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第1章
第34話 快挙を喜んでみた
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剣術大会の後、魔術大会が行われ、やっと魔術師見習いマーシャルの本領を発揮できた。
優秀賞を得られて、ご満悦のマーシャルは自分の名前が彫られた西門の壁を見上げて「これでお揃いですね」と気持ちの悪いことを言った。
「ウィルフリッドはすげぇよ。東と北の壁に名前があるんだもんな」
騎士の息子であるディードに言われ、改めて本来あり得ないことが起きていると自覚する。
「魔術大会にも参加できれば、西門の壁にも名前が彫られていた可能性があったんだろ。化け物じゃねーか」
ディードの言う通りだが、俺は魔術を使えることを隠しているから一度たりとも大会には参加していない。一カ所でも名前を刻まれれば十分なのに、それを二カ所なんて出来すぎだ。
薬術大会は最初から諦めているわけではないが、昨年の時点でネタバレしているようなものだから真新しさはない。
正直、自信はなかった。
リューテシアをはじめとする他のクラスメイトの薬術研究も面白いものばかりで、俺はいち聴講者として楽しみにしていたりする。
◇◆◇◆◇◆
迎えた薬術大会当日。
大講堂には多くの生徒や来賓が押し寄せた。
本来であれば、剣術大会や魔術大会と違って地味な大会だから、一昨年も昨年もここまで客入りは良くなったと記憶している。
俺は毎年拝聴し、気になる研究内容には質問もしていた。
毎年のように俺に付き合ってくれていたリューテシアには頭が下がる。
順番に研究結果を発表していき、遂に俺の番が回ってきた。
一際大きな拍手に迎え入れられて壇上に立つ。
ゆっくり息を吸うと、嘘のように拍手が鳴り止んだ。
「それでは発表を始めます――」
つらつらと饒舌に語っているが、内容は正露丸についてである。
いかに日本で販売されている下痢止めが優秀かということを演説し、調合方法についてと今後の展望までを話して発表を終えた。
あえて昨年のことに触れなかったのは、同学年の生徒や後輩の中には苦い思い出となっている人もいるだろうと配慮したからだ。
不用意に記憶を呼び起こす必要もない。
次にリューテシアが壇上に立ち、俺よりも大きな拍手をもらって発表を終えた。
彼女の研究テーマは生薬花についてだ。
これまでにない調合を多く試し、新薬となりそうなものまで突き詰めた。
その薬の一つが、俺の母が患っていた病気に著効しそうなものだった。
俺は自分の母の病名を知らない。調べても出てこないし、お母様以外に同じ病気を患っている人がいるという話も聞いたことがない。
だから、リューテシアの発表を本当の意味で理解している拝聴者はごく少数だろう。
各地の生薬花については俺も一緒に探したり、書物を漁ったり、現代の知識を授けたりしたが、彼女が最終的に目指しているものまでは知らなかった。
「ウィルフリッド? 悲しいのか?」
「なんでもない。目にゴミが入っただけだ」
俺は早々に断念してしまったのに、彼女がずっと諦めていなかったと思うと目尻が熱くなって我慢できなくなった。
リューテシアは母の葬儀の日に一緒に泣いてくれた恩人でもある。
こんな形で俺を驚かせるなんて、婚約者殿はやっぱりすごい。
聡明で、根気強いなんて非の打ち所がないじゃないか。
全ての発表が終わり、学園長が優秀賞に選んだのは、リューテシア・ファンドミーユだった。
この結果は満場一致であり、聴講していた生徒たちは盛大な拍手で彼女を称えた。
俺は彼女の名前が呼ばれた瞬間に立ち上がり、抱き締めてしまったのだが、今日だけは大目にみてほしい。
毎年、薬術大会の夜は最高学年の生徒たちと教員だけで立食パーティーを行うことになっている。
これで行事は全て終わった。
あとは学園を卒業するための期間となり、それぞれでやることが変わる。
優秀賞を賜ったリューテシアの周りには多くの生徒がいて、俺はお呼びではない様子だ。
「残念だったな、フリッド」
「婚約者殿が認められたならそれでいい。俺は去年の魔術大会が発表みたいなものだったからな」
「その話、まだ続きます? 別の卓に移動しましょうか」
俺が地雷を踏んだことで、しょげ始めるマーシャル。ディードと一緒に両サイドから肩を組み、「まぁ、飲めよ」とグレープジュースを勧める。
「マーシャルは卒業して魔術師になるんだろ? 魔術大会なんて些細なもんだろ」
「馬鹿言わないでください。各学園の魔術大会で優秀賞をとらないと、魔術師になってからも死ぬまでマウントを取られ続けるんですよ」
「へぇ、じゃあ、とらずに魔術師になった人は悲惨だね」
「そういう人はならないんですよ。プライドの塊ばっかりなんですから」
おや、自己紹介かな?
