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18歳
18 二人なら
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「余計なこと、しちゃったな……」
一人ぼっちの静かな部屋で、ぽつりと呟いた。
シュナイフォード家で暮らし始めてからは、自由な時間を自室や書庫で過ごすことが多い。
けれど今日は、本人不在の中、ジークベルトの私室にいた。
ここにいなくちゃいけない。そんな気がしたからだ。ソファの隅で縮こまり、ぐるぐると考えていた。
私は昨日、ジークベルトの前で、彼を傷つけるようなことをしてしまった。
彼の両親から届いた絵葉書を並べ、二人が姿を消した理由を暴いたのだ。
忙しくしていたからか、ジークベルトは絵葉書のことをあまり気にしていないようだった。
だからきっと、私がなにもしなければ、なんにも知らずにいられたんだ。
いずれ知ることだから、と笑ってくれたけど、すごくつらいはずだ。
今は、まだ午前中。お昼の休憩まで、ジークベルトと顔を合わせることはないだろう。
私は本当のことを知らないまま、一人で膝を抱えている。
やっぱりただの旅行だったよと言われて、二人で笑うことができればいいと思う。でも、そうはいかないって、なんとなくわかってる。
服の裾を掴み、唇をぐっと結んだ。
あの人のために、私が伝えるべき言葉って、なんだろう。
心配ないよ、って声をかける?
あなたのことを思って、ご両親はなにも言わなかったんだよ、とでも言ってみる?
あなたなら頑張れる、とか?
……どれも違う。私が伝えたいことも、彼が言われたいことも、きっと、この中にはない。
「私に、できること……」
頑張って考えてみたけれど、なにをどう言うべきなのか、わからなかった。
そうやって過ごしているうちにドアが開いた。休憩に入ったジークベルトがやってきたんだろう。
足音がゆっくりと近づいてくる。目の前で止まったその人を見るために顔を上げた。
「ジーク……」
「今日はここにいたんだね」
そう言って、彼は微笑む。迷子を安心させるような、優しい表情だった。
本当なら、そうやって気遣わなくちゃいけないのは、私だ。
昨夜は落ち着いていられたけど、一人になったら、弱い部分が出てしまった。
ジークベルトは大きな手で私の頭に触れてから、隣に腰を落ち着けた。
「……僕たちの考えていた通りだったよ」
「そう……」
きっと、知らないほうが楽だった。
私が余計なことをしたせいで、大好きな人を苦しめてしまった。
「アイナ」
そっと肩に手を回され、優しく引き寄せられる。ぽすん、と軽く体が触れ合った。
「アイナ、どうか気にしないで欲しい」
「……」
つらいのは、隣に座るこの人のはずだ。
それなのに、こんなことを言わせてしまうなんて。
「……僕は、君を気遣ってるわけじゃないんだ」
「へ……?」
「……怖かったんだ。急に両親がいなくなって……自分は捨てられたんじゃないかって。この家も、僕のことも、どうでもいいと思われてたんじゃないかって。でも、両親を信じたい気持ちもあった。その狭間で、僕は怯えていた。自分でも気が付かないうちに、事実と向き合うことを避けていたんだ」
小さな声で紡がれた言葉は、少し、震えていた。
ジークベルトは、小さく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
それからこちらに身体を傾けて、少しの重さを預けてきた。
私を潰さないよう気をつけて。でも確かに、寄り掛かってくれたんだ。
「でも、そんなとき。……アイナ。きみが、来てくれた」
彼の声は、もう、震えてはいなかった。
