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新たな国編
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しおりを挟む「以上を持って……神の啓示とし、神官エルシムの名を持ってヒースクリフ・デュエンを次代の王と認める」
集まった貴族連中の拍手は首を垂れて王冠を授かったヒースクリフへと向けられた。
この日、ヒースクリフは新しい王になったのだ。
「感謝します……ヒースクリフ。私を恐ろしい闇の魔法から救ってくれて」
神官エルシムは小声でヒースクリフにそう伝えた。
国王アドルフの洗脳が解かれていたようにエルシムの洗脳も既に解除されていた。
神官エルシムは「自分の行いは全て、闇の魔法による洗脳のせいだ」と説明した。
その言葉が真実か否かは誰にもわからない。
エルシムが元々アーサーの味方をしていたのか、それとも最初から魔法で操られていただけなのかはエルシムにしかわからないことだ。
戴冠の儀式を終えたいヒースクリフからしてもそれ以上エルシムを追求することは必要ではなかった。
王冠を頭に乗せたヒースクリフは一羽の鳥の前に足を運ぶ。
赤と緑の入ったオウムのような鳥は王宮の謁見の間で行われた戴冠の儀式を国中に放映している。
ヒースクリフはその鳥を通して、今自分の姿を見ている全ての人に話しかけた。
「この国は……暗い闇の中にありました。我が父の時代から、あるいはもっと前から。『そんなことはない』という者もいるでしょう。これから私の成そうとすることに異議を唱えたい者も。……私はそれを否定しません。今回の騒動……その全てを知らない人もいるでしょう。私は隠しません。その全てを話しましょう」
ヒースクリフは鳥を通して国民に全てを語った。
ことの始まりから、全てを。
五年前、何故自分がレオン・ハートフィリアと戦ったのか、何故レオンが「悪魔」と呼ばれなければならなかったのか。
そして、今回の騒動で何故兄アーサーと戦ったのか。
その言葉は映像を見ていた全ての者達に伝えられる。
それを信じる者、あるいは嘘だと思うもの。
ヒースクリフの言った通り、様々な考えを持つ者がいただろう。
これからの国の成り立ちについても、虐げられていた平民達は希望を持ち、反対に貴族達は不満を持つだろう。
ヒースクリフはその全てと向き合うつもりだった。
話の終わりをヒースクリフはこう結ぶ。
「私はこの国を新たなものとしたい。だから、新たに国の名をつけることにしました。我が友と彼の偉大な父に習って。新国『エレオノアール』と」
後に、この国の名前は歴史を紡ぐ魔導書にこう記される。
「魔導大国『エレオノアール』その国は魔法に優れた国であり、人々の顔には笑顔が溢れる。木は青く繁り、動物は栄える。生まれ行く人々には上も下もなく、人でない者達でさえも平和で豊かに暮らした」
と。
♢
「おめでとう、ヒース。これで全て終わったね」
戴冠の儀式が終わると、レオンはヒースクリフにそう言った。
場所は王宮の正門の前である。
レオンの言葉にヒースクリフは首を振った。
「いいや、まださ。兄がどうやってあの兵器を手に入れたのか。そして、何故兄が目を覚まさないのか。調べることはたくさんあるさ……それに」
ヒースクリフはローブの懐から杖を取り出す。
金の装飾が施された杖だった。
「本当は、こんなところじゃなくてもっと人の多いところでやるべきなんだろうけど……でも、これは僕が最初にやろうと思ったことだからね。……だから、君に」
ヒースクリフはそう言って杖を差し出した。
レオンはきょとんとした顔をする。
杖ならばもう自分の物を持っている。
ヒースクリフの差し出す杖に見覚えはないし、自分の物ではないと言える。
困惑した様子のレオンを見て、ヒースクリフはクスッと笑う。
「そうか、君は知らないよな。……この杖は王から臣下に与えられる勲章のようなものさ。王にこの杖を与えられ、一命を授かるとその者は貴族として認められる」
ヒースクリフがそこまで言って、レオンはようやくヒースクリフの言いたいことを理解した。
「でも……そんな、ヒース……こんなところで?」
「ハハ……後でちゃんと正式な手続きはするけど。今はいち早く君にこの事実を伝えたかったんだ。もう他の貴族に通達も出してある。この杖を持っているだけで、十分効力を発揮するよ」
ヒースクリフはそう言うとレオンを跪かせる。
本当ならヒースクリフは友としてこの杖を渡したかったが、これだけは古くからの儀式に則って行わなければならない。
レオンは跪き、ヒースクリフに頭を下げる。
「レオン・ハートフィリア。この度の君の功績を認め、君を我が杖に任命する。さらに、ここまでの君の働きに対して『子爵』の位を君に授けよう」
ヒースクリフはそう言ってから杖をレオンの頭上で一振りし、それからレオンに差し出した。
レオンはそれを両手で受け取る。
新設国『エレオノアール』。この日、新たな国王が誕生したこの日、この国には新たな貴族も生まれた。
レオン・ハートフィリア。
彼は幼少期から望んできた「貴族になる」という夢をこの日遂に叶えたのである。
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