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茶会
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「それでね!見たことないお花がたくさんあったの!あれはきっとユース地方のお花で⋯⋯」
ミリアは温室での出来事が本当に嬉しかったのであろう。席についてからもお茶に手をつけず、ずっと花の話をしていた。
キルシュ家の庭にも花は咲いているけれど、フィノの家は別格だったものね。ミリアがここまで喜んでくれるのなら腕のいい庭師でも雇おうかしら⋯⋯そこまで考えたけれど、キルシュ家の経済状況を思いだしてかぶりを振った。
この甘いクッキーも味がしなくなりそうだわ⋯⋯。
「⋯⋯ところで、この間のキルシュ家の襲撃事件は解決しそうなのかい?」
フィノの言葉に思考が一気に引き戻される。
そうだ。私には解決しなくてはいけないことが未だに山ほどあるのだ。ティーカップを傾ける手を止めて思わずため息を吐く。
「全然。足取りすら掴めないわ。アレンにも頼んでいるのだけれど、彼はなんにも教えてくれないし」
せめてアレンが情報を共有してくれればとも思うが、私を事件に巻き込みたくないアレンからしたらそれは絶対にないだろう。
もし心配してくれているのなら、の話だけれど。
「あの襲撃事件で襲われたのは使用人とマリア、君だけなのかい? ⋯⋯ああ、人払いは既に済ましてあるから気にしないでいい」
思わず周囲を警戒した私に、彼は諭すように言ってのけた。彼のこういった気遣いは本当にありがたい。
一瞬だけ。彼に襲撃事件の詳細を話してもいいものかと悩んだけれど、当事者である私の知っていることも多いとは言えない。不死のことだけを伏せれば事件自体は話しても問題はないだろう。
「そうね、襲われたのは私と半数の使用人。襲われた使用人にも特に共通点は無し。同郷や交流のある家であればどんなに探しやすいか⋯⋯」
「⋯⋯共通点がないとなると、見つけるのは容易ではないね。あのアレンがすぐに探し出せないのも納得だ」
その後に続くフィノの言葉に私は凍りつくことになる。
「⋯⋯ところでマリアは⋯不死⋯⋯なんだよね?」
なぜ彼が私の不死を知っているの?
「……ミリア?」
「⋯⋯ごめんなさい。彼にお姉さまの相談をしているときに、うっかり話してしまって。⋯⋯でも!彼は信用できる人だと思う」
「僕からも謝らせてくれ。君の秘密を勝手に知ってしまったこと。⋯⋯本当に申し訳ないと思っている」
「や、やめて!謝らないで。不死のことは隠していたけれど、ただ混乱を招くから言わないでほしいだけなのよ」
わざわざ席から立ち、頭を深々と下げるフィノは悪い人には見えない。むしろ、ミリアが勝手に話したのだろうに、こうやって謝罪をしてくれる彼は本当に誠実な人なんだろう。
私は話を変えるためにぱんぱんと手を叩きながら次の話を促した。折角フィノがお茶会を開いてくれたのだし、悲しい話ばかりをしたくない。
「せっかくのお茶会なんだし、物騒な話じゃなくて楽しい話をしましょう!」
「楽しい話⋯⋯やっぱりアレンとマリアのことかな」
ふふ、とフィノが切り出した話は別の意味で物騒な話であった。今はやめてくれとも思ったけれど、話の転換を促してしまった以上私はなにも言えなかった。
「そうだ!お姉さま!ミリアは未だに納得しておりません!」
ばっ!と効果音がつきそうなくらい勢いよくミリアが振り返ってこちらを見ている。
「アレンとの?あれの答えはもう出したはずよ」
「それでも、お姉さまが無理しているんじゃないかって私心配で⋯⋯」
「マリアはまんざらでもないんじゃないかな?」
「!⋯⋯ちょっと!!」
フィノの新たな爆弾に思わず席を立つと、その場に似つかわしくない揺れた声。
「⋯⋯お姉さま、ほんとうなの?」
信じられないような声色と悲しんでいるようなミリアの瞳に、私は思わずたじろいでしまった。
どうしてミリアがそんな顔をするの?
「ミリア?」
「ミリアは心配なんだよね。大好きなマリアがとられちゃうみたいで」
くすくすと揶揄うかのように話に入り込んできたフィノのお陰で場の空気が一瞬和らいだけれど、それでもミリアは気まずそうにしていた。
「え、ええ!そうなんです⋯⋯お姉さまがお嫁にいってしまったら私⋯⋯寂しくて」
それは本当⋯⋯?
とは言えなかった。
でも、長年一緒にいた姉妹だからこそわかる。あのミリアの悲しみは姉離れだけではない深い色をしていた。
ーーミリアの答えを聞くのが怖いだなんて、そんなこと思ってはいけないのに。
ミリアは温室での出来事が本当に嬉しかったのであろう。席についてからもお茶に手をつけず、ずっと花の話をしていた。
キルシュ家の庭にも花は咲いているけれど、フィノの家は別格だったものね。ミリアがここまで喜んでくれるのなら腕のいい庭師でも雇おうかしら⋯⋯そこまで考えたけれど、キルシュ家の経済状況を思いだしてかぶりを振った。
この甘いクッキーも味がしなくなりそうだわ⋯⋯。
「⋯⋯ところで、この間のキルシュ家の襲撃事件は解決しそうなのかい?」
フィノの言葉に思考が一気に引き戻される。
そうだ。私には解決しなくてはいけないことが未だに山ほどあるのだ。ティーカップを傾ける手を止めて思わずため息を吐く。
「全然。足取りすら掴めないわ。アレンにも頼んでいるのだけれど、彼はなんにも教えてくれないし」
せめてアレンが情報を共有してくれればとも思うが、私を事件に巻き込みたくないアレンからしたらそれは絶対にないだろう。
もし心配してくれているのなら、の話だけれど。
「あの襲撃事件で襲われたのは使用人とマリア、君だけなのかい? ⋯⋯ああ、人払いは既に済ましてあるから気にしないでいい」
思わず周囲を警戒した私に、彼は諭すように言ってのけた。彼のこういった気遣いは本当にありがたい。
一瞬だけ。彼に襲撃事件の詳細を話してもいいものかと悩んだけれど、当事者である私の知っていることも多いとは言えない。不死のことだけを伏せれば事件自体は話しても問題はないだろう。
「そうね、襲われたのは私と半数の使用人。襲われた使用人にも特に共通点は無し。同郷や交流のある家であればどんなに探しやすいか⋯⋯」
「⋯⋯共通点がないとなると、見つけるのは容易ではないね。あのアレンがすぐに探し出せないのも納得だ」
その後に続くフィノの言葉に私は凍りつくことになる。
「⋯⋯ところでマリアは⋯不死⋯⋯なんだよね?」
なぜ彼が私の不死を知っているの?
「……ミリア?」
「⋯⋯ごめんなさい。彼にお姉さまの相談をしているときに、うっかり話してしまって。⋯⋯でも!彼は信用できる人だと思う」
「僕からも謝らせてくれ。君の秘密を勝手に知ってしまったこと。⋯⋯本当に申し訳ないと思っている」
「や、やめて!謝らないで。不死のことは隠していたけれど、ただ混乱を招くから言わないでほしいだけなのよ」
わざわざ席から立ち、頭を深々と下げるフィノは悪い人には見えない。むしろ、ミリアが勝手に話したのだろうに、こうやって謝罪をしてくれる彼は本当に誠実な人なんだろう。
私は話を変えるためにぱんぱんと手を叩きながら次の話を促した。折角フィノがお茶会を開いてくれたのだし、悲しい話ばかりをしたくない。
「せっかくのお茶会なんだし、物騒な話じゃなくて楽しい話をしましょう!」
「楽しい話⋯⋯やっぱりアレンとマリアのことかな」
ふふ、とフィノが切り出した話は別の意味で物騒な話であった。今はやめてくれとも思ったけれど、話の転換を促してしまった以上私はなにも言えなかった。
「そうだ!お姉さま!ミリアは未だに納得しておりません!」
ばっ!と効果音がつきそうなくらい勢いよくミリアが振り返ってこちらを見ている。
「アレンとの?あれの答えはもう出したはずよ」
「それでも、お姉さまが無理しているんじゃないかって私心配で⋯⋯」
「マリアはまんざらでもないんじゃないかな?」
「!⋯⋯ちょっと!!」
フィノの新たな爆弾に思わず席を立つと、その場に似つかわしくない揺れた声。
「⋯⋯お姉さま、ほんとうなの?」
信じられないような声色と悲しんでいるようなミリアの瞳に、私は思わずたじろいでしまった。
どうしてミリアがそんな顔をするの?
「ミリア?」
「ミリアは心配なんだよね。大好きなマリアがとられちゃうみたいで」
くすくすと揶揄うかのように話に入り込んできたフィノのお陰で場の空気が一瞬和らいだけれど、それでもミリアは気まずそうにしていた。
「え、ええ!そうなんです⋯⋯お姉さまがお嫁にいってしまったら私⋯⋯寂しくて」
それは本当⋯⋯?
とは言えなかった。
でも、長年一緒にいた姉妹だからこそわかる。あのミリアの悲しみは姉離れだけではない深い色をしていた。
ーーミリアの答えを聞くのが怖いだなんて、そんなこと思ってはいけないのに。
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