「本当に嬉しかったんだ。両親に放置されたって、君がいればやっていけると思った。昨日と今日、色々あって……。なにも知らないままの方が楽だったのかな、と思ったりもした。けど、僕もこの家も、捨てられたわけじゃなかったんだ。それがわかって、よかったと思ってる」
「そっ、か……」
――両親に、家ごと捨てられたのかもしれない。
この人は、そんな気持ちを一人で抱え込んでいたんだ。
気持ちや心は本人だけのものだ。
私の苦しみが完全に理解されることはないし、私も、他の誰かのつらさを全てわかってあげることはできない。
でも、こうやって寄り掛かって、言葉にして、重さを分けてもらって初めて、苦しんでいたことを知る。
知ったから、わかりたい、少しでも心を軽くしてあげたい、笑っていて欲しいと思えるようになって、その手を掴めるんだ。
「1年ぐらいで戻ってくるって。だから、もう半分は終わってる」
「うん」
「二人はきっと、無事に戻ってくる。それまで、僕は家を守ろうと思う。でも、僕一人じゃ無理みたいなんだ」
ジークベルトは、名残惜しそうに私から離れ、姿勢を正す。
隣に座ったまま、私の手に大きな手のひらを重ね、力を込めた。
「これからも、僕と一緒にいて欲しい」
私は空いている手を、彼のそれに重ねた。これだけでも答えになるのかもしれない。
けど、言葉にすることの大切さも、少しは知っているつもりだ。
「いる。ずっといる。あなたのそばに、ずっといる」
気の利いた台詞なんて、思いつかなかった。
でも、今は。ただ素直に、飾らずに。1番大事なことを伝えればいいんだ。
「嫌だって言われても、一緒にいるよ」
「……ありがとう、アイナ」
私は、もういい夫婦になったつもりでいた。妻になる人として、彼を支えているつもりだった。
でも、シュナイフォード家を背負うどころか、お互いの苦しみを分け合うことだって、できていなかった。
思えば、私はジークベルトの胸で泣いたけど、彼は私に涙を見せていない。
甘えてくることはあっても、泣き顔は見せてくれないのだ。
次期当主と、その妻としても。これから一緒にやっていく二人としても。
私たちは、まだまだ未熟で、足りないものもたくさんあって……。
足りないからこそ補い合える部分も、きっとある。
学ぶことも、考えるべきこともたくさんあるけれど、とりあえずの目標は――
「ジーク」
「うん?」
「あなたのこと、泣かせてみせるから」
「……なんで?」
強く、優しく、頼もしい人になりたい。あなたが涙を見せられるぐらいに。
一人ぼっちの静かな部屋で、ぽつりと呟いた。
シュナイフォード家で暮らし始めてからは、自由な時間を自室や書庫で過ごすことが多い。
けれど今日は、本人不在の中、ジークベルトの私室にいた。
ここにいなくちゃいけない。そんな気がしたからだ。ソファの隅で縮こまり、ぐるぐると考えていた。
私は昨日、ジークベルトの前で、彼を傷つけるようなことをしてしまった。
彼の両親から届いた絵葉書を並べ、二人が姿を消した理由を暴いたのだ。
忙しくしていたからか、ジークベルトは絵葉書のことをあまり気にしていないようだった。
だからきっと、私がなにもしなければ、なんにも知らずにいられたんだ。
いずれ知ることだから、と笑ってくれたけど、すごくつらいはずだ。
今は、まだ午前中。お昼の休憩まで、ジークベルトと顔を合わせることはないだろう。
私は本当のことを知らないまま、一人で膝を抱えている。
やっぱりただの旅行だったよと言われて、二人で笑うことができればいいと思う。でも、そうはいかないって、なんとなくわかってる。
服の裾を掴み、唇をぐっと結んだ。
あの人のために、私が伝えるべき言葉って、なんだろう。
心配ないよ、って声をかける?
あなたのことを思って、ご両親はなにも言わなかったんだよ、とでも言ってみる?
あなたなら頑張れる、とか?
