TIME

樫野 珠代

文字の大きさ
14 / 79
高校1年-5月

4

しおりを挟む






ペンションの入口で春菜の帰りを待っていた正臣と優香はその目に春菜達の姿を見つけると我さきにと言わんばかりに春菜の元へと走り寄った。
「春菜!」
叫ぶように名を呼び、優香は春菜に飛びついた。
「ゆ、優香・・・どうしたの?」
ぱっと体を離し、春菜の両肩を掴んだ。
「どうしたの?じゃない!もう!私から離れちゃ駄目でしょ!心配したんだから!」
「え、でも石舘君も一緒だったし・・・。」
「それが危ないって言ってるの!」
目を吊り上げながら優香は春菜を睨んだ。それを横で窺っていた康平は思わず吹き出す。
「くっくっく。河本、俺って危険人物なのか?」
「あんたに限らず春菜にとって男は全て危険人物なの!こんなに可愛い子を前にしたら男は何をするかわからないわ!」
「そういうおまえも別の意味で相当危険人物だと思うぞ・・・。」
康平は呆れながら優香にそう言った。すると優香はギロっと瞬殺しそうなほど鋭い視線を康平に向けた。康平はその視線に少したじろぎ、1歩後ろへと下がった。その時、今度は後ろから腕が伸びてきて、ガシッと康平を羽交い絞めにした。
「石舘君。君とは一度じっくりとオハナシをしなきゃいけないようだ。さぁ、俺達の部屋に戻って語り合おうじゃないか。」
「お、おい・・・。」
怖いくらいの笑みを浮かべ正臣が抑揚のない口調で告げ、そしてそのままの姿勢で康平を連れ去って行く。それを優香は笑顔で見送り、春菜は不思議そうに見ていた。男2人の姿が消えた頃、優香は春菜の方へと体ごと向いた。
「さて、春菜。私達はどうする?」
「優香はいいの?せっかく拓海さんと一緒にいれるのに。」
「いいの!拓兄とは今までどおりの距離関係でいなきゃいけないんだし。それに春菜を一人に出来ないでしょ?さっきみたいに私が目を離すとすぐに男が群がってくるんだから。」
「群がるって・・・。」
誘って来たのは康平君だけなんだけど・・・。
「とにかく!拓兄とは1日1度会えば私は満足。それだけでもいつもより会えることになるんだし。ね?」
そう言って優香はにっこりと微笑んだ。優香がそう言うんだから、私がこれ以上言うことはない。
春菜は静かに頷き、優香と並んで歩き出す。
「そう言えば・・・大丈夫だった?春菜、人見知りするでしょ?」
「あ、うん。石舘君の雰囲気が良かったんだと思う。変に緊張もしなかったし、普通に話せたよ。」
「そう。それで石舘の何を話したの?」
「それが・・・。」
春菜は石舘とのことを優香に話した。話しながら、彼の存在が自分をかき乱すような感覚を覚えた。
そっとしておいて欲しい。
それが春菜の正直な気持ちだった。話し終わると、優香は憤慨していた。
「むかつく!石舘がそこまで無神経だとは思わなかった!何が、春菜の事を知りたいよ!知る必要もないわ!春菜、絶対に私が守ってあげるからね!」
そう言って、ガッツポーズを取る優香がいた。唖然としながらも春菜は、自分の事をこんなにも親身になって思ってくれる優香に感謝した。
ありがとう・・・。
心の中でそう呟き、優香の腕を取り、自分のそれを絡ませた。
「優香、今日はいっぱいいろんなことを話そうね。」
「へ?・・・うん!」
突然の春菜の行動に驚いたが、それ以上に優香は喜んでいた。
初めてじゃない?春菜がこうやって自分から触れてくるのは。今までは私から春菜に歩み寄る形だった。それが今、春菜から腕を組んできた。本当に嬉しい。前からどこかでずっと思っていた。私のしている事は、春菜にとって迷惑なことなんじゃないかって。本当は私がいてもいなくても、春菜はなんとも思わないんじゃないかって。そういう考えが頭を過ぎる度、寂しい気持ちになった。だけど今は、傍にいてもいいよって言われた感じ。私の今までの行動が少しは報われた気がした。私は春菜とずっと本当の親友でいたい。
その時、優香は先程聞いた石舘との件を思い出した。本当の春菜の姿を知らない石舘が疑問に思うのも頷ける。
どうして春菜に惹きつけられるのか、かぁ・・・。
石舘から見れば、普通の女の子だろうなぁ。だけど今の春菜は本来の姿ではない。数ヶ月前の、何も起こらずにいたあの日に戻って欲しい。愛らしい笑顔や、照れた顔、控えめでいて凛とした態度。その全てが今、悲しい過去に奪われたまま。いつかきっと、またあの笑顔を私に見せて。
優香は心の中で強く願った。



