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第2章
不妊-1
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【報告
久しぶりのブログ更新です。実は思わぬことが起きました。
現在体外受精お休み中ですが、今日、今後の相談と、生理が来ないのもあってクリニックを受診しました。そしたらなんと、妊娠していたのです!しかもエコーで赤ちゃんも見えて心拍も確認できました。
本当に信じられません。生理が来ないのも、ホルモンバランスの乱れだとばかり思い込んでいたんです。
出産まで、まだまだこれから山あり谷ありかと思いますが、今は喜んでいてもいいですよね?
それもこれも、全て皆さんの応援のおかげだと感謝しています。本当にありがとう】
アリツェのブログだ。治療の合間の自然妊娠か。アクアには、まず望めない幸運だ。
つい同じ体外受精仲間の妊娠に複雑な思いを抱いたが、アクアはすぐにコメントを書き込んだ。
【こんにちは。アリツェさん。過フェインです。
やったー。心拍確認、おめでとうございます。治療の合間にポンと妊娠って、本当にあるんですね。
私は明日、胚移植の予定です。遙かヨーロッパから妊娠菌を届けて下さい!】
明日の移植に向けて休みを取っている。普段の平日前の夜とは違って、幾らか解放された気分だ。
アクアは六月から、派遣社員として、銀行のコールセンター業務に就いていたが、電話応対の仕事が肌に合わず、毎日毎日、精神的苦痛に晒されていた。
内容は主に、個人の顧客からの口座残高照会、住所変更などの手続き、住宅ローンや預金金利など、金融商品に関する問い合わせへの応対だ。
電話で話すのが好きか嫌いか、得意か苦手か? アクアは嫌いで苦手だった。なのに応募してしまった理由は、条件である。
完全週休二日、祝日休み。その他、勤務日数が月間に十四日以上であれば、ある程度まで自由に休みを計画できる。
勤務時間は九時から四時というアクアの希望が通った。勤務地もJR浜松駅から徒歩五分で、沢野レディース・クリニックに近く、仕事帰りに余裕を持って通院できる。
電話は怖い。それでも、とにかく一件一件を確実にこなす。怒鳴ってくる相手に対しては、ひたすら謝り怒りが静まるのを待つ。
慣れてくれば、多分もっと楽な気持ちでこなせるようになるだろう。それまでの辛抱だ。
唯一の救いは、仕事仲間たちの存在だった。休憩時に楽しくお喋りしたり、仕事帰りに大好きなコーヒーを飲むなど、プライベートな付き合いもできた。
「今週末は、いよいよエリンが亡くなって三年ね。お墓参りに行かなくちゃ」
パソコン用テーブルから化粧台に移動したアクアは、鏡の中の、ベッドの上でマンガを呼んでいる凛也に話しかけた。凛也がマンガから顔を上げる。
「エリンは確か、アイスが好きだよな。アイスを買っていってやろう」
アクアは笑った。
「お供えが終わったら、エリンのアイスは私が食べる。凛也のメタボ対策のためにね」
アクアは化粧水を顔につけてパッティングしながら、抗議する鏡の向こうの凛也を、微笑ましく眺めた。
「明日、クリニックに行くんだろう? 秋歩に、鷲津駅まで乗せて行くように言っておこうか? あいつ、明日は休みのはずだから」
凛也の提案を、アクアは断った。
「いいの。帰りのこともあるし、車で直接、行くことにする。私、運転が好きだしね」
頼まれれば秋歩は引き受けてくれるだろうが、やはり気を使う。
通勤時、アクアは自宅からJR鷲津駅の往復に自転車を利用している。鷲津駅、浜松駅間の通勤定期を購入しているが、派遣会社から交通費は支給されないので、自費である。
胚移植とは、要するに子宮内にそっと胚を置くだけのことだ。
移植後、帰りの自転車でガタゴトと揺られるのは、それだけで成功率が下がるような気がして、いただけない。
せっかくの通勤定期だが、アクアは車で直接クリニックに行くと決めていた。
久しぶりのブログ更新です。実は思わぬことが起きました。
現在体外受精お休み中ですが、今日、今後の相談と、生理が来ないのもあってクリニックを受診しました。そしたらなんと、妊娠していたのです!しかもエコーで赤ちゃんも見えて心拍も確認できました。
本当に信じられません。生理が来ないのも、ホルモンバランスの乱れだとばかり思い込んでいたんです。
出産まで、まだまだこれから山あり谷ありかと思いますが、今は喜んでいてもいいですよね?
