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第8章
魔法の意図-4
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迅はソファに凭れまどろんでいた。
昨夜、秋歩のお腹を撫でていた時の感覚を思い出している。
イメージが伝わってくる寸前だった。
イメージとは、赤ん坊からのメッセージ。
迅は半分眠った頭で、イメージを想像する。
あるいは創造なのかもしれない。
藍色?
いや、そんな生易しいものではない。
では、何だろう?
赤ん坊は今、何を感じている?
赤ん坊からどんな色を感じられるんだろう。
秋歩のお腹に触れれば、きっと分かる……。
急に迅は怖くなった。
今となっては、赤ん坊の気持ちなど知らないほうがいいのだ。
やめておこう。
分娩室へ入って、小一時間くらい経ってから、秋歩が病室へ戻ってきた。
産まれたのかと思ったら、違った。
分娩室に入っていくらも経たないうちに、陣痛が遠のき弱くなり、ほとんど痛みがなくなってしまったという。
迅は安堵し、体の力が抜けた。
赤ん坊はまだ生きている。
だが、それも束の間だった。
秋歩は二回目の陣痛誘発剤の投与を受けた。
また、赤ん坊を苦しめてしまうのか。
死に逝く苦しみなのだから、のたうち回るような、想像を絶する苦痛に違いない。
自分はなんて無力なんだろう。
小さく愛しい我が子を苦しみから守ってやることができない。
思いの外、秋歩の容態に変化は訪れなかった。
いつまで経っても陣痛はやって来ない。
時間が経過し、秋歩は三回目の薬を投与されたが、状況は二回目と変わらなかった。
迅は、俄に強い希望を持ち始めた。
赤ん坊は、生き延びる。
生きて産まれる運命にあるのだ。
だから、薬にも勝利した……。
時々、秋歩は「胎動を感じる」と、お腹を撫でる仕草をした。
迅は嬉しくなった。素晴らしい生命力……。
きっと並外れて元気な赤ん坊に違いない。
やがて夕方を過ぎ、外が暗くなった。
いっこうに起きない陣痛に、秋歩は待ち疲れたのか、眠りに落ちたようだ。
規則的で小さな寝息を立て始めた。寝顔はやつれ果てて、苦しそうな表情だ。
迅は、居酒屋を出た後、酔った秋歩に腕を取られて、誘いを受けた情景を思い出していた。
アクアの夫の妹であると理由から、迅は秋歩に興味を抱いた。
が、それだけでなく、秋歩のある仕草が気になっていた。
居酒屋で話している時、居酒屋から出て迅を誘う時、長瀬家で初めて秋歩と出会った時、不思議と逸らしがちな視線は、秋歩の癖なのだろうか。
秋歩は賢くて気が強いが、どこか脆く優しさのある女性だ。
秋歩に誘われた時、迅も、もう少し秋歩と一緒にいたいと願っていた。
何より、淋しかった。
こうして秋歩との間に子を授かったのは、紛れもなくアクアと巡り会ったせいだ。
だから、赤ん坊は迅と秋歩の子供であって、大きな意味ではアクアの子供でもある。
昨夜、秋歩のお腹を撫でていた時の感覚を思い出している。
イメージが伝わってくる寸前だった。
イメージとは、赤ん坊からのメッセージ。
迅は半分眠った頭で、イメージを想像する。
あるいは創造なのかもしれない。
藍色?
いや、そんな生易しいものではない。
では、何だろう?
赤ん坊は今、何を感じている?
赤ん坊からどんな色を感じられるんだろう。
秋歩のお腹に触れれば、きっと分かる……。
急に迅は怖くなった。
今となっては、赤ん坊の気持ちなど知らないほうがいいのだ。
やめておこう。
分娩室へ入って、小一時間くらい経ってから、秋歩が病室へ戻ってきた。
産まれたのかと思ったら、違った。
分娩室に入っていくらも経たないうちに、陣痛が遠のき弱くなり、ほとんど痛みがなくなってしまったという。
迅は安堵し、体の力が抜けた。
赤ん坊はまだ生きている。
だが、それも束の間だった。
秋歩は二回目の陣痛誘発剤の投与を受けた。
また、赤ん坊を苦しめてしまうのか。
死に逝く苦しみなのだから、のたうち回るような、想像を絶する苦痛に違いない。
自分はなんて無力なんだろう。
小さく愛しい我が子を苦しみから守ってやることができない。
思いの外、秋歩の容態に変化は訪れなかった。
いつまで経っても陣痛はやって来ない。
時間が経過し、秋歩は三回目の薬を投与されたが、状況は二回目と変わらなかった。
迅は、俄に強い希望を持ち始めた。
赤ん坊は、生き延びる。
生きて産まれる運命にあるのだ。
だから、薬にも勝利した……。
時々、秋歩は「胎動を感じる」と、お腹を撫でる仕草をした。
迅は嬉しくなった。素晴らしい生命力……。
きっと並外れて元気な赤ん坊に違いない。
やがて夕方を過ぎ、外が暗くなった。
いっこうに起きない陣痛に、秋歩は待ち疲れたのか、眠りに落ちたようだ。
規則的で小さな寝息を立て始めた。寝顔はやつれ果てて、苦しそうな表情だ。
迅は、居酒屋を出た後、酔った秋歩に腕を取られて、誘いを受けた情景を思い出していた。
アクアの夫の妹であると理由から、迅は秋歩に興味を抱いた。
が、それだけでなく、秋歩のある仕草が気になっていた。
居酒屋で話している時、居酒屋から出て迅を誘う時、長瀬家で初めて秋歩と出会った時、不思議と逸らしがちな視線は、秋歩の癖なのだろうか。
秋歩は賢くて気が強いが、どこか脆く優しさのある女性だ。
秋歩に誘われた時、迅も、もう少し秋歩と一緒にいたいと願っていた。
何より、淋しかった。
こうして秋歩との間に子を授かったのは、紛れもなくアクアと巡り会ったせいだ。
だから、赤ん坊は迅と秋歩の子供であって、大きな意味ではアクアの子供でもある。
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