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最終話.地属性は風の四天王を倒せるか
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クリスタルのように固めた風が蒼空を映し、空に紛れる天空城。そのバルコニーで、魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナは、久方ぶりに太陽を眺めていた。
自身は【地属性以外完全無効】の耐性で寒さを感じないが、紅茶がすぐ冷めるのは厄介だ。
「空。太陽」
ここしばらく、太陽の下に出るのはたまの出張の時くらいで、随分懐かしく感じる。風の四天王が風を浴びることもできない、と同僚に愚痴を言った所、「火の四天王も自分から火は浴びないけどなー」と首を傾げられた。そんなことを思い出し、苦笑しながら霜の浮いた紅茶を一口含む。
そこへばたばたと、布が風にはためくような音が近づいてきた。
「ついに見つけた、風の四天王!」
紅茶を吹いた。
「なっ、げふっ、に、人間が何故ここに!?」
「これが人間の知恵、賢者様の設計したツチノコプターです!」
腹の丸い蛇のような機体に、回転翼をいくつも取り付けた乗り物。地属性魔法によって造形されたその翼を、魔法で縛りつけた地精霊を燃料に、地属性魔法による土操作で回転させ、飛行する。
ヴェゼルフォルナが混乱している間に、ツチコプターは雲で作られた城の土台に降り立った。咄嗟に雲を散らそうとしたが、勇者は創造した土で城ごと覆って大地を為し、地形操作で平たく固めてしまう。
城は徐々に墜ちてゆく。
***
【地の勇者】ドリスは【大陸一の賢者】に授けられた作戦を思い返していた。
空に創った大地を、いつもの肉体強化で踏み締めれば、砕け散る。だから強化はそこそこ程度に抑える必要があるが、強化を抑えるからこそ、他の魔法を併用できる。
「【石化の魔眼】!」
魔術の名を殊更大きく叫ぶと、風の四天王は即座に目を逸らした。
「今度こそ効くかどうか試せると楽しみにしてけど……想定内です!」
相手の隙を見て取ると、石炭、硝石、硫黄の粉末を吹き散らし、流れるように魔力土を想像すると、懐から取り出した種を投げつけた。
「いけっ、火吹き花!」
「ゴァァァ!!」
一瞬で育った花が火を噴いて火薬に点火する。
「きゃああぁぁあ!!」
荒れ狂う火と風は、四天王に直接のダメージは与えないが、賢者の指示なので、一応やるだけやらなければならないのだ。
「えぇと終わったのが、造形、地精霊、操作、創造、地形、能力上昇、石化、金属の代わりに火薬、植物……」
空中の大地が隆起し、火口を広げた山が生まれる。
その火口から潰れたパンのような形の土塊が飛び出し、
「いけっ、脾臓ゴーレム! 泥吐きです!」
二本突き出た管から、四天王に泥を吐きかけた。
「わぷっ」
「火山、脾臓、ゴーレム、泥もクリアです!」
指折り数えながら胸を張るドリスを、四天王は顔を拭いながら睨みつけた。目は合わせないが。
「くっ……ぐぅ、どうしてここまで執拗に私を付け狙いますの!」
「何を今更! 四天王を殺さなければ、魔王を殺せないからです!」
「どうして魔王様の命を……!」
「魔族が人を殺すからです!」
ドリスだって好きで勇者になったわけではない。火の四天王の軍勢に村を灰にされ、帰る場所を失った所で女神の祝福を受け、仕方なく王都への招集に応じたに過ぎない。
「魔族が人を殺さなければ、人だって魔族なんか殺しませんよ」
風の四天王の相手をする理由はそれだけだ。火の四天王相手なら恨みもあるが、地・火・風属性はともかく、火の四天王を殺せるほどの水属性魔法はドリスには扱えないから、無意味に挑むこともできない。
「魔族が人を殺さなければ人が魔族は殺さない、という話の現実味はともかく……こういう時に使う言葉がありましたわね」
