ライオ・バディヌリー 

鴨クリームコロッケ

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SESSION1

孤独者二人のア・カペラ プレリュード

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ライオ・バディヌリー SESSION1 孤独者達のア・カペラ
          ――――――プレリュード――――――  
 ―何処か―
暗い、黒い、研究所に、おどろおどろしい音が響き渡る。
「漸く、ようやく完成した。長い月日を懸け、私は成したのだ!」
 一人の老人の声が、響く。薄暗い研究所の地下室で、陰気に、
不気味に、孤独な男の声が木霊する。
まるで幼い子どものように、且つこの世の終わりを伝えるように、響く、響く。
「これで私は、貴様らを滅ぼす。待っていろよ、ユーバーシュヴェンメンの狸よ!」
狂った老人の、寂しくも決断的な侵攻が今、始まろうとしていた。


 ―宙港の依頼斡旋所―
「なあオッサン、仕事ねぇかな」
「ええありますとも、この宙域には面倒事が絶えませんから」
 お決まりのやり取りが、画面越しに交わされる。
それが若き冒険家ライオと、その担当者たる丸メガネの男の日常だっった。
冒険者は一般的に、この宙港の依頼斡旋所で、専任の担当者と連絡を取り依頼を斡旋される。
しかしその担当者は、冒険家が選ぶことは出来ずない。
冒険家リストに登録する際、ランダムで決められるのである。
 だからという訳ではないが、ライオは今、目の前に映る顔が好きではなかった。
この男、面白みも無ければ真面目さもない。つまらない奴だ、と出会った当初から思っていた。
しかし担当を変更することも出来ないのでやりにくく、
自分と彼の会話は、いつもこの切り出しに始まり、そして
「では今回のお仕事も、よき成果がありますように」
「そちらも健勝であることを、私が信ずる神に祈ります」
 このいつもの流れで、終わり。本当に、つまらないものだ。
ライオは何度か定型を壊し、個人として話をしようと試みたが、相手は一向に乗ってこなかった。
もう限界だ。それが、ライオの今の気分だった。
 当たり前だろう、考えてもみて欲しい。ライオとあの担当者は、もう5年ほどの付き合いになる。
しかし、定型以外の会話をしたことなど両手の指で足数える程度。
さらに補足すれば、それすらも事務的な内容であった。
冒険家を因果な商売と断言していながらも、まだ仕事に対し未練を捨てきれないライオが、
何の面白味も感じない相手と5年も顔を合わせ続けなければならないのだ。
仕事の際には、枷を外したくもなるだろう。
 そう、ライオにとってあの男はまさしく枷であった。自分を制す枷、動き難いことこの上ない。
それに、持ってくる依頼だっていまいちスリルに欠け、満足できない。
星を侵略せんとするスペースマフィアだとか、星全体に広がる恐れのあるバイオ兵器だとか、
ライオはもっと規模の大きな、英雄的記録になるものを欲する。
そしてなにより、並の賞金首の拘束や、傭兵の真似事は稼ぎも良いとは言えない。
 彼には、夢があった。いや、夢などという大きなものではない。
もっと小さな目標、いつか絶対に届くもの、彼は自分の商売道具の新調を望んでいた。
ライオことライオ・リカルドは、
5年以上も冒険家をしていながら、自前の移動手段及び機動戦力が、
買った当時で2世代前のモビル・ブースターのみという残念な男であった。
それは彼に金がないことを意味しているが、同時にそれなりの修羅場を潜っていながら、
そんな装備で生き残ることが出来る程度には腕があるということとも言える。
「もう、専属の仲介屋を雇ってしまおうか」
 ライオは冗談とも、本気ともとれるトーンで呟いた。
報酬の一部を渡すという条件で、良い仕事をとってくる「仲介屋」と呼ばれる者を雇えば、
あの男とは会わずに済む。
斡旋所は星営の宙港により運営されるため、職員も自ずとそこで働く公僕から選ばれる。
つまり仕事の仕入れがその星の政府に頼りきりなのだ。
 しかし、仲介屋は違う。彼らは自由人であり、依頼の請負専門だ。
裏社会ともそれなりに繋がりがある者が多く、そちら関係の依頼も舞い込んでくる。
それなりに報酬は差っ引かれるが、それでも割の良い仕事をとってくる。
それなのに利用する者が多くないのは、彼らが持ってくる依頼が総じて危険な物だからだろう。
だがライオなら、それすらも完遂して見せる。
しかし、大変残念な事に、ライオにはそもそも仲介屋とコンタクトをとる伝手が無かった。
結局この話は夢物語という訳だ。しかし
「まあ無理なことをとやかく言う前に、お仕事しましょうかねっと」
 しかし、ライオは時に無理なら無理でやりようはあると言う男でもあった。
ライオは、口笛を吹きながら骨董品とすら言える自身の愛機、かの英雄アーサーが駈っていた機体にあやかり名を付けた「カリバーン」に搭乗し、目的の星へと向かうのであった。
 だが、彼は知る由もなかった。
自分がこれから宇宙全体を危機に陥れる事態に巻き込まれようとしている事を。
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