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極北の大地編

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第三の試練は深い水の底まで潜る単純なものだった。

第一、第二と同じような扉を潜ると小さい部屋がありそこに泉があった。

レオンが泉の中を覗くと透き通った水は見通しがよく、深く深く潜った先に通路のように穴が空いているのがわかった。

常人では息が持たず、辿り着けないような深さだったがレオンは機転を効かし、魔法で空気の塊を作りそれを頭から被ることで水中での呼吸を可能にした。

通路のある深さまで潜り、そのまま進んでいく。

一本道の通路は少し上り坂のようになっていてやがて水面にたどり着く。

火の魔法で濡れた服を乾かしながら、レオンはこの試練について考えていた。

第三の試練まで終えてみたところ、どうも簡単な気がしてならない。

「印」なしで動く石像や、「飛行」だけを封じる部屋などレオンが驚く要素はあったが難なく突破できてしまったことに疑問が残る。

ナシェンやリュウの話では無許可で挑んだもののほとんどは遺跡内で死んでしまうはず。

それなのに、ここまで遺体は一つもなかった。

本当にこれが試練であっているのかと不思議に思いながらもレオンが先に進むと「第四の試練」と書かれた扉が現れる。

その扉を潜ると部屋の四隅に大きな犬の石像が置かれていた。

第一の試練と同じように、石像が襲ってくるのではないかと身構えたレオンだったがそんなことはなかった。

動き出す代わりに、石像が言葉を発する。


「我ら犬神。貴殿の技と力を見せよ。」


石像が喋ったことにレオンは驚く。魔法で動くだけならまだしも、言葉を話せるなどとは思ってもいなかったのだ。

レオンから見て左の手前にある石像が話を続ける。


「我は『火』の試練。貴殿の力で暖めよ。」


レオンは魔法で火を作り出すと、それを石像に向けて放つ。

単純な方法だとも思ったが、技と力を見せろと言われた以上魔法を放つしか思いつかなかったのだ。

レオンが放った火が石像の周りで燃え続け、気温が上がり暖かくなる。

石像は「よし。」と偉そうにいうとそれ以上は何も喋らなくなってしまった。

次に隣の石像が言う。

「我は『水』の試練。貴殿の力で潤せ。」


これで合っているのかと疑問に感じながらも、レオンは同じ容量で石像の前に水を出した。

石像の前が水浸しになると、石像は再び「よし。」とだけ言って喋らなくなる。

レオンの予想通り、その次はまた隣の石像が喋り出す。


「我は『風』の試練。貴殿の力で循環させよ。」


言われるままに、レオンは魔法で風を作り出す。

部屋の中に空気の流れが生まれ、それが一通り循環すると石像は「よし。」と言った。

最後に残った石像が言う。

「我は『土』の試練。貴殿の力で大地を目覚めさせよ。」


一体何が試練なのか、と疑いつつもレオンは言われた通りにする。

それまで、魔法で土を作り出したことはなかったが要領は他の三つと同じである。

自分の魔力が変化し、土になる様をイメージする。

部屋の床からぼこぼこと土が湧き出して、石像の前で山となっていく。


「よし。」


最後の石像がそう言うと、部屋の奥にあった次への扉がゴゴゴゴと音を立てて開き出した。

「貴殿の力は証明された。最後の間へ進むが良い。」

四体の石像が声を合わせてそう言い、レオンは先に進む権利を得たのだった。

この第四の試練もレオンにとって簡単だった。

というよりも、ここまでの試練は大抵の魔法使いならば突破できる内容だっただろう。

不思議な思いを抱えつつ、先に進んだレオンはさらに不可思議な体験をすることになるのだった。
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