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樫野 珠代

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番外編(side舞)

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先程から時間だけが空しく過ぎていく。
今は・・・午後8時。
大丈夫だよね、この時間。
携帯で目的の相手に電話をかけた。
悩んだ時は友達に相談、それがいい。
数回コールされた後、相手が出てきた。
『もしもーし!』
「あ、奈緒?私、舞!」
『やだ!久しぶり~。元気だったぁ?』
「うん、うん。元気だよ。奈緒は相変わらず元気な声だね~」
『うふふ。当たり前じゃない!健ちゃんにいつも愛情もらってるからさぁ~』
始まった・・・ラブラブトーク・・・
「・・・はいはい。それも相変わらずだね・・・」
ため息が出るわ・・・
『で?そっちは?楓とはうまく言ってる?』
う、いきなり来た。
「う・・・なんとか?」
『なによぉ~、その曖昧な返事はぁ!楓、優しくしてくれないのぉ???』
「ううん。そんなことないよ?そ、それより健ちゃんは?まだ仕事?」
『彼は・・・今、シャワー浴びてるの。何?健ちゃんの声、聞きたいって?駄目!いくら舞でも健ちゃんは譲れないわよ。健ちゃんは私のものなんだから!!舞は楓がいるでしょ~。おイタは駄目よ♪うふ。』
なんか・・・勘違いしてません?
というか、勝手に話を進めてませんか?奈緒様・・・
「奈緒、違うから・・・逆に居ない方がよかったりして・・・」
『へ?なんか相談?』
「う・・・実は・・・」
『ちょっと待ってね。今、場所移動するから。』
そう言って、扉を開け閉めする音と、椅子を引く音が小さく聞こえる。
『ごめん、お待たせ。で?』
こういう時、つまり悩み事を聞いてくれる時の奈緒は頼りになる・・・と思う。
たまに論点がずれたりするから・・・ね。
「うん・・・奈緒はさぁ、健ちゃんと付き合いだしてから・・・なんか変わった?」
『なんかって?』
「う~ん。お互いの態度とか・・・」
『そりゃあ、変わるわよ。元は友達だったから変に緊張もしないじゃない?だから後は、裏の自分、つまり素の自分を見せて、相手に愛情表現をしたり・・・とか』
「例えば?」
『例えばぁ~・・・思いっきり甘えたり?相手の期待に応えたり?恋人となると~、まぁいろいろあるよ。そういうのって人によって様々じゃない?』
「そっか・・・」
私は友達の時からいつも甘えてた気がする。
じゃあ、期待には?・・・応えてないと思う、明らかに。
『何よ~。楓とトラブル?』
「ううん。そうじゃないんだけど・・・」
『舞。あんたはさぁ、いつも一人で悩んで落ち込むタイプなんだから、私にくらいぱぁ~っと吐き出しちゃいなさいよ!助言くらいしてあげるからさ!』
「うん・・・それがね、自分でもよくわからないの」
『・・・はぁ?わからないって何が?』
「付き合いだしてからね、楓、変わったんだ。」
『変わったって・・・まさか舞に冷たくなったとか?だったら私、楓を許さないよ!私のかわいい舞を無下に扱いなんて!!言語道断!今すぐ成敗しに行くわ!』
「わわ!ま、待って!違うの!違うんだって!」
『え、違うの?』
「奈緒、発想飛びすぎだから・・・。楓は・・・すごく優しくなったよ。」
『優しいのは・・・前からじゃない?舞に対しては特に。』
「へ?そう?」
『うん。明らかに私とじゃ、対応が違った。』
それは・・・奈緒がいけないんだって・・・
敢えて言わないけど・・・
