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忍び寄る影編
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しおりを挟むレオンの説得により、ディーレインも納得した。
そこで話は、誰ならば「トーマ」のことを知っているかという話題に変わる。
「でもなぁ、レオンもルイズも聞いたことがないんじゃ……本当に有名な人なのかもあやしくなってくるぞ?」
とマークが言う。
魔法学院時代、レオンは魔法歴史学という授業を学び、魔法の歴史に多少詳しくなっていたし、ルイズは学院に置かれている本のほとんどを読み終える程度には図書室に通っていた。
その二人が聞いたこともないのでは、探すのは相当難しいはずである。
「アテなら一つだけあるわよ。レオンも教わっていた、魔法歴史学のマーシャ・デン先生なら何かわかるかもしれないわ」
そう言ったのはルイズである。
マーシャ・デンは元魔法学院の教員で老齢の魔法使いである。
ルイズ達が生徒の頃はまだ教鞭をとっていたが、ルイズ達が卒業してすぐに教員を引退して田舎に引っ越し、余生を過ごしていると言う。
「マーシャ先生か、確かに先生なら歴史の専門家だし『トーマ』という名前にも聞き覚えがあるかも」
レオンはルイズからその名前を聞いて、納得する。
マーシャは教員になる前は魔法研究の分野で才能を発揮した人物であり、特に魔法の歴史において力を入れていた。
当然、魔法が人間に伝わった経緯やそれに関連する伝承にも詳しいため、「トーマ」について何か知っているかも知れなかった。
「なるほど、それならマーシャ先生を尋ねないとな。まず、引退してどこに引っ越したかを誰かに尋ねないと」
「そうね。学院に聞けばわかると思うわ。でも、とにかく話は課外授業が無事に終わってからね。レオンもこの街の領主になったんだから簡単には動けないだろうし」
マークとルイズの会話にレオンも頷く。
日記を書いた人物のことが気になって、こうして皆を集めてみたが課外授業の最中に同時進行できるほど気安い問題ではない。
特に、街の領主として生徒を預かっている以上、課外授業を無事に終わらせることが何よりも大切である。
「そうと決まればとりあえず僕たちも外へ出ましょうか。先程から外が騒がしいみたいですから」
エイデンは席を立ち上がり、外の様子を気にしながら言う。
レオン達が話している最中も何度か生徒の笑い声や話し声が聞こえてきていた。
生徒達は残り一日となったクルザナシュでの滞在を十分に楽しんでいるようだ。
「それじゃあ、俺は馬車に荷物を運んでるウチの連中の様子を見てくる。出発は明日だからな、馬の様子も見とかねぇと」
とマークも立ち上がり、それに続いてルイズも部屋の中から出ていった。
残ったのはディーレインとレオンだけである。
「どうしたの? ディーレイン」
座ったまま動こうとしないディーレインにレオンは尋ねる。
まだ不安なことがあるのかとも思ったが、彼の表情に機嫌を損ねている様子はない。
「いや、な。あまり慣れていないんだ。こういう賑やかな雰囲気は」
ディーレインは少し気恥ずかしそうに言った。
生まれてから故郷ではずっと戦争が続いていたし、故郷を追われた後も悲惨な毎日を過ごしていたディーレインにとって、クルザナシュの毎日がお祭りのような賑やかさと平和さは親しみのないものであった。
初めの頃はただ、一族を復活させるためにレオンと手を結んだディーレインだったが、最近ではこういう暮らしも悪くないと居心地の良さを感じ始めている。
それは悪魔達も同じようで、あれだけ「下等種族」と見下していた人間に対する価値観がだいぶ変わったようである。
昨日、悪魔達が生徒を「飛行」で迎えにいったのもその変化の現れだった。
「今はまだうまく立ち行かないことも多いけど、頼りにしてるよディーレイン」
少し優しい顔をするようになったディーレインにレオンも笑いかけるのだった。
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