……どれも違う。私が伝えたいことも、彼が言われたいことも、きっと、この中にはない。
「私に、できること……」
頑張って考えてみたけれど、なにをどう言うべきなのか、わからなかった。
そうやって過ごしているうちにドアが開いた。休憩に入ったジークベルトがやってきたんだろう。
足音がゆっくりと近づいてくる。目の前で止まったその人を見るために顔を上げた。
「ジーク……」
「今日はここにいたんだね」
そう言って、彼は微笑む。迷子を安心させるような、優しい表情だった。
本当なら、そうやって気遣わなくちゃいけないのは、私だ。
昨夜は落ち着いていられたけど、一人になったら、弱い部分が出てしまった。
ジークベルトは大きな手で私の頭に触れてから、隣に腰を落ち着けた。
「……僕たちの考えていた通りだったよ」
「そう……」
きっと、知らないほうが楽だった。
私が余計なことをしたせいで、大好きな人を苦しめてしまった。
「アイナ」
そっと肩に手を回され、優しく引き寄せられる。ぽすん、と軽く体が触れ合った。
「アイナ、どうか気にしないで欲しい」
「……」
つらいのは、隣に座るこの人のはずだ。
それなのに、こんなことを言わせてしまうなんて。
「……僕は、君を気遣ってるわけじゃないんだ」
「へ……?」
「……怖かったんだ。急に両親がいなくなって……自分は捨てられたんじゃないかって。この家も、僕のことも、どうでもいいと思われてたんじゃないかって。でも、両親を信じたい気持ちもあった。その狭間で、僕は怯えていた。自分でも気が付かないうちに、事実と向き合うことを避けていたんだ」
小さな声で紡がれた言葉は、少し、震えていた。
ジークベルトは、小さく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
それからこちらに身体を傾けて、少しの重さを預けてきた。
私を潰さないよう気をつけて。でも確かに、寄り掛かってくれたんだ。
「でも、そんなとき。……アイナ。きみが、来てくれた」
彼の声は、もう、震えてはいなかった。
「本当に嬉しかったんだ。両親に放置されたって、君がいればやっていけると思った。昨日と今日、色々あって……。なにも知らないままの方が楽だったのかな、と思ったりもした。けど、僕もこの家も、捨てられたわけじゃなかったんだ。それがわかって、よかったと思ってる」
「そっ、か……」
――両親に、家ごと捨てられたのかもしれない。
この人は、そんな気持ちを一人で抱え込んでいたんだ。
気持ちや心は本人だけのものだ。
私の苦しみが完全に理解されることはないし、私も、他の誰かのつらさを全てわかってあげることはできない。
でも、こうやって寄り掛かって、言葉にして、重さを分けてもらって初めて、苦しんでいたことを知る。
知ったから、わかりたい、少しでも心を軽くしてあげたい、笑っていて欲しいと思えるようになって、その手を掴めるんだ。
「1年ぐらいで戻ってくるって。だから、もう半分は終わってる」
「うん」
「二人はきっと、無事に戻ってくる。それまで、僕は家を守ろうと思う。でも、僕一人じゃ無理みたいなんだ」
ジークベルトは、名残惜しそうに私から離れ、姿勢を正す。
隣に座ったまま、私の手に大きな手のひらを重ね、力を込めた。
「これからも、僕と一緒にいて欲しい」
私は空いている手を、彼のそれに重ねた。これだけでも答えになるのかもしれない。
けど、言葉にすることの大切さも、少しは知っているつもりだ。
「いる。ずっといる。あなたのそばに、ずっといる」
気の利いた台詞なんて、思いつかなかった。
でも、今は。ただ素直に、飾らずに。1番大事なことを伝えればいいんだ。
「嫌だって言われても、一緒にいるよ」
「……ありがとう、アイナ」
私は、もういい夫婦になったつもりでいた。妻になる人として、彼を支えているつもりだった。
でも、シュナイフォード家を背負うどころか、お互いの苦しみを分け合うことだって、できていなかった。
思えば、私はジークベルトの胸で泣いたけど、彼は私に涙を見せていない。
甘えてくることはあっても、泣き顔は見せてくれないのだ。
次期当主と、その妻としても。これから一緒にやっていく二人としても。
私たちは、まだまだ未熟で、足りないものもたくさんあって……。
足りないからこそ補い合える部分も、きっとある。
学ぶことも、考えるべきこともたくさんあるけれど、とりあえずの目標は――
「ジーク」
「うん?」
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