「奈緒のことはおいといて。楓ね、友達の時みたいにからかったりもするんだけど、一緒に暮らし始めてから・・・ずっと私に気を遣ってくれるの。」
『いい事じゃない。“あの”楓が彼女を大事にしてるってことでしょ?』
あのって・・・どういう意味よ・・・
「でもね!いつも気を遣ってる気がするの。楓の気の休まる所を私が奪ってる気がして・・・。それに、私は楓に何も出来ないの。何かしてあげたいんだけど・・・何もできないの。」
『舞・・・。』
「楓は『彼氏』としてきちんと・・・なんて言うか、私にいろいろしてくれる。でも、私・・・『彼女』として、何もできないの。ううん、彼女どころか、友達の頃よりも最低な自分になってる。今の私は楓を苦しめてる気がするの。」
『ちょっと舞、考えすぎだよ。それとも・・・ホントは何かあったんじゃないの?長くなってもいいから話して。全部、言ってみて。』
「私自身の問題なんだ。・・・ねぇ、奈緒。付き合うって苦しいんだね。」
『え・・・。舞は今、苦しいの?』
「・・・。」
『舞・・・楓とはちゃんと話、してる?』
「・・・話せないの。緊張してうまく自分のこと、話せないの。それに・・・楓に触れる事も避けてる。自分でもわからないけど、体が勝手に動いちゃって・・・気が付いたら楓から体が逃げるように避けるの。たぶん楓もそれに気が付いてて・・・」
『そっか~、舞は楓がはじめての彼だもんね・・・仕方ないよ。でも楓を避けるって・・・初めての時、アイツ変な事した、とか?』
「初めての時・・・?」
『だからアイツとエッチした時よ。舞、初めてだったんでしょ?無理やりされたとか、ひどい扱いを受けたとか。そういうことがあると、たまに拒絶反応起こすんだって・・・。で、どうだったの?』
「奈緒。私達、まだだけど・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
「エッチしてないよ?」
『・・・ぷっ!きゃははは!!もう!そんな冗談はいいってば!こんな深刻な話してるんだしさぁ!!あははは!!お腹痛くなるじゃん!!』
そんなにおかしいのかなぁ・・・まだしてないって・・・
でも、デートだってまだ両手で収まるくらいしかしてないし・・・
しかも短時間でのデートで・・・
『って・・・・舞・・・マジ?』
「う、うん。・・・ってそんなに驚く事?なの?」
『ひょ~!マジで?すごい!驚くなんてもんじゃないよ!一緒に住んでるんだよ?』
ちょうどその時、奈緒の後ろから声が聞こえてきた。
健ちゃん・・・お風呂上がってきたんだ・・・
『奈緒・・・誰と話してんだよ・・・俺が風呂に入ってる間に・・・』
なんか不機嫌?
『誰だと思う?うふふ・・・私の愛しい人♪』
そんなこと言って・・・ケンカになるよ?
『なんだとぉ?貸せ!携帯・・・俺が話をつける!』
『やだ、健ちゃん!冗談だって・・・』
『冗談?怪しい・・・とりあえず貸せ!』
『駄目!今、大事な話をしてるの!健ちゃんはあっちに行ってて!』
『俺にも聞かせられない話なのか?へぇ~、余計に怪しい。相手は男だろ?貸せ!』
ほらほら、あやしい雰囲気になってきたし・・・奈緒って罪な人だわ・・・
私が聞いてる間も、携帯を取り合っているのか、ガガガって擦る音がずーっと続いてるんだもん。
はぁ~、今日はもう相談は無理かなぁ~。
なんて思ってると、ようやく音が収まった。
『おい!おまえ、誰だよ!奈緒に2度と電話かけてくんな!いいか?わかったか?』
はぁ・・・健ちゃん、そうとうキレてます・・・
「健ちゃん・・・・私なんですけどぉ・・・」
ケンカの原因にされたような気がして、申し訳なさそうに声を出してみる。
『・・・へ?』
わかってない・・・?
