たとえ破滅するとしても婚約者殿とだけは離れたくない。だから、遅れてきた悪役令嬢、あんたは黙っててくれないか?

桜枕

文字の大きさ
15 / 84
第1章

第15話 クラスメイトを救ってみた

しおりを挟む
 学園から少し離れた山で行われる伝統の校外学習は、全校生徒が強制参加させられるイベントで剣術、魔術、薬術クラスに別れてフィールドワークを行うことになっている。

 各クラスでチーム分けをして課題に取り組むことになっていて、うちのチームは俺、リューテシア、カーミヤ嬢、そして彼女の取り巻き二名というメンバーだ。

 カーミヤ嬢の取り巻きが騒ぐかと思っていたが、今日の二人はおとなしめの令嬢で真面目にレポートを作成していた。

「こんな場所にも薔薇が咲いていましてよ」

「時期的には今が見頃だからな」

「ですが、あまり元気がありませんね。土壌の問題でしょうか」

「そうでしょうね。水はけが良すぎるわ」

 取り巻きの一人の何気ない発言に対して、俺、リューテシア、カーミヤ嬢が解説を始める。

 俺とリューテシアはともかく、カーミヤ嬢も草木に関しての知識は豊富だ。なんでも毒性のある草木に興味があるとか。

「毒だと言うから悪いものだと感じるだけで、毒も薬も紙一重ですわ」
 とのことだ。毒草を片手に微笑んでいる姿にも違和感はない。

 それよりも、普段から派手な改造制服を好んでいる彼女が俺たちと同じフィールドワーク用の服を着ていることの方が驚きだった。

 それを指摘した取り巻き女子に対しては、「お馬鹿さんなのかしら。土や草木と向き合う気持ちがないなら帰りなさい」と突き放していた。

「カ、カーミヤ様!? そ、そ、それは何を持っておられますの!?」

「なにって。ミミズですけれど」

 公爵令嬢がミミズを手のひらに乗せているのが衝撃的すぎたのか、他のグループにいる彼女の取り巻きたちがよろめいていく。

 って、お前ら、自分たちのグループも戻りなさいよ。
 うちの取り巻きを見ろ。一生懸命、レポート書いてるだろ。

 一人に至っては食い入るようにミミズを見ながら絵を書いてくれている。

「リューテシア嬢。いや、黒バラ姫」

 ふいに声をかけられ、振り向いた俺と婚約者殿。
 リューテシアの目の前には花びらのしおれた一輪の薔薇が差し出されていた。

「私ならこの薔薇を復活させられます」

 そう言って、魔術師見習いのマーシャルは魔術で薔薇の花びらに潤いを与えた。

 他の女子たちはキャーキャー言っているが、突然現れていきなり魔術を披露されたリューテシアは言葉を失っていた。

 それは俺も、ミミズをそっと土に帰したカーミヤ嬢も同じだった。

「素敵な魔術ですね」

 優しい!
 やっぱり俺の婚約者殿は人格者だ。
 俺なら無視して課題を再開している。

「お気に召しませんか。では、青い薔薇を持って来ることができれば、お近づきになれますか?」

「おい、マーシャル。俺の目の前で婚約者殿を口説くな」

「まだ成婚していないのなら問題はないはずです」

 問題しかねぇよ!!
 ふざけんなよ、インテリが!