「一体、どういうつもりだ!?」
部屋に戻った瞬間、食いついてきた正臣に康平は溜息をついた。
ここまで彼女に嵌ってるのか・・・。
正臣が彼女のことを想っているのは知っていた。しかし想像以上に、正臣は真剣だということを今、つくづく思い知った。入学直後からずっと不思議だった。なぜ正臣ほどの男が彼女に嵌っているのか。康平には理解できなかった。彼女はその辺にいる普通の子でしかも無表情で何を考えているのか、検討もつかない女の子。それに比べて正臣は、まだ1ヶ月の付き合いだがその短期間でわかるくらい顔も性格もイイ男だ。誰が見ても、あまりにも2人は不釣合いだろう。しかし今日、少しだけ正臣が彼女に惹かれる理由がわかった。
ほっとけないのだ。
彼女の雰囲気はとても儚く、それでいて内に秘める心の闇が見え隠れしている。守ってやりたい、そんな風に思わせるのだ。でもそれだけなのか?
それだけでここまで正臣が彼女にマジになるのか?
次々と新たな疑問が浮かび上がる。そしてそれは答えが見つからないまま、増えていくばかり。康平は再び溜息をついた。
「おい!聞いてるのか!」
ぼかっと頭を殴られ、康平はようやく今、正臣が本気で怒っている事に気付く。
「あ、悪ぃ。ちょっと考え事してた。」
「んだとぉ!?」
「そんなに熱くなるなよ。少し彼女と話しただけだろう?」
「少しだぁ?何言ってんだ。軽く30分は超えてただろう!」
「少しじゃん。1日の48分の1じゃないか。それより聞きたいことがある。」
「俺の方が先に聞きたいね。春菜と何を話した?事と次第によっちゃ、おまえ許さないからな。」
正臣は息巻いて、康平にそう告げた。康平は苦笑しながら、そんな正臣を静めようと部屋のソファに座らせた。
「別に正臣が心配するような話はしてないから安心しろ。ただ君の事がもっと知りたいっていうような話をしただけ・・・っ、お、おい・・・くるし・・・。」
康平が最後まで言い終わる前に、正臣によってそれは遮られた。いきなり胸倉を掴まれ、服が首を締め付ける形になっていた。
「なんて言った?今。そのどこが心配いらないんだ?十分、俺にケンカ売ってるよな?おまえ・・・。」
「く、くるしぃ・・・って!!。」
最大限の力を振り絞り、正臣の手を撥ね退けた。本当にコイツと言い、河本と言い、五十嵐のことになると見境がなくなる。
「正臣、勘違いするなって。俺はただ、五十嵐っていう人間を知りたいんだ。それは別に女としてとかじゃなくて、人としてだ。」
「どうしておまえが春菜を知る必要があるんだ。好きでもないなら知らなくてもいいだろう?」
「生憎、俺は疑問に思ったことは何が何でも解決する性質でね。」
「疑問ってなんだよ。」
半ばふて腐れるように正臣がそっぽを向いて問い掛けてきた。
「おまえや河本がなぜ彼女にそこまで固執するのか。それから・・・おまえは知ってるのか?あの噂の真実を。」
康平の最後の言葉に正臣が反応した。急に真顔になり、まっすぐに康平を見てきたのだ。
「康平・・・おまえ、それ・・・・・聞いたのか?」
「いいや、それとなくその話に触れたけど、彼女は何も答えなかったよ。」
「そうか。」
「でも・・・答えないということは・・・。」
その先は敢えて言わない。それを言えば、正臣がまたキレてしまうかもしれないからだ。それはごめんだ。自分で自分の首を絞めるわけにはいかない。正臣もまた、それ以上は俺に追及してこない。つまり正臣も同じ事を考えたという事だ。ふいに正臣が立ち上がり、部屋を出ようとした。
「おい、どこに行くんだ?」
「ん・・・ちょっとぶらついてくる。」
そう言って正臣は部屋をあとにした。ショックだろうな・・・やっぱり。好きな子が他の男と噂になったんだ。しかもそれがただの噂ではなく、真実味を帯びてきたんだ。その後も暫くは、消えていった正臣の後姿が康平の頭には残っていた。



