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2章 学園生活

7 鮮血姫の余裕と、守りたい男

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 逃げていくクラリスたちを冷ややかに眺めつつ、アーロンは小さくため息をついた。
 遠目ではあったが、クラリスがマリアベルに敵意を抱いていることはわかった。
 マリアベルがいつもご機嫌なものだから、アーロンは、彼女はいじめなど受けていないと思い込んでいた。
 だが、これである。
 クラリスは当然のようにマリアベルに絡んでいたし、マリアベルもずいぶんと慣れた様子だった。
 おそらく、今日から始まったものではない。
 今いたのがクラリスだったというだけで、他の女子からも嫌がらせを受けている可能性だってある。
 アーロンは、マリアベルがいじめの標的になっていると気が付けなかった自分と、マリアベルをやっかむ者たちに、怒りを抱いた。

「……ベル。ごめん。きみが困っていることに、もっと早くに気が付けなくて」
「このくらいは、私も覚悟しておりましたから。けれど、私だけならともかく、コレットを巻き込むことになるのは困りますねえ」

 マリアベルは傷ついた様子もなく、うーんどうしましょう、と頭を悩ませている。
 そう、マリアベルはこういう性格なのだ。
 ドレスすら買えないほどに貧乏で、領地を守るために魔物を狩って狩って狩りまくる暮らし。
 そんな生活をしていたからか、彼女は同級生女子の嫌がらせぐらいでは動じない。
 襲い来る魔物をばっさばっさと倒し、血を浴びる生活を長年続けていた人が、明らかに自分より弱い女子がきゃんきゃん吠えているのを気にするだろうか?
 気にしないのである、これが。
 彼女が自覚しているかどうかは不明だが、マリアベルは、ちょっとした嫌がらせなど「あら風が吹いたわね」ぐらいにしか思わない、強者であった。

 だが、そんなマリアベルだって、コレットにも危害が及ぶとなれば、黙っている気はなかった。
 アーロンが登場しなければ、クラリスに奪われたクッキーはマリアベルが取り返すつもりだったのだ。
 その場合は、これまでの戦闘経験をもとにしたちょっと強引なやり方になっていただろうから、平和的にこの場をおさめてくれたアーロンには感謝している。

 そのあと、アーロンは、こういったことは日常的に起きているのか、起きるタイミングはいつかとマリアベルに質問。
 放課後の魔研活動中は大丈夫。
 マリアベルが言うには、始業前と、授業の合間。それから、昼休みにこのようなことが起きることもある、とのことだった。

「そっ、か……」

 マリアベルがしれっといじめられていたことを知り、アーロンはどうしたものかと考えを巡らせる。
 学年もクラスも違うアーロンは、いつも彼女のそばにいられるわけじゃない。
 けれど、せめて昼休みだけでも一緒にいれば……。
 公爵家のアーロンが近くにいる以上、それ以下の家柄の者は、マリアベルに手出しができないはずだ。
 公爵家同士であっても、国の剣とまで呼ばれるアークライト家の嫡男の前で、アーロンが大切にする人をどうこうできる者は、そうそういない。
 
「あのさ、ベル。女子二人に割り込むようで、申し訳ないんだけど……。僕も、お昼をご一緒してもいいかな? 実は、ちょっと前から僕もお弁当を用意するようになったんだ」

 アーロンは、遠慮がちに笑いながらも、昼食が入った小さなバッグを掲げてみせた。
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