「ウィル様、ウィル様」

 腕をちょんちょんと突かれた俺は、暴発しそうな魔力を無理矢理に抑え込んで息を吐いた。

「自分のグループに戻れ、マーシャル」

 ごくりと誰かが息をのむ音が聞こえるほどの静寂の中、鳥のさえずり声で我に返った。
 気づけば、握っていたスコップの持ち手はひしゃげてしまっている。

「なーんちゃって! 人の婚約者を口説くなんて冗談やめろよ。危うく本気にしそうだっただろ!」

「どう見ても本気でしたわよ」

「またまた! ほら、課題の続きをするぞー」

 そこでマーシャルとは別れたのに数十分後、緊急事態を知らせる笛が鳴り響いた。

「魔力暴走だ!! 誰か、マーシャルを止めてくれ!」

 到着すると、体中から魔力を吹き出すマーシャルが暴れ回っていた。

 彼の足元にはさっき持っていたしなびた薔薇が落ちている。
 しかし、それは真っ赤ではなく、いびつな色をしていた。

「なにがあった!?」

「マーシャルが青い薔薇がなんとかって言いながら魔術を発動させて、暴走しちゃって!」

 駆けつけた引率の教師に説明しているがしどろもどろで要領を得ない。

 しかし、俺にとってはその断片的な情報だけで十分だった。
 マーシャルは禁断の魔術である『花の色を変える魔術』を試みたのだ。

 その結果がこれか。

 こんなにも危険な魔術だとは知らなかった。
 
 もしかすると、俺も同じ目になっていたかもしれない。
 そう思うと背筋が冷えた。

「マギアドレイクは!?」

「そんなもの持って来てない! 学園の実習室にしかありません!」

「先生、マジックイーターは!?」

「あれは学園長の許可がなければ使えない」

 魔術クラスの生徒や教師たちが右往左往しながらの会話を盗み聞きする。

 魔力を吸い尽くすマジックイーターは危険だから使用不可だろう。
 でも、一時的に魔力を抑えつけるマギアドレイクなら有効だ。ただ、物がないなら話にならない。

 このままでは、マーシャルが廃人になってしまう。

「マーシャルには私がついているから、お前たちは他の先生について下山しなさい」

 魔術クラスの教師の指示で校外学習は中止となり、順次下山を開始した。

「ウィル様?」

「俺たちでマギアドレイクを作れないか? どう思う、リュシー、カーミヤ嬢」

 俺が目配せすれば、二人は顔を見合わせて静かに頷いた。

「できなくはないと。ただ、栄養素と時間が問題になります」

「なんとでもなりましょう。必要な物は分かっているのだから、早く採取に取り掛かりましょう」

 言うが早いか、カーミヤ嬢はその場で薬草を摘み始めた。

「栄養素の問題はわたくしが。ですが、時間はどうにもできません」

 カーミヤ嬢の取り巻きその1はテキパキと動き出し、腕組みする取り巻きその2は真面目な声色で言った。

「指示違反なので内申点に響きます。あなたたちはともかく、カーミヤ様の経歴に傷をつける行為は見過ごせません」

「内申点は取り戻せる。でも廃人になったクラスメイトは取り戻せない」

 俺が断言すれば、カーミヤ嬢は構わないとでも言いたげな表情で取り巻きをひと睨みして作業に戻った。

 マギアドレイクとは、強烈な鳴き声を上げながら魔力を吸い取る貴重な薬草だ。

 あれを作るとなれば莫大な材料と時間がかかる。
 だから、俺たちはマギアドレイクに近い薬効がある薬の調合を試みることにした。

 それぞれが持ち寄ってくれた薬草をゴリゴリすり潰す。
 入手困難な材料は代用できるものをチームの誰かが採って来てくれる。これまでにないチームワークだった。

 そして、短時間でマギアドレイクもどきの丸薬を作った俺たちは暴れるマーシャルの元へと急いだ。

 しかし、俺一人でいいと言ったのに、無視したリューテシアがついてきてしまった。今更、戻れと言っても聞かないのは目に見えているので、手を取って早足で山を駆ける。

 泥団子のような見た目の丸薬を握りしめて走る俺の視界には剣を構えたクロード先輩が映った。

「待って! 切らないでください!」

「ウィルフリッド!? なぜ、戻った! 生徒に危害を加えるなら、ここで切り捨てるまでだ!」

「この薬で落ち着かせられる。これを! おわっ!?」

 ぬかるんだ斜面の土に足を取られてバランスを崩した俺は、とっさにリューテシアに丸薬を投げた。

「食わせろ、リュシー! 先輩、援護を頼みます!」

「はいっ!」

「好き勝手してくれる」

 伸ばした手で木のつるを掴みながら、マーシャルの元へ向かうリューテシアとクロード先輩を見守る。

 クロード先輩は見事にマーシャルを拘束し、リューテシアが丸薬を口に詰め込んだ。

 次第に暴走していた魔力が落ち着き、マーシャルが力なく倒れる頃に俺も二人と合流した。

「リュシー、怪我はないか?」

「はい。ウィル様も足をくじいたりはしていませんか?」

「俺も平気だよ。後のことは任せて下山しよう」

◇◆◇◆◇◆

 学園の医務室に運ばれたマーシャルは数時間後には目覚め、後遺症もなかった。

 ただ、禁断魔術に手を出したことが学園側にバレてしまい、魔術査問委員会が聞き取り調査に来ることになったらしい。

 俺としても、なぜマーシャルがあの魔術を使って薔薇の色を変えようとしたのか気になる。

 青い薔薇には特別な意味があるのか。
 なぜ、彼はリューテシアにこだわるのか。やっぱり俺の婚約者殿がこのゲームのヒロインだからなのか。

「リューテシア嬢、それにウィルフリッド、この度はご迷惑をおかけしました」

「まったくだ。でも無事で良かったよ」

 結果的にリューテシアがマーシャルを救ったことになり、彼女は更にその名を学園のみならず、学外にも轟かせることになった。

 もしも、マーシャルの行動がリューテシアの気を惹くためのもので、彼女がマーシャルに気を許していたなら、俺は自暴自棄になって破滅していたのだろうか。

「へー、大変だったな」

「他人事だな」

「まぁな。そういや、来週楽しみにしてるぜ」

 はて。来週の予定なんてあっただろうか。

 騎士の息子であるディードは男子寮に向かいながらそんなことを言い出した。

「剣術大会だよ。決勝戦で会おうな」

 は?
 エントリーなどしておらんが……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...