夕食の時間になり、それまでバラバラに行動していたメンバーがダイニングへと集まった。
昼食は別にしていた6人だったが、明日の打ち合わせもあるということでテーブルをくっ付けて6人全員がテーブルを囲み、一つの輪を作った。
温かみのあるダイニングでの夕食が終わった頃を見計らい、優香が話し出した。
「そろそろ明日の予定を聞いておきたいんだけど。皆、決めた?」
優香は周りを見回し、残り5人の様子を窺う。それにまず反応したのは、恭子達だった。
「私達は明日、グラススキーをしに行こうかと思うの。ねぇ、高橋君と石舘君も行かない?」
「そうよ、一緒に行こうよ。2人ともスポーツ万能だし、絶対に嵌るはず!」
そう言って恭子と未久はやや強引に2人を誘っていた。そんな彼女達の話を遮ったのは言うまでもなく優香だった。
「ストップ!そういうのは、ここに来るまでに話をつけといてよ。それから正臣と石舘のどちらでもいいんだけど、明日、買出しに付き合って。私と春菜じゃ、荷物を持ちきれないだろうし。」
「買出し?」
恭子が不思議そうな顔をしていた。
「そう、昼食用の食材とか。他に必要なものがあったら私に言ってくれれば一緒に買ってきてあげる。ちなみにお金はあとで回収ね。」
「そっか。お昼のこと、すっかり忘れてた。」
その言葉に優香が頭を抱えていた。
「ゆ、優香・・・大丈夫?」
さすがの春菜も少し困惑気味に周りを見ていた。すると正臣が騒ぐ二人を無視して、口を開いた。
「買出しは男2人で行こうか?」
「2人で?」
「ああ。買ってくるものをリストアップしてもらったら俺ら2人だけで十分だろう?そうすりゃ、優香と春菜はフリーになって自分達の時間を過ごせるだろうしさ。なぁ?」
そう言って康平に同意を求めた。
「そうだな。俺達、別にすることないしさ。いいんじゃん?それで。」
「そう言ってくれるのは有り難いんだけど、せっかく来たんだし犠牲になるのは正臣か石舘のどちらか一人でいいわ。それに私達、買出しをするっていう予定を立てちゃって急に時間が空くのも微妙だし。」
「じゃあ、4人で行くってのは?俺達も店に行ったら買いたい物が出てくるかもしれないしさ。」
「えー、石舘君達がいないとつまんなーい。ねぇ、一緒にグラススキーしようよぉ。」
「そうだよぉ。それに優香もああ言ってることだし。」
必死に正臣と康平を繋ぎとめようと恭子達はそれぞれ言いたい放題だった。その時、ドンっとテーブルを叩く音が響いた。
「おまえら、本当にウザイ。」
ビシッと冷ややかな声でそう言い放つ康平に、恭子達もさすがに黙り込んだ。
「言っておくが、俺は自分のしたいようにする。誰にも干渉されない。一緒に行動したいと思ったらそうするし、一人になりたかったら誰とも交わらない。」
「俺も同じ。」
康平と正臣の完全な勝利だった。恭子と未久は、それ以降、ほとんど話さなくなった。テーブル越しの雰囲気が一気に重たいものになり、慌てて優香が明るく振舞った。
「と、とりあえず明日の買出しは、行きたい人が一緒に行くってことで。それから私と春菜は、買出しの後、この辺を散策することにしてるんだ。で、恭子達はグラススキーをするんでしょ?正臣達は?何をする予定?」
「俺達は特に決めてない。」
「決めてないってねぇ、お昼に言ったでしょ?夕食までに決めておくようにって。」
「ん。だからさぁ、俺は春菜と一緒に行動しようと思ってさ。」
なんでもないという風に正臣は淡々と答えた。
それを聞いた優香はこめかみがピクピクと動き出し、怒りを顕わにした。
「・・・なんですって?」
「この距離で聞こえなかったのか?おまえ、一度耳鼻科で診て貰え。絶対、耳の穴塞がってるぞ。」
「そんなわけないでしょ!冗談を言うなって言ってんの!春菜は私と行動を共にするの!」
「仕方ないなぁ。おまえも連れて行ってやるよ。」
「あ、あんた何様のつもりよ!」
「ん?正臣様?」
「馬鹿じゃないの!ふざけないで!」
「ふざけてなんかない。それにおまえがさっき俺に言った事、あれはウソだったのか?」
「う・・・。」
優香が珍しく言葉に詰まっていた。
さっき言った事?なんだろう。
そう思いながら、
「優香?」
心配になって声をかけると優香はほぅっと息を吐いた。
「もう勝手にして。だけど私は絶対に春菜から離れないわ。」
「はいはい。」
諦めに近い態度で優香が正臣に言うと、彼はにっこりと微笑んだ。ようやく2人の痴話喧嘩が終わると今度は康平が口を開いた。
「ところでさ、昼食ってどうするんだ?誰か作れるのか?」
その言葉に優香と春菜以外の他のメンバーが反応した。
「そうよ。さすがに連日バーベキューってのはイヤだし。」
「だからと言って、私達、まともに料理なんか・・・。」
恭子と未久は2人で顔を見合わせている。
「誰もあんた達になんか期待してないわよ。」
呆れ気味に優香が言った。
う・・・優香、それはひどすぎる。
「明日の昼食はバーベキュー。その分の買い物は、今日の午後に私と春菜とそれからペンションのお兄さんでしてきたから。明後日と明々後日は、春菜にお願いしたわ。」
「え・・・五十嵐さん、料理できるの?」
意外だと言わんばかりの表情で恭子が聞いてきた。
「あ・・・その、少しだけど。でも、口に合わないかも・・・。」
皆に一斉に見られ、居た堪れず春菜は俯きながらそう答えた。それを助けるように優香が追加した。
「言っておくけど、あんた達にも手伝って貰うわよ。何もせずに食に有り付こうなんて思ったら大間違い。」
「え、でも私達、本当に何も・・・。」
たじろぎながら呟く2人に優香はさらに続ける。
「何も料理を作れって言ってるんじゃなくて、その他にもやることはいろいろあるでしょ。人数分の飲み物を用意したり、使用した調理器具の片付けとか。」
「それだったら大丈夫だわ。ね?」
「うん。そんなことでいいなら喜んで手伝うわ。」
隣りで優香が怒りを必死に抑えてるのがわかった。そんな時、もう見てられないと思ったのか奥から拓海が出てきた。
「話は終わった?じゃあ、デザートでもどう?」
微笑みながら皆の反応を見て、拓海は奥へと戻っていき、しばらくして本当にデザートを持ってきた。
「言っておくが、他の客には内緒だぞ。」
ウィンクしながら、茶化してそういう拓海の優しさに全員の顔が綻んだ。
「拓海さんって、優しいね。」
皆に聞こえないように春菜は優香の耳元でそう言った。優香は嬉しそうに微笑んで、それに応えた。



