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プロローグ
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しおりを挟む少女に撫でられてご機嫌だった子猫だが、次第にぐずり始めた。
空腹に耐えきれなくなったのだろう。
「そうだった。この子のご飯を買いに行かねばならなかった」
二人の微笑ましさに我を忘れていた私の失態である。
急ぎ何かミルクを買ってあげねば可哀そうだ。
私は周囲をぐるぐると見回す。
商店らしきものがちらほらと見えるが、外見だけでは何を売っているのかわからない。
ええい、こんなことならば昔人間の勇者と旅をした時に「字」というものをしっかり教えて貰えばよかった。
ドラゴンには必要がない、ときっぱり断った昔の自分に腹が立つ。
「……ます」
微かに耳が何かを捉えた。
声だ。下の方から聞こえた。
視線を向けると少女が私の気を引こうとめいいっぱい背伸びをして両手をあげている。
なんだ、なんと言った?
「案内します! 私、案内します!」
子猫のおかげで私にも慣れたのか、少女は先ほどよりも大きな声でそう宣言した。
案内? どこにだ?
私は戸惑う。
正直、今はそんな場合ではない。
腕の中で子猫が盛大にぐずり始めているのだ。頼む、そんなに暴れるな。怪我をしてしまう。
「すまないが、今はこの子のミルクを……」
「ですから、私が売っているところに案内します!」
そう言うや否や少女は私の手を取って走り出す。
咄嗟のことに、私は片手で子猫を落とさないようにするのが精一杯で、力の弱い少女に引っ張られるまま街の中を走った。
♢
「突然、すいませんでした」
少女がそう言って頭を下げる。
場所は街の一画にひっそりと佇む小さな店の中だ。
少女が働いている場所らしい。
「最初に見かけた時から何かを探しているのはすぐにわかったんですけど、私説明が下手で……」
どうやら少女は最初から私を助けてくれようとしていたらしい。
上手く説明できず、私の手を引いて店まで移動するという行動に出たらしかった。
「いや、構わない。むしろ助かった。私だけではこの子を飢えさせてしまっていた」
私は彼女に礼を言う。
腕の中で満腹になった子猫がリディアに貰った毛布に包まって気持ち良さそうに眠っているからだ。
少女に連れられてきた店はどうやら魔法道具を売っている店らしい。
「お店なら魔法生物用の餌も置いているので、山羊のミルクを買うよりもずっといいですよ」
そう言って少女が持ってきてくれたのは魔法生物から搾ったミルクだった。
魔法生物とは魔力を有した知能の高い生物のことで、妖精猫のような種族には山羊のミルクだけでは栄養が不十分なようだ。
子猫は哺乳瓶に入ったミルクをゴクゴクと美味しそうに飲んだ。
そして、満腹になった途端にまた安心して眠りつき、今に至るというわけである。
「私、レンリと言います。この魔法道具店はお祖母ちゃんの店で、お祖母ちゃんがいない時には代わりに私が切り盛りしているんです」
まだ幼く見えるのに随分としっかりしている。
私は懐に手を入れて洞穴から持ってきた財宝をレンリに差し出す。
途端に彼女は目を丸くして、カバッと私の手に覆い被さった。
人間が金銀財宝の類に目がないというのは知っていたが、そこまで欲しいものだったか。
彼女の反応を見て私はそう思ったが、どうにもそういうわけではないらしい。
「ダメですよ、こんな大金をそんな簡単に見せびらかしたら」
レンリはそう言って私に財宝をしまう様に促す。
「この店は窓から中を見放題なんですから、一目につきます。大金を持っているなんて知られたら悪い人に目をつけられますよ」
「お代ならこれで十分です」とレンリは財宝の中から金貨を一枚だけ取り、残りは早くしまうようにと私を急かす。
人間の価値観は本当にわからない。
こんな硬いだけで食えたものでもないキラキラ光る鉱物が何故にそんな価値があるのか。
そんな疑問を頭に浮かべながら、私はスヤスヤと眠る子猫を優しく撫でた。
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