藍色バース

弓川ルツ

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第6章

ファーザーズ・クライ-9

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アクアがバスで浜名医療センターまでやって来た頃、強い風に混ざって、雨が降り始めた。
昼間は晴れていたので、雨は全く予想外だった。

アクアは病院入口の車寄せの部分で、迅にメールした。

【病院まで来ちゃったよ。とにかく、待ってるね】

アクアは自動ドアを二つくぐり抜け、ロビーに入った。

浜名医療センターは、ほんの何年か前、浜松駅の近くから移転してきた。
従って建物は新しい。

アクアはこの病院に過去、何度か訪れたことがある。
いずれも知人や親戚の見舞いだ。

広いロビーには人っ子一人いなかった。

受付や会計の窓口も閉じられている。
それでもロビーの奥の突き当たりにある大画面のテレビは点いていた。

アクアは奥に向かい、テレビがよく見える位置のソファに腰掛けた。
一人でも誰か他にいれば良いのに。

妙に居づらい。
病院のスタッフから声を掛けられたりするだろうか。

いくらも経たないうちに、アクアが座っている位置より入口側にある階段を、バタバタと駆け下りて来る音が響いてきた。

チラッと確認した姿では、医師のようだ。
一階に降り立つと、自動ドアに向かって、駆けていく。

後ろ姿で分かった。迅だ。

アクアは立ち上がった。
迅は自動ドアを急いでくぐり抜けて行った。
アクアも自動ドアに向かう。

外へ出ると、迅は右を向いたり左を向いたりで、誰かを捜しているように見えた。

入口を振り返り、アクアを見つけると、微笑んだ。
暖かい笑みだ。

初めて見た白衣姿の迅。
勝手に職場までやって来たアクアを迷惑がることなく、優しい態度で迎える迅。

いつも以上に魅力的な笑顔。

アクアは切なくて堪らなくなった。
今、ここで迅の胸に飛び込みたい。

愛子の話は、なぜかは分からないが、愛子の単なる勘違いなのかもしれない。
おそらくは言葉のやりとりの微妙なニュアンスで生じた、ただの勘違い。

迅は笑顔のまま、アクアに近寄ってくる。
風のせいで髪の毛がボサボサだ。

「良かった。アクアさんがすぐに見つかって」

アクアの暗いネガティブな感情が溶け去っていく。
変わりに愛しさと切なさが、強烈にこみ上げてくる。

「ごめんね、押し掛けてきちゃって」

迅はアクアを見つめて、何かを差し出した。車のキーだ。

「まだ、しばらく掛かるんだ。ロビーで待っててくれてもいいけど、誰もいないしね」

迅は続いて職員用駐車場の場所を説明した。
迅の心遣いがアクアはとても嬉しかった。

「それから、先に言っておくけど、実は今日、あまり時間が取れないんだ」

迅は言いにくそうにつけ加える。
アクアの胸の奥底で、再び黒々とした渦が湧き起こってきた。

何か他の用事があるかのような言い方。

女と会う予定なのか?

「そうなんだ。仕方ないね……。いいよ、とりあえず仕事に戻って。また後でね」

迅は頷いて、屋内へ戻って行こうとした。
二~三歩歩いたところで、急にアクアに笑顔を振り向ける。

「わざわざ病院まで来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」
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