つまり、マーシャルは今年を逃していたら魔術師への道は潰えていたと。
「今年もダメなら留年するつもりでした。親にもそうするように、と言われています」
「お前、良かったなぁぁぁ!! 今日は楽しめよ!」
なぜか泣き出したディードが涙を拭いながら、マーシャルのグラスにジュースを注いでいく。
良い奴なんだよな。……女たらしだけど。
本当は熱い男なんだよ。友人のために涙を流せるんだよ。凄い奴だよ。……浮気常習犯だけど。
マーシャルは同時に全職員と全校生徒に幻を見せる魔術を披露して優秀賞を得た。人それぞれに魔術の特性は異なるから、マーシャルにとっては回復魔術よりも体に合っていたのだろう。
二人は将来の夢があるけれど、俺は卒業してからどうなるのだろうか。
破滅しないとなれば、これからも人生が続いていくことになる。
仕事をしないと食っていけない。リューテシアと一緒になるなら尚更だ。
「キャアァァァァァァ!!」
まだ見ぬ未来を思い描いた時、甲高い悲鳴がホール内に響いた。
「リ、リューテシア様がッ!!」
頭が真っ白になった。
気づけば、俺は横たわるリューテシアを抱き起こし、何度も彼女の名前を叫んでいた。
優秀賞を得られて、ご満悦のマーシャルは自分の名前が彫られた西門の壁を見上げて「これでお揃いですね」と気持ちの悪いことを言った。
「ウィルフリッドはすげぇよ。東と北の壁に名前があるんだもんな」
騎士の息子であるディードに言われ、改めて本来あり得ないことが起きていると自覚する。
「魔術大会にも参加できれば、西門の壁にも名前が彫られていた可能性があったんだろ。化け物じゃねーか」
ディードの言う通りだが、俺は魔術を使えることを隠しているから一度たりとも大会には参加していない。一カ所でも名前を刻まれれば十分なのに、それを二カ所なんて出来すぎだ。
薬術大会は最初から諦めているわけではないが、昨年の時点でネタバレしているようなものだから真新しさはない。
正直、自信はなかった。
リューテシアをはじめとする他のクラスメイトの薬術研究も面白いものばかりで、俺はいち聴講者として楽しみにしていたりする。
◇◆◇◆◇◆
迎えた薬術大会当日。
大講堂には多くの生徒や来賓が押し寄せた。
本来であれば、剣術大会や魔術大会と違って地味な大会だから、一昨年も昨年もここまで客入りは良くなったと記憶している。
俺は毎年拝聴し、気になる研究内容には質問もしていた。
毎年のように俺に付き合ってくれていたリューテシアには頭が下がる。
順番に研究結果を発表していき、遂に俺の番が回ってきた。
一際大きな拍手に迎え入れられて壇上に立つ。
ゆっくり息を吸うと、嘘のように拍手が鳴り止んだ。
「それでは発表を始めます――」
つらつらと饒舌に語っているが、内容は正露丸についてである。
いかに日本で販売されている下痢止めが優秀かということを演説し、調合方法についてと今後の展望までを話して発表を終えた。
あえて昨年のことに触れなかったのは、同学年の生徒や後輩の中には苦い思い出となっている人もいるだろうと配慮したからだ。
不用意に記憶を呼び起こす必要もない。
次にリューテシアが壇上に立ち、俺よりも大きな拍手をもらって発表を終えた。