自分の部屋へ戻った春菜は、後から来た優香に今までのことを話す決心をした。
「優香。話したいことがあるんだ。」
少し俯き加減で優香に話し掛けた。
「話?じゃあ、何か飲みながら話そうよ。下から何か貰ってくるから。」
そう言って部屋を一旦、出て行った。優香に話そうと決めたのはお昼。優香の言葉が胸に突き刺さったからだ。
『いっぱい話して隠し事はナシにしたいんだ』
拓海の話をした後、優香はそう言った。私は隠し事ばかりだ。ずっと自分を責めていた。優香はあんなに何でも話してくれるのに、私は何も話してない。そんな自分がイヤになった。だから今、話そう。
ベランダへ続く扉を開けるとやはり5月とは言え、高原の夜は寒い。しかしその風は、今の春菜の心をすっきりさせるように吹き抜けていく。
「お待たせ!」
そう言って優香が部屋に入ってきた。その声と共に、春菜はベランダから部屋の中へと戻って行った。
優香はベッドの端に座り、その横のソファに春菜は座った。ウーロン茶の缶を一つ貰い、一口飲んで春菜は話し始めた。
「優香にずっと言えなかった事があるの。言おう、言おうと何度も思った。けど、これ以上心配させたくなくて、ずっと黙ってた。だけど今日、優香の言葉でそれは間違いじゃないかって思ったの。」
ゆっくりと言葉を選びながら春菜は話し出す。それをただじっと優香は聞いていた。
「私ね、親の事故の時、ちょうど将樹に告白した直後だったの。もちろん成り行きで告白してしまったんだけど。でもやっぱり玉砕。思いっきり振られたんだ。もちろんそれはわかってたことだから納得してる。その後すぐに親の事故を聞いて・・・。何も感じなくなったのはその電話を受けた時なの。すーって意識がやけに冴えてきて客観的な自分がいたの。本当に他人事のようにすんなりと受け入れられた。それから暫くは家の事で忙しくてそんな自分がおかしいとは思わなかった。忙しいから感情的になる暇がないんだって思ってて。秋緒に病院に連れて行かれた時に初めて私はおかしいの?って疑問に思ったんだ。それから次第に実感した。あぁ、感情がわからなくなってしまったんだって。」
手に持ったままのウーロン茶を再び、口に運んだ。冷たい液体が喉を通り抜けて行く。
その時、優香がようやく口を開いた。
「春菜。私ね、知ってたんだ。春菜が将樹先輩に告白した事。」
「え・・・。」
「でもやっぱり春菜の口からちゃんと聞きたいから今まで黙ってた。」
「そっか・・・。ごめんね、今まで話さなくて。」
「ううん。話し辛いよね、やっぱり。でもね、きっと春菜の中で将樹先輩が思い出になる頃には話してくれると思って、それまで私は知らないフリをしようって思ったんだ。だから今日、聞けたのは正直嬉しいかな。」
「・・・思い出になるのかな。」
「なるよ。春菜はまだまだ本当の恋愛をしてないんだから!これからだって!」
「そうかな。」
「そうだよ。だって、まだ15年とちょっとしか生きてないんだよ?私達の人生はまだまだ先が長いんだから!」
「優香。その台詞、おばさんっぽいよ。」
「なんですって?」
「いえ・・・。」
じろっと睨まれ、春菜は慌てて口を閉ざした。
「それとね・・・・・・私、電話が怖く感じるの。」
「怖い?」
「そう。正確には電話の音で私の体が震え出すんだ。携帯はあの日以来、もう机の奥に入れっぱなしで。家の電話が鳴るのも怖いんだ。だからいつも音を消して留守電にしてるの。」
「そっか。だから前に言ったんだ。携帯を無くしたって。」
「そう。ごめんね、嘘ついて。」
「ううん。謝る事無いよ。それが普通だって。でもよかった。春菜から話が聞けて。やっぱり隠されると不安になるもの。」
そう言って優香はにこっと微笑んだ。その笑顔に春菜は困ってしまった。
問題はこれから話すことなんだけど・・・。
ちらっと優香を横目で見ると、ちょうど彼女と目が合った。
「何?春菜。」
「あ・・・うん。実はまだあるんだ。話してないこと。」