風の四天王は首を傾げて考える。ドリスも首を傾げてそれを見つめる。
「ああそう。『あなたは部屋中にゴキブリの涌く中で眠れるの?』ですわ」
思い出せた安堵、それだけがこもった調子で、風の四天王はそう言った。
「旧い慣用句ですけど、本当にこれで人間に伝わりますの……わ、ひゃぁぁぁあああ!!」
踏み込みの勢いで足場が割れ、あと一歩届かなかった。届いた所で【地属性以外完全無効】の相手にダメージはないが、反射的な行動だった。
飛び下がった風の四天王が置いた風の刃にドリスの身体が寸断され、
「変わり身だっ!!」
砂と化して視界を潰す。視線を逸らし続ける相手の背後を取るくらい、何ということもない。
地面に叩きつけながら、束縛の魔法陣を描く。後は肉体強化に全神経を注ぎ、地べたへ拘束。
空に浮かぶ大地は今なお落ち続けている。魔法陣と最大強化された勇者の膂力で押さえつけられた今、四天王とはいえ、もう抜け出すことはできない。
「賢者様のお知り合いは、貴女に殺されたそうです」
だから最後に、ドリスは賢者の話を風の四天王に聞かせることにした。
「魔力もそんなに強くはなくて、属性魔法がほとんど使えなかったけれど、無属性の見えない魔力で魔法陣を描くんです。火とか水とか、光も闇も、何でも使えて、でも、地属性はほとんど使ってなかったから、それであっさり貴女に殺されたんだそうです」
「……そういうお話、夢見が悪くなるのでやめていただけます? 人間を殺す時に、ちょっと想像してしまいますわ」
顔を歪めて風の四天王が吐き捨てた。
ドリスは深く溜息を吐いて、その身体を改めて地面に叩きつけた。
「お前は今後人を殺すことはないし、夢を見る機会もない」
顔を踏みつけながら退き、肉体強化を少しだけ緩めて手早く詠唱する。
「奪い、融け合え。【二指を一指に】」
「うっ……ぐっ………!」
空を見上げると、墜ちる天空城を追うように、燃え上がる隕石が堕ちてきていた。
戦闘の余波で損壊していたツチノコプターを造形し直し、全速力で退避する。
重力に誘導された隕石は、正確に標的の真上に落下し。
空に浮かんだ大地と共に、塵と化した。
自身は【地属性以外完全無効】の耐性で寒さを感じないが、紅茶がすぐ冷めるのは厄介だ。
「空。太陽」
ここしばらく、太陽の下に出るのはたまの出張の時くらいで、随分懐かしく感じる。風の四天王が風を浴びることもできない、と同僚に愚痴を言った所、「火の四天王も自分から火は浴びないけどなー」と首を傾げられた。そんなことを思い出し、苦笑しながら霜の浮いた紅茶を一口含む。
そこへばたばたと、布が風にはためくような音が近づいてきた。
「ついに見つけた、風の四天王!」
紅茶を吹いた。
「なっ、げふっ、に、人間が何故ここに!?」
「これが人間の知恵、賢者様の設計したツチノコプターです!」
腹の丸い蛇のような機体に、回転翼をいくつも取り付けた乗り物。地属性魔法によって造形されたその翼を、魔法で縛りつけた地精霊を燃料に、地属性魔法による土操作で回転させ、飛行する。
ヴェゼルフォルナが混乱している間に、ツチコプターは雲で作られた城の土台に降り立った。咄嗟に雲を散らそうとしたが、勇者は創造した土で城ごと覆って大地を為し、地形操作で平たく固めてしまう。
城は徐々に墜ちてゆく。
***
【地の勇者】ドリスは【大陸一の賢者】に授けられた作戦を思い返していた。
空に創った大地を、いつもの肉体強化で踏み締めれば、砕け散る。だから強化はそこそこ程度に抑える必要があるが、強化を抑えるからこそ、他の魔法を併用できる。
「【石化の魔眼】!」
魔術の名を殊更大きく叫ぶと、風の四天王は即座に目を逸らした。
「今度こそ効くかどうか試せると楽しみにしてけど……想定内です!」
相手の隙を見て取ると、石炭、硝石、硫黄の粉末を吹き散らし、流れるように魔力土を想像すると、懐から取り出した種を投げつけた。