それもこれも、全て皆さんの応援のおかげだと感謝しています。本当にありがとう】
アリツェのブログだ。治療の合間の自然妊娠か。アクアには、まず望めない幸運だ。
つい同じ体外受精仲間の妊娠に複雑な思いを抱いたが、アクアはすぐにコメントを書き込んだ。
【こんにちは。アリツェさん。過フェインです。
やったー。心拍確認、おめでとうございます。治療の合間にポンと妊娠って、本当にあるんですね。
私は明日、胚移植の予定です。遙かヨーロッパから妊娠菌を届けて下さい!】
明日の移植に向けて休みを取っている。普段の平日前の夜とは違って、幾らか解放された気分だ。
アクアは六月から、派遣社員として、銀行のコールセンター業務に就いていたが、電話応対の仕事が肌に合わず、毎日毎日、精神的苦痛に晒されていた。
内容は主に、個人の顧客からの口座残高照会、住所変更などの手続き、住宅ローンや預金金利など、金融商品に関する問い合わせへの応対だ。
電話で話すのが好きか嫌いか、得意か苦手か? アクアは嫌いで苦手だった。なのに応募してしまった理由は、条件である。
完全週休二日、祝日休み。その他、勤務日数が月間に十四日以上であれば、ある程度まで自由に休みを計画できる。
勤務時間は九時から四時というアクアの希望が通った。勤務地もJR浜松駅から徒歩五分で、沢野レディース・クリニックに近く、仕事帰りに余裕を持って通院できる。
電話は怖い。それでも、とにかく一件一件を確実にこなす。怒鳴ってくる相手に対しては、ひたすら謝り怒りが静まるのを待つ。
慣れてくれば、多分もっと楽な気持ちでこなせるようになるだろう。それまでの辛抱だ。
唯一の救いは、仕事仲間たちの存在だった。休憩時に楽しくお喋りしたり、仕事帰りに大好きなコーヒーを飲むなど、プライベートな付き合いもできた。
「今週末は、いよいよエリンが亡くなって三年ね。お墓参りに行かなくちゃ」
パソコン用テーブルから化粧台に移動したアクアは、鏡の中の、ベッドの上でマンガを呼んでいる凛也に話しかけた。凛也がマンガから顔を上げる。
「エリンは確か、アイスが好きだよな。アイスを買っていってやろう」
アクアは笑った。
「お供えが終わったら、エリンのアイスは私が食べる。凛也のメタボ対策のためにね」
アクアは化粧水を顔につけてパッティングしながら、抗議する鏡の向こうの凛也を、微笑ましく眺めた。
「明日、クリニックに行くんだろう? 秋歩に、鷲津駅まで乗せて行くように言っておこうか? あいつ、明日は休みのはずだから」
凛也の提案を、アクアは断った。
「いいの。帰りのこともあるし、車で直接、行くことにする。私、運転が好きだしね」
頼まれれば秋歩は引き受けてくれるだろうが、やはり気を使う。
通勤時、アクアは自宅からJR鷲津駅の往復に自転車を利用している。鷲津駅、浜松駅間の通勤定期を購入しているが、派遣会社から交通費は支給されないので、自費である。
胚移植とは、要するに子宮内にそっと胚を置くだけのことだ。
移植後、帰りの自転車でガタゴトと揺られるのは、それだけで成功率が下がるような気がして、いただけない。
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