『わからないの?』
『奈緒、これ誰?』
『あんたって・・・はぁ~・・・舞よ。』
『げ!舞?早く言えよ!俺、怒鳴っちまったじゃねぇか!』
『知らな~い。あぁ、舞、可哀想~。泣いちゃうかもよぉ~』
明らかに面白がってる奈緒がいるし・・・。
『舞!ごめんな!ちょっと勘違いして!あはは・・・あ、奈緒に代わるわ!』
「あ、健ちゃん!」
逃げたな・・・
『ごめんね~、舞。健ちゃんったらホントに・・・。いつもああなんだから。ヤキモチ焼かれるのも嬉しいけど、程々にしてほしいわ・・・・で、話、どこまでいってたっけ?』
「あ・・・うん、今日はもういいよ。健ちゃん、来ちゃったし。」
『ほらぁ!健ちゃん!舞、怒って話してくれないってよ?どうしてくれるのよ!』
『そ、そんなこと言われてもナぁ・・・』
だから、そっちで勝手に話を進めないで・・・
「奈緒。怒ってないし・・・。それにほら、男の人の前で話す内容でもないし・・・ね?」
『内容?・・・あ!そうそう!!そうだったわね!いやぁ、驚いた・・・楓もねぇ~・・・』
なんかそこでしみじみしてませんか?
「変かなぁ・・・」
『変・・・とは言い切れないけど。』
「けど?」
『珍しいかなぁ~』
「珍しい?」
『うん。イマドキあまりいないんじゃない?そんなに清い交際してる人って・・・。まぁ、同棲してる時点で清いって言葉は似つかわしいけど・・・』
『何々?何の話?』
『いやね・・・楓と舞が・・・』
「わぁ!!!奈緒!なんで言うの!それ以上言わないで!!」
『あら、どうして?こういう時って男の意見も必要よ?』
「そ、そうかもしれないけど・・・だって健ちゃんだよ?私達二人とも知り合いだし、恥ずかしいよ!」
『なんだよ~。舞、俺に隠し事ぉ?・・・そっか・・・舞も楓に汚染されて変わってしまったんだな・・・。前はあんなに素直だったのに・・・』
『まだ汚染されてないわよ、舞』
『へ?』
『清い交際なんだって』
「きゃ~~~~!!!!奈緒!!!駄目ぇ!!」
『舞、うるさい。いいから。』
『ぷ!くはっ!わはははは!!!!冗談!同棲してんだぜ?有り得ねえ!ぎゃははは!!』
思いっきり笑われてるし・・・
反応が奈緒と一緒。
そんなに笑われてる私達って・・・
あぁ、なんか凹んできた・・・
『健ちゃん!笑いすぎ!』
『だって!冗談キツイって!!あはは・・・・は?マジ?・・・う、そだろ?』
ようやく笑い終わったみたいね・・・はぁ。
きっと奈緒が相当怖い顔をしてるんだろうなぁ。
『やっぱ、健ちゃんは無視しましょう』
「うん。そうだね・・・それがいいと思う。」
『ま、待てよ!悪かったって!』
「ねぇ、奈緒と健ちゃんは・・・その、いつ頃したの?」
『私達の最初ってこと?』
「うん。付き合いだしてどのくらいで・・・した?」
『すぐよ』
「へぇ~・・・は?すぐって・・・その・・・」
『だからその日にしたわよ』
『そうそう。燃えたよ~。奈緒ってサイコーだったしなぁ』
『やだぁ、健ちゃん。健ちゃんも激しくって良かったわ、うふ』
・・・・・・・もう、やだこの二人。
「じゃ、私はそろそろ・・・」
『あ、舞。待ってよ。まだ終わってない!』
「い、いいよ・・・」
『駄目!ねぇ、舞。私達はその日にしちゃったし、付き合って1週間でする子もいる。それに遊びで軽くやっちゃう子だっている。だからって舞もすぐしなきゃって思っちゃ駄目よ?セックスに対する価値観なんて人それぞれなんだから。舞の場合は、他の人よりもセックスに対して慎重なんだよ。だから余計に身体が追い着かないんだと思う。でも、それでもいいと思うよ?追い着いた時、思う存分、楓に身を任せればいいんじゃないかな?』
「だ、だけど・・・さっき、健ちゃんも言ってたじゃない?有り得ないって・・・。それってさぁ・・・」