彼女の研究テーマは生薬花についてだ。
これまでにない調合を多く試し、新薬となりそうなものまで突き詰めた。
その薬の一つが、俺の母が患っていた病気に著効しそうなものだった。
俺は自分の母の病名を知らない。調べても出てこないし、お母様以外に同じ病気を患っている人がいるという話も聞いたことがない。
だから、リューテシアの発表を本当の意味で理解している拝聴者はごく少数だろう。
各地の生薬花については俺も一緒に探したり、書物を漁ったり、現代の知識を授けたりしたが、彼女が最終的に目指しているものまでは知らなかった。
「ウィルフリッド? 悲しいのか?」
「なんでもない。目にゴミが入っただけだ」
俺は早々に断念してしまったのに、彼女がずっと諦めていなかったと思うと目尻が熱くなって我慢できなくなった。
リューテシアは母の葬儀の日に一緒に泣いてくれた恩人でもある。
こんな形で俺を驚かせるなんて、婚約者殿はやっぱりすごい。
聡明で、根気強いなんて非の打ち所がないじゃないか。
全ての発表が終わり、学園長が優秀賞に選んだのは、リューテシア・ファンドミーユだった。
この結果は満場一致であり、聴講していた生徒たちは盛大な拍手で彼女を称えた。
俺は彼女の名前が呼ばれた瞬間に立ち上がり、抱き締めてしまったのだが、今日だけは大目にみてほしい。
毎年、薬術大会の夜は最高学年の生徒たちと教員だけで立食パーティーを行うことになっている。
これで行事は全て終わった。
あとは学園を卒業するための期間となり、それぞれでやることが変わる。
優秀賞を賜ったリューテシアの周りには多くの生徒がいて、俺はお呼びではない様子だ。
「残念だったな、フリッド」
「婚約者殿が認められたならそれでいい。俺は去年の魔術大会が発表みたいなものだったからな」
「その話、まだ続きます? 別の卓に移動しましょうか」
俺が地雷を踏んだことで、しょげ始めるマーシャル。ディードと一緒に両サイドから肩を組み、「まぁ、飲めよ」とグレープジュースを勧める。
「マーシャルは卒業して魔術師になるんだろ? 魔術大会なんて些細なもんだろ」
「馬鹿言わないでください。各学園の魔術大会で優秀賞をとらないと、魔術師になってからも死ぬまでマウントを取られ続けるんですよ」
「へぇ、じゃあ、とらずに魔術師になった人は悲惨だね」
「そういう人はならないんですよ。プライドの塊ばっかりなんですから」
おや、自己紹介かな?
つまり、マーシャルは今年を逃していたら魔術師への道は潰えていたと。
「今年もダメなら留年するつもりでした。親にもそうするように、と言われています」
「お前、良かったなぁぁぁ!! 今日は楽しめよ!」
なぜか泣き出したディードが涙を拭いながら、マーシャルのグラスにジュースを注いでいく。
良い奴なんだよな。……女たらしだけど。
本当は熱い男なんだよ。友人のために涙を流せるんだよ。凄い奴だよ。……浮気常習犯だけど。
マーシャルは同時に全職員と全校生徒に幻を見せる魔術を披露して優秀賞を得た。人それぞれに魔術の特性は異なるから、マーシャルにとっては回復魔術よりも体に合っていたのだろう。
二人は将来の夢があるけれど、俺は卒業してからどうなるのだろうか。
破滅しないとなれば、これからも人