「えー何よ、なんだかやな予感がするんだけど。」
鋭い。やっぱり差し障りのない程度にしておこうかな。でもそれじゃあ隠し事になってしまうし・・・。
「あのね・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど・・・なるべく穏やかに。」
「何よ、そんなに私が感情的になりそうなことなの?」
眉間に思いっきり皺を寄せながら優香が尋ねてきた。
そんなにはっきり聞かれると私も困るんだけど・・・。
「実はね・・・。」
優香にゆっくりと祐介との出会いを話した。さすがに祐介の名前を出すのはまずいと思い、それだけは避けた。
「ちょーっと待ってね・・・ええっと・・・つまり、簡単に言うとこういうこと?春菜はナンパしてきた男達から助けてくれた見ず知らずの男とデートをして、その挙句、ホテルまで行っちゃって身の上話をして帰ってきたと。で、別れる間際に・・・事もあろうにキスまでしたってことっ!?」
目を丸くしながら優香が聞いてきた。春菜は頷き、優香の様子を窺っていたが、彼女は驚きのあまり暫く思考が止まっているらしく微動だにしない。
「ゆ、優香?」
恐る恐る声をかけるとようやく我に返り、優香が瞬きをした。
「ご、ごめんね。驚かせちゃって。でもそれだけだから・・・。」
「それだけって・・・十分でしょう。春菜って、意外と大胆だったんだ。」
「え?」
「だって見ず知らずの男とキスしたんだよ!?その辺の軽い女ならともかく春菜が・・・はぁ、驚きすぎて何も考えられないわ。」
優香はそう言って息を吐いた。
そんなにすごいこと・・・しちゃったのかなぁ。あの時はいっぱいいっぱいで、何も考えられなかった。でも一つだけ言えるのは、後悔していないということ。最初のキスは、彼が私を守ってくれる為の方法だっただけだし、2度目のキスは彼への御礼の気持ちとしてしたこと。深い意味はないし、かと言って軽い気持ちでしたわけでもない。
「でもさ、もう少し春菜は危機感を持った方がいいと思う。たまたまその男は春菜にキス以上のことをしてこなかったからいいけど、これが本当の遊び人だったら最後まで力づくでやってたと思うし。あー、なんだか余計に春菜が心配になってきた。」
頭を抱える優香を見て、なんだか申し訳なく思った。
私がなんでもないと思っている事でも、優香から見れば危いらしく心配させてしまう。今回の事だけじゃない。いつもいつも優香は私の事を心配ばかりしている気がする。それだけ私が頼りないってことで、一人では何も出来ないってことだ。それが私の現実。

いつになったら私は強くなれるんだろう。

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。

藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。 ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。 目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。 気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。 それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。 ……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。 絶対に同じ間違いはしない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全四話で完結になります。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...