『う~ん。あくまで私の意見だけどさぁ、楓が今まで付き合った女達って、結局長く付き合えなかったわけじゃない?それをずっと見てて思ってたんだ。楓ってどこか女に対して執着心がないなぁって。別れようと思えばすぐに別れられる、だから気軽に女を抱いてた、って感があるんだよね~。まぁ、今考えたら、本命じゃなかったってだけの話だったわけで、そう考えると今までの楓の行動もわかる気もするし。だからさ、本命に対してはたぶん、舞に対しては・・・大事にしたいって思ってるんじゃないかなぁ』
「大事に・・・?でも、男の人って・・・その・・・我慢が・・・」
『ん?あぁ、それは健ちゃんに聞こうよ、ふふ。』
『何?俺に聞きたいって?なんでも聞いて!俺、楓の事なら詳しいよ?何?』
声が輝いてるよ・・・
きっと聞いてくれたことに喜びを感じてるんだろうなぁ。
『男は・・・てか、楓の場合、5ヶ月も好きな女を目の前にして我慢が出来るのか?だってさ』
『・・・・は?5ヶ月・・・ねぇ。』
『はい、携帯。健ちゃん、代わって!』
『・・・もしもし?舞?』
「うん?」
『あのさ・・・その、5ヶ月の間に全くそんな雰囲気にはならなかった、の?』
「え・・・?」
『その~、雰囲気はあったけど、タイミング的にはずしたとか、そんなんじゃないの?』
「あ、その・・・誘うような雰囲気ってこと?」
『うん、そう。』
「告白してきた時にはあったけど・・・」
『うんうん。』
「それ以外は・・・ないよ?」
『ふ~ん・・・。その、告白した時ってどんな感じだった?』
「へ?」
『あ、いや、別に内容を詳しくってわけじゃないからな?ほら、どうして出来なかったのかなぁと思って・・・。』
「え~っ・・・と、楓、飲みすぎてそんな元気ないって言ってた・・・けど」
『飲みすぎて出来ない?』
「そう。その時、結構二人で飲んでたんだ。」
『でも意識はあったわけだよな?それともアイツ、ぼろぼろだったとか?』
「ううん。ほぼ正常。私の方が酔ってて。抱き上げてベッドまで運んでくれたくらいだもん。」
『・・・酔ってないのに・・・ふ~ん・・・ベッドまで・・・』
「?何?」
『舞さぁ・・・ひょっとして拒絶した?』
ドキ!そう言えば・・・逃げたような・・・しかも震えてしまったり・・・
それってヤバイの?
だってあの時、告白されていきなりそんなことになるなんて思わなくて・・・
急に楓じゃない気がして・・・
『・・・拒絶したんだ・・・』
「う・・・した、かも。あ、拒絶って程じゃないよ?ササっと後ずさりなんかしちゃったりして・・・で、怖くてちょっとブルブル震えちゃっただけ・・・」
『・・・いや、それって充分、拒絶じゃない?』
『ナニナニィ?拒絶したのぉ?舞?』
なんで二人で聞いてるの・・・
『だからかぁ。それが原因で普段も逃げちゃうんだよ~。納得ゥ。』
『何?何の事?』
『舞って普段も、楓に触れられないんだって。近づくとなぜか体が逃げ腰になるらし~よ~』
『舞、マジで?』
「え、あ・・・うん。」
『うわぁ・・・・・・。楓・・・すげぇ・・・・・・同情してしまうよ、俺。電話してやろうかな・・・』
「ちょ、ちょっと健ちゃん、どういうこと?もっとちゃんと詳しく話して!同情って・・・」
『舞も一人前になったなぁ~。男を手玉に取って』
「手玉って!?何?意味がわかんない!健ちゃん、お願い。もったいぶらないで!」
『舞。聞きたい?男の本音。結構、ショック受けるかもよ?』
「う、うん。それでも聞きたい。」
『あ、そう。う~んと・・・このままじゃ、おまえと楓・・・当分、いや下手したら一生セックスなんてできない!』
「え!?な、なんで!?」
『ま、それは言いすぎだけど・・・』
こ、殺す・・・!
