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第二王子救出編
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しおりを挟むそれは日が再び沈み、人々が眠りにつく時間帯。
長い夜がやってきた。
星と月の明かりに照らされながらレオンは上空から夜の王都を見下ろしていた。
周囲には誰もいない。レオン一人である。
マークやオード、ルイズ、クエンティンにも、誰にも何も言わずにレオンはオルセン侯爵の屋敷を抜け出していた。
見下ろす視線の先には王都の象徴でもある王宮が建っている。
街の中央に堂々と立つその姿、国民からすれば威風堂々たる存在で街から見上げることすらおこがましい建物だったがレオンの目にはただのハリボテのように見える。
魔力でできた黒い翼を羽ばたかせてレオンは王宮へと向かう。
今夜、全てを終わらせるつもりだった。
第一王子アーサーを急襲し、無力化する。
そして、この国をヒースクリフのものにするのだ。
なぜ一人なのかといわれれば、それは一重にレオンの優しさからくる行動だった。
捕らわれて衰弱しきったヒースクリフの姿を見てレオンは決めたのだ。
もう二度と、誰にも血は流させないと。
決して慢心ではない、慢心ではないがレオンには自信があった。
この国にいるどの魔法使いよりも強いという自信だ。
もともと魔法の才に溢れ、幼少期からの修練で人並み以上の魔法使いになっていた。
さらに五年前、そこに悪魔の力が加わった。
戦い、倒して取り込んだ悪魔達の力は使うことができないがレオンには自分を認めて力を貸してくれた存在「ファ・ラエイル」の魂がある。
その力を合わせた今のレオンは歴史上のどんなに偉大な魔法使いよりも強大な力を持っているといえる。
だからこそ、この戦いに動くのは自分だけでいいと考えたのだ。
上空から王宮の敷地内に入ったレオンは誰に気づかれることなく建物の内部に侵入する。
夜の闇に身を隠すことで見張りの衛兵に気づかれづらい。
ヒースクリフを救出したことで警備も強化されていたが、レオンにとっては些細なことだった。
音もなく行動し、アーサーの寝室を目指す。
見回りの兵をやり過ごし、見張りの衛兵は無力化する。
レオンは最も簡単にアーサーの部屋に忍び込むことができた。
闇の中に立つレオンの目の前で第一王子アーサーは寝息を立てている。
後はアーサーを無力化すれば王都はヒースクリフのものになる。
といっても、レオンにアーサーを殺すつもりはなかった。
対立していてもアーサーはヒースクリフの実の兄。できるだけ血生臭い手段は選びたくない。
拘束して誘拐し、ヒースクリフが王位を手にした後遠くの地に追放すればいい。そんな風に考えていた。
レオンの手が寝ているアーサーに伸びる。
魔法を使えないアーサーを拘束することなど容易いはずだった。
「国を救った英雄が今度は王族を誘拐か、堕ちたものだ」
突然の声にレオンは驚き、反射的に飛び退く。
声はアーサーの眠るベッドから聞こえた。
声を発したのは間違いなくアーサーだ。
「……起きていたのですね」
レオンは伸ばしかけた腕を下ろす。ベッドに寝ていたアーサーは起き上がり、レオンに向き直った。
「なに、そろそろだと思っていた。君がくるのは」
アーサーはレオンが忍び込むことを予期していたのだ。
それも仲間を連れずに一人で来ることまで見通していた。
レオンが攻撃の手を止めたのは読まれていることを悟ったからだった。
レオンが来ることを予期したアーサーが攻撃に対して無防備に構えているとは考えられず、何かしらの対抗策があるのは明白だった。
こうなれば失敗と同じ、レオンは攻撃から逃亡へと意識をすぐに切り替えたのである。
「なに、そう構えるな。別に貴様を捕らえるつもりはない。」
アーサーはそう言うと立ち上がる。
王族が人前に出る時に着る豪華な装飾付きの服がレオンの目に晒される。
明らかに寝る時の格好ではなかった。
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