたが誰を追うべきかわからなくなったようだ。
目を回してふらふらになるとそのままストンと尻餅をついてしまった。
「よし。タタル、セーラたたみかけろ」
ハンクさんの号令でタタルさんが弓を引き、セーラさんは杖を構えた。
タタルさんは弓術士というくらいなのだから弓を使うのはわかっていてが、セーラさんが魔法使いなのは知らなかった。
タタルさんの放った矢はオーガの四つの目のうちの一つを射抜き、セーラさんは魔法で近くの石をいくつか持ち上げてそれを投げつけ、オーガの目を二つ潰した。
残るオーガの目玉は一つである。
オーガは流石にまずいと思ったのか、両手で残った一つの目玉を隠すように覆う。
「よし、ハル。トドメは任せた!」
ハンクさんがそう叫び、大きくジャンプして抜いた剣を振り下ろす。
目玉を覆うオーガの手を両方とも切り落として見せたのだ。
剣で切られる魔物というのは想像よりも迫力がある。痛みに叫ぶ姿も恐ろしく、普段の俺だったら目を瞑っていたかもしれない。
けれど、そこにはハンクさんの剣技の美しさもあった。
俺はそれに思わず一瞬見惚れてしまったのだ。
だが、すぐにそんな場合ではないと気がつく。
なにしろハンクさんに「トドメは任せた」と言われたのだ。
急なことで焦る俺だったが、何かしなくてはいけないという思いが働いた。
大慌てで小鬼の棍棒を振り上げてオーガに向かって走る。
しかし、ハンクさんのように高く飛び上がることはできない。
しかたなく、俺は振り上げた棍棒をオーガの足めがけて振り下ろした。
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