「けど?」
『まぁ、考えてもみなよ。舞と楓の立場を逆にしたらいいだけの話。』
「逆?」
『そ。舞はさぁ、楓に抱きしめられたいって思うこと、ない?あ、セックスとかじゃなくて単純にぎゅっとね』
「そりゃあ、この体が拒否しなければ、あるよ」
『もし、抱きしめたいって思って手を差し伸べた時に、相手にバシって振り払われたらどうよ?』
「そ、そんな・・・すごいショックだよ。なんで?って思っちゃう。」
『それで?』
「私のこと、嫌いになったのかなぁとか、なんか気に障ることでも言ったのかなぁって不安になる」
『うん。舞だったらそういう方向にいっちゃうよな。でも楓の場合は、状況にもよるけど舞に拒絶された時点で次の一歩が踏み出せなくなってるんだと思う。一度拒絶されるとさ、やっぱ思うわけよ。俺を受け入れてないのかって。だから受け入れられるまで待とうとする。でもいつ受け入れられるのかわからない。仮に大丈夫かな?って思っても、拒絶された時の反応が脳裏に浮かんじゃって手を出せない。この繰り返し。』
「でも私、拒絶するつもりは・・・。」
『楓から見たら、最初の時、結果的に舞は拒絶をした。これが事実。』
「・・・でも、楓も・・・酔ってるから出来ないって・・・」
『それは舞を傷つけない為だよ。実際は楓、そんなに酔ってなかったんだろ?それに酔ってたって、ある程度なら性欲の方が勝るもんだよ普通の男なら。ほら、『酔った勢い』って言葉もあるしさ』
「じゃあ・・・」
『楓はたぶん、怖がってる舞を見て自分を抑えたんだ。それは『男らしい行動』だと思うよ。だけどそれはあくまで一般論。実際に思われるのはたぶんこう、『好きな女を抱けない可哀想な男』。気持ちが一つになった→抱きたくなる。これが男の本心。場所は思いっきりベッドで、相手は両思いの女。条件は揃ってるのに、それで拒絶されたら、ちょっとショックだろうな。しかも楓はそんなことを微塵も感じさせずに舞にまで気遣ってる。現に舞は今まで酔って出来なかったって思ってたわけだろ?そう思わせようと楓もずっとそういう素振りでいたわけだ。で、今も拒絶状態。これって・・・』
「・・・これって?」
『結構、残酷だと思う。』
グサっときた。
そっか・・・考えてみたら・・・そうかもしれない。
今までの自分の行動を全て楓と置き換えたら・・・
初日に拒絶された挙句、ショックを隠して相手に気を遣って・・・さらに、その後もひたすら逃げられて・・・。
私だったら、辛くて、飛び出してるかも・・・。
楓の気持ち、考えてるようで考えてなかったんだ、私。
ど、どうしよう・・・
『ついでに一般論で言えば・・・』
「・・・言えば?」
『モテル男は5ヶ月もしない状態だと・・・他の女にいくね・・・』
『ちょ、ちょっと!健ちゃん、何言ってるのよ!』
奈緒の声が聞こえる・・・
でも、今の私には健ちゃんの最後の言葉の方が威力はあった。
他の女・・・?
『おーい、大丈夫か?』
「あ・・・うん。」
『こう言っちゃ何だけど、男の場合、その・・・生理現象は、そんなに溜めたままって状態じゃいられない。まぁ1年とか我慢してる奴もいるけど、そういう奴ってだいたいエロいネェちゃんのビデオとかを見ながら自分で処理してるか、風俗に行ってるよ。』
楓が・・・他の女の人に目を向けてるなんて、想像したくない・・・
やだ!絶対に・・・
でも私は・・・体が逃げちゃうんだもん・・・
「健ちゃん・・・楓は・・・」
『だからこれはあくまで一般論。あとは、楓の理性とプライドの問題だよ。』
「理性・・・・とプライド?」
『そう。5ヶ月もお預けをくらった状態の楓に女が近づいてきた時、理性があれば追い払える。それにプライドが高ければ、風俗なんて通わないだろうから。』
「じゃあ、もしそのどちらか欠けてしまうと・・・」
『舞の考え通りじゃない?』
『健ちゃん!言い過ぎだって!もう、携帯返して!』
『待てって。まだ終わってない。』
『だって、健ちゃんキツ過ぎるんだもん!言い方ってもんがあるでしょ?』
「ね、健ちゃん・・・もう手遅れかな・・・私。」
『舞、勘違いするなよ。俺はお前を悲しませたり、楓と無理にセックスさせる為に今まで言ってきたんじゃない。おまえと楓がちゃんと向き合うために言ってるんだ。舞、おまえ心のどこかで、時間が解決してくれる、みたいなこと考えてないか?もし、考えてるならそれは間違いだと思う。』
「え?」
図星だった。
今はまだ、楓に触れる事できないけど、いずれは慣れて普通にできるってどこかで思った。
ううん、それだけじゃない。
楓とのエッチもきっと、そのうち・・・って思ってた。
これって・・・実は現実から逃げてるってことになる?
