8 / 10
お呼ばれ
しおりを挟む
簡単な茶会とはいってもさすが公爵。案内された庭には美しい花が咲き乱れていた。装飾も見るだけで高価なものだとわかるくらいだけれど、それでいて主役の花たちをきちんと引き立てている。
「わあ⋯⋯!すごく綺麗なお花が咲いていますよお姉さま!」
綺麗な花を見てはしゃぐミリアの姿を見ると、それだけでここに来てよかったと思う。私のせいでミリアはつい最近まで塞ぎ込んでしまっていたから、少しでも元気になるといいな。
「二人ともいらっしゃい。今日はゆっくりしていくと良い」
咲き乱れた花の中からひょっこりと顔をだしたフィノ様は、それだけでどこかの絵画のようだ。
相変わらず今日も王子様だなあ⋯⋯。
「フィノ様!お招きいただきありがとうございます」
「ミリアは花が好きなのかい?」
「はい!とっても!見ているだけで心が癒されます」
「それなら、席へ座る前に温室も見てくるといい。すぐにメイドに案内させよう」
「え!⋯⋯いいんですか?」
「もちろん」
うきうきとしたミリアはメイドと共に温室へ向かい、その場には私とフィノ様が取り残される形になった。
いきなり二人きりになってしまったことに正直緊張どころではなかったけれど、私には聞きたいことがあったからこれは好都合だ。
「あの、フィノ様⋯⋯つかぬことをお聞きしますが、ミリアのことをどうお思いになっていますの?」
そう、私が聞きたかったのは彼の気持ちだった。
「どう⋯⋯とは?」
「お恥ずかしい話ですが、今キルシュ家は苦しい状況にたたされています。それは襲撃以前から⋯⋯そんな中でミリアに近づくなど、本来はありえないはず」
「そうだね⋯⋯。利害を考えてしまったら、今キルシュ家と交友を深めるだなんて普通はしないだろう。それでも僕はミリアのことを知りたいと思ったんだ⋯⋯こんな僕にも変わらず接してくれたのは、ミリアだけだったから」
ーーアイスブルーの瞳が私を真っ直ぐに貫いた。
そう話す彼の言葉に偽りはきっとない。優しげな彼の表情は今まで幾度となく見てきたけれど、それでも、こんな愛おしげな彼の表情を見たことはなかった。
(本当にミリアのこと⋯⋯)
よかった。彼がミリアを本当に好いてくれていて。姉バカと思われるかもしれないけれど、ミリアを見初めてくれたのが彼のような人で本当に良かった。
「僕からも一ついいかい?」
「君はアレンのことをどう思っているんだ?」
ふいにフィノ様から投げかけられた疑問に、私は思わず大きな声を出しそうになった。危ない危ない⋯⋯。
「な、なぜそのようなことを?」
「だって彼があそこまで誰かを気にかけているなんて、初めて見たからね」
その言葉に思わず目を見張った。そんなはずはない。と言いたいけれど、ここ最近の彼の様子を見ると少しだけ否定するのが憚られた。それでも変に誤解を与えるわけにはいかないから、否定はするけれど。
「いやいや!そんなことはないです! むしろ彼は私のこと面白いおもちゃくらいにしか思っていません⋯⋯」
「ふっ⋯はははは!君の目には彼はそう見えるんだ?」
フィノ様はひとしきり笑ったあと「そんなことはないと思うんだけどね」と涙を拭った。まさかこんなに笑ってくれるとは。
「つい先日も、彼に怒られてしまいました」
先日の出来事をかいつまんで話す。もちろん押し倒されたことと不死のことは言わなかったけれど。
「アレンは君のことが心配だったんだね」
ーー心配。
それは先日ミリアからも伝えられたことだった。ミリアは家族だから、心配したと言われて素直受け取ることができたけれど。彼の場合はそうはいかなかった。
「本当に⋯⋯そうなのでしょうか⋯⋯?」
「彼もあれでかなり不器用だからね。きっと素直に心配したと言えなかったんじゃないかな。⋯⋯そうだ!キルシュ家でも茶会を開くといい。それでアレンも呼んで仲直りをしよう!」
「それは良い案かもしれませんが⋯⋯アレンに迷惑ではないでしょうか⋯⋯?」
ここ最近彼に頼りっぱなしで、さらに謝罪のために呼びつけるとなるといくら昔からの仲であっても気が重かった。
「むしろ彼は喜びそうだけれどね。彼の性格上本当に嫌だったら来ないと思うよ。招待状だけでも送ってみたらいい」
「た、たしかに⋯⋯」
たしかに彼の性格を考えたら、面倒だと思ったことは関わりすらしないと思う。
(フィノ様の言う通り、招待状を出すだけでも出してみようかな。)
「私のことまで気にかけていただき、本当にありがとうございます」
彼に向かって深々とお辞儀をすると彼は少しだけ慌てたあと、にっこりと微笑んだ。
「ううん、僕で良かったらいつでも話を聞くよ。それに、僕のことはフィノでいい。改めてよろしくね、マリア」
「ええ、よろしく。フィノ」
こうして茶会が始まった
「わあ⋯⋯!すごく綺麗なお花が咲いていますよお姉さま!」
綺麗な花を見てはしゃぐミリアの姿を見ると、それだけでここに来てよかったと思う。私のせいでミリアはつい最近まで塞ぎ込んでしまっていたから、少しでも元気になるといいな。
