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勇者、領主に会う
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しおりを挟むベッドの上でまだ見慣れない天井を眺めながらこれからどうなるのだろうか、本当に俺に魔王が倒せるのだろうかなどと大雑把に考えていた俺は、その内にだんだんとうとうとし始めていた。
異世界に来てまで地球での休日のような自堕落な生活をしていいものか疑問はあるが、やることもなくただ天井を眺めているだけだと眠くなってくるのも仕方がない。
視界がだんだんぼやけてきて、気持ちのいい睡魔が俺を眠りに落としかけた頃、部屋の扉がノックされた。
最初は扉が叩かれたことに気づかなかったが、なんとなく意識がはっきりしてくると間違いなく扉が叩かれたような気がしてくる。
誰か来たのか、ハンクさん達は冒険に行っているはずだし他の知り合いはユクシムさんくらい。
ギルド長がなんの用事だ?
などと考えていると、もう一度部屋の扉が叩かれる。
今度ははっきりと聞こえたので、恐る恐ると扉に近づいていく。
一応、この宿は冒険者ギルドと提携しているだけあって安全面に最大の注意を払っているとのことだった。
不審な輩はまず入れないし、正当な理由がない限り部屋を借りている人の名前もどの部屋に泊まっているのかも明かさないらしい。
なので、扉を開けてすぐに襲われるなどということはないと思うが、それでも俺は用心して扉を開けるか否かで少し迷っていた。
すると、扉の向こうから声が聞こえてくる。
「ハル様、いらっしゃいますか? 冒険者ギルドの者です」
その声が聞き覚えのある人のものだったので俺はホッとして扉を開ける。
扉の向こうに立っていたのは思った通り、冒険者ギルドの受付の女性だった。
「おはようございます、ハル様」
最初に会った時と同じように事務的な態度で挨拶をする女性に俺も挨拶を返す。
もう昼近いくらいの時刻だったのに、「おはようございます」と言われたのは俺が宿屋に用意されていた寝巻き姿のままだったからだろうか。
「ハル様、領主様と会う約束が取り次げました。急で申し訳ありませんが、急ぎ用意をして冒険者ギルドまで来ていただけませんか?」
と言う受付の女性の言葉に俺は少し面を食らったが、領主と言うくらいだから忙しい人なのだろうとなんとなく事情を察する。
反対に俺は暇すぎて居眠りをしそうになっていたくらいなのだからちょうどいいと、申し出を了承した。
受付の女性が部屋を出て行った後、急いで服を着替えて顔を洗う。
洗面所のようなものは部屋にはなかったが、朝に宿の使用人が桶に水を汲んで持ってきてくれていたのだ。
残念ながら鏡のないこの部屋では身だしなみを完全に整えることはできないが、まぁ大丈夫だろう。
昨日街の店を回った時も鏡のような物は目にしなかったので、もしかするとこの世界には鏡の類のものはないかあっても高価なものなのだろうと推測していた。
自分の顔がどうなっているのかわからないのは未だ気になるが、そのうち何とかして確認できるだろう。
用意を済ました俺は部屋を出ていく。
部屋に鍵をかけてその鍵を宿屋の受付に預ける。
「ハル様、いってらっしゃいませ」
と宿屋の主人がにこやかに送り出してくれた。
一応、宿屋の主人にも俺が勇者だとは伝わっていないはずで俺はギルドの客人という扱いになっている。
宿屋の主人がとても丁寧に接してくれるのは俺がその客人だからなのか、それとも接客のプロだからなのだろうか。
宿屋の使用人達にも声を荒げているところを見たことはなく、常に優しい声色なところを見ると後者なのだろう。
そんなことを考えながら、俺は宿屋からそう遠くない冒険者ギルドへ向かった。
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