『もし、舞と楓が同一人物なら考え方も理解できるし、時間が解決できるかもしれない。でも、楓と舞は、赤の他人だ。しかも、男と女。考え方の違いは大いにある。全てを把握できるもんじゃない。それでもお互いを理解する為、二人がこれからもずっと一緒にいる為には何が必要か、舞、わかるよな?』
「健ちゃん・・・」
そうだよね・・・時間なんて曖昧なものに頼っちゃいけないよね?
時間が経てば修復できなくなることだってある。
楓のことをわかりたい。
私のこともわかって欲しい。
その為にしなきゃいけないこと・・・それはとことん話し合うことだ。
私の悩みも不安も楓にぶつけて、楓の心の中にあるものも私に吐き出して欲しい。
二人で一緒に考えて一緒に解決していかなきゃ、これから先も一緒になんていられない。
そう思ったら、気分も一気に晴れてきた・・・。
『あ、そうそう。さっきも俺、言ったよなぁ。『楓のことなら詳しい』って。』
「うん・・・言ってたね。」
『今から言う事は、舞へのプレゼントだと思って聞いてくれ。楓がさぁ、おまえと付き合い始めた時に言ってたよ。『絶対、舞を泣かせるようなことはしないし、出来ない。』って。アイツって普段、そんなこと言う奴じゃないだろ?特に俺には。どういう意味かわかるよな?』
涙が溢れてきた。
楓への気持ちが一気に溢れて飛び出すみたいに、涙も留まる事をしらない。
「うん・・・うん・・・わかった」
『楓には、今言った事黙ってるよ?バレたら半殺しだ・・・』
「うん。健ちゃん・・・ありがと」
『ほら・・・返すよ。舞の涙、止めてやってくれ』
『んもう!そういう時だけ私なんだから!』
『いいじゃないか・・・奈緒が適任だし。そんな奈緒が俺は好きだよ』
『健ちゃんったら・・・もう。ずるいわぁ~。でも、私もそんな健ちゃん、大好き♪チュッ!』
イチャイチャしながら電話口でキスしないでよ~・・・
おかげで涙も引いちゃったじゃない・・・
『舞、なんかあったらまた連絡ちょうだい?夜中でも朝でもいいからさ』
「うん、ありがとう・・・奈緒、私も好きだよ」
『きゃ~!ありがとう。私も好きよ、舞』
『おい!奈緒、浮気するな!』
『いいでしょ?舞なんだから』
『駄目だろ?好きって言う言葉は俺だけに使えよ』
『もう・・・健ちゃん・・・好きよ♪』
『それでいい・・・奈緒、愛してるよ』
『やだ・・・電話中だってば・・・あん、それは後で!』
『駄目だ・・・待てない・・・なんか舞の話聞いてたら、思い出しちゃったよ・・・』
『初めての夜でしょ?私もよ・・・あん・・・健ちゃん・・・慌てちゃ、だ、めん・・・』
『奈緒・・・もう感じてる?』
『あん・・・だってぇ・・・』
おーい・・・おふたりさ~ん、誰か忘れてませんかぁ?
しかも電話口でナニしてるの!!
こっちがなんか恥ずかしいじゃない!!!
「奈緒、健ちゃん、ありがとねぇ~!!!じゃ、頑張って!!」
これ以上、聞いてられない。
返事も聞かず、切っちゃった。
う・・・それにしてもあの夫婦はすごい・・・
私も楓と一歩を踏み出さなきゃね・・・
時計を見るともう9時半。
結構、話しちゃった・・・。
楓、まだかなぁ・・・。
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