「いけっ、火吹き花!」
「ゴァァァ!!」
一瞬で育った花が火を噴いて火薬に点火する。
「きゃああぁぁあ!!」
荒れ狂う火と風は、四天王に直接のダメージは与えないが、賢者の指示なので、一応やるだけやらなければならないのだ。
「えぇと終わったのが、造形、地精霊、操作、創造、地形、能力上昇、石化、金属の代わりに火薬、植物……」
空中の大地が隆起し、火口を広げた山が生まれる。
その火口から潰れたパンのような形の土塊が飛び出し、
「いけっ、脾臓ゴーレム! 泥吐きです!」
二本突き出た管から、四天王に泥を吐きかけた。
「わぷっ」
「火山、脾臓、ゴーレム、泥もクリアです!」
指折り数えながら胸を張るドリスを、四天王は顔を拭いながら睨みつけた。目は合わせないが。
「くっ……ぐぅ、どうしてここまで執拗に私を付け狙いますの!」
「何を今更! 四天王を殺さなければ、魔王を殺せないからです!」
「どうして魔王様の命を……!」
「魔族が人を殺すからです!」
ドリスだって好きで勇者になったわけではない。火の四天王の軍勢に村を灰にされ、帰る場所を失った所で女神の祝福を受け、仕方なく王都への招集に応じたに過ぎない。
「魔族が人を殺さなければ、人だって魔族なんか殺しませんよ」
風の四天王の相手をする理由はそれだけだ。火の四天王相手なら恨みもあるが、地・火・風属性はともかく、火の四天王を殺せるほどの水属性魔法はドリスには扱えないから、無意味に挑むこともできない。
「魔族が人を殺さなければ人が魔族は殺さない、という話の現実味はともかく……こういう時に使う言葉がありましたわね」
風の四天王は首を傾げて考える。ドリスも首を傾げてそれを見つめる。
「ああそう。『あなたは部屋中にゴキブリの涌く中で眠れるの?』ですわ」
思い出せた安堵、それだけがこもった調子で、風の四天王はそう言った。
「旧い慣用句ですけど、本当にこれで人間に伝わりますの……わ、ひゃぁぁぁあああ!!」
踏み込みの勢いで足場が割れ、あと一歩届かなかった。届いた所で【地属性以外完全無効】の相手にダメージはないが、反射的な行動だった。
飛び下がった風の四天王が置いた風の刃にドリスの身体が寸断され、
「変わり身だっ!!」
砂と化して視界を潰す。視線を逸らし続ける相手の背後を取るくらい、何ということもない。
地面に叩きつけながら、束縛の魔法陣を描く。後は肉体強化に全神経を注ぎ、地べたへ拘束。
空に浮かぶ大地は今なお落ち続けている。魔法陣と最大強化された勇者の膂力で押さえつけられた今、四天王とはいえ、もう抜け出すことはできない。
「賢者様のお知り合いは、貴女に殺されたそうです」
だから最後に、ドリスは賢者の話を風の四天王に聞かせることにした。
「魔力もそんなに強くはなくて、属性魔法がほとんど使えなかったけれど、無属性の見えない魔力で魔法陣を描くんです。火とか水とか、光も闇も、何でも使えて、でも、地属性はほとんど使ってなかったから、それであっさり貴女に殺されたんだそうです」
「……そういうお話、夢見が悪くなるのでやめていただけます? 人間を殺す時に、ちょっと想像してしまいますわ」
顔を歪めて風の四天王が吐き捨てた。
ドリスは深く溜息を吐いて、その身体を改めて地面に叩きつけた。
「お前は今後人を殺すことはないし、夢を見る機会もない」
顔を踏みつけながら退き、肉体強化を少しだけ緩めて手早く詠唱する。
「奪い、融け合え。【二指を一指に】」
「うっ……ぐっ………!」
空を見上げると、墜ちる天空城を追うように、燃え上がる隕石が堕ちてきていた。
戦闘の余波で損壊していたツチノコプターを造形し直し、全速力で退避する。
重力に誘導された隕石は、正確に標的の真上に落下し。
空に浮かんだ大地と共に、塵と化した。
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