「二人ともいらっしゃい。今日はゆっくりしていくと良い」
咲き乱れた花の中からひょっこりと顔をだしたフィノ様は、それだけでどこかの絵画のようだ。
相変わらず今日も王子様だなあ⋯⋯。
「フィノ様!お招きいただきありがとうございます」
「ミリアは花が好きなのかい?」
「はい!とっても!見ているだけで心が癒されます」
「それなら、席へ座る前に温室も見てくるといい。すぐにメイドに案内させよう」
「え!⋯⋯いいんですか?」
「もちろん」
うきうきとしたミリアはメイドと共に温室へ向かい、その場には私とフィノ様が取り残される形になった。
いきなり二人きりになってしまったことに正直緊張どころではなかったけれど、私には聞きたいことがあったからこれは好都合だ。
「あの、フィノ様⋯⋯つかぬことをお聞きしますが、ミリアのことをどうお思いになっていますの?」
そう、私が聞きたかったのは彼の気持ちだった。
「どう⋯⋯とは?」
「お恥ずかしい話ですが、今キルシュ家は苦しい状況にたたされています。それは襲撃以前から⋯⋯そんな中でミリアに近づくなど、本来はありえないはず」
「そうだね⋯⋯。利害を考えてしまったら、今キルシュ家と交友を深めるだなんて普通はしないだろう。それでも僕はミリアのことを知りたいと思ったんだ⋯⋯こんな僕にも変わらず接してくれたのは、ミリアだけだったから」
ーーアイスブルーの瞳が私を真っ直ぐに貫いた。
そう話す彼の言葉に偽りはきっとない。優しげな彼の表情は今まで幾度となく見てきたけれど、それでも、こんな愛おしげな彼の表情を見たことはなかった。
(本当にミリアのこと⋯⋯)
よかった。彼がミリアを本当に好いてくれていて。姉バカと思われるかもしれないけれど、ミリアを見初めてくれたのが彼のような人で本当に良かった。
「僕からも一ついいかい?」
「君はアレンのことをどう思っているんだ?」
ふいにフィノ様から投げかけられた疑問に、私は思わず大きな声を出しそうになった。危ない危ない⋯⋯。
「な、なぜそのようなことを?」
「だって彼があそこまで誰かを気にかけているなんて、初めて見たからね」
その言葉に思わず目を見張った。そんなはずはない。と言いたいけれど、ここ最近の彼の様子を見ると少しだけ否定するのが憚られた。それでも変に誤解を与えるわけにはいかないから、否定はするけれど。
「いやいや!そんなことはないです! むしろ彼は私のこと面白いおもちゃくらいにしか思っていません⋯⋯」
「ふっ⋯はははは!君の目には彼はそう見えるんだ?」
フィノ様はひとしきり笑ったあと「そんなことはないと思うんだけどね」と涙を拭った。まさかこんなに笑ってくれるとは。
「つい先日も、彼に怒られてしまいました」
先日の出来事をかいつまんで話す。もちろん押し倒されたことと不死のことは言わなかったけれど。
「アレンは君のことが心配だったんだね」
ーー心配。
それは先日ミリアからも伝えられたことだった。ミリアは家族だから、心配したと言われて素直受け取ることができたけれど。彼の場合はそうはいかなかった。
「本当に⋯⋯そうなのでしょうか⋯⋯?」
「彼もあれでかなり不器用だからね。きっと素直に心配したと言えなかったんじゃないかな。⋯⋯そうだ!キルシュ家でも茶会を開くといい。それでアレンも呼んで仲直りをしよう!」
「それは良い案かもしれませんが⋯⋯アレンに迷惑ではないでしょうか⋯⋯?」
ここ最近彼に頼りっぱなしで、さらに謝罪のために呼びつけるとなるといくら昔からの仲であっても気が重かった。
「むしろ彼は喜びそうだけれどね。彼の性格上本当に嫌だったら来ないと思うよ。招待状だけでも送ってみたらいい」
「た、たしかに⋯⋯」
たしかに彼の性格を考えたら、面倒だと思ったことは関わりすらしないと思う。
(フィノ様の言う通り、招待状を出すだけでも出してみようかな。)
「私のことまで気にかけていただき、本当にありがとうございます」
彼に向かって深々とお辞儀をすると彼は少しだけ慌てたあと、にっこりと微笑んだ。
「ううん、僕で良かったらいつでも話を聞くよ。それに、僕のことはフィノでいい。改めてよろしくね、マリア」
「ええ、よろしく。フィノ」
こうして茶会が始まった
0
あなたにおすすめの小説
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜
みおな
恋愛
転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?
だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!
これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?
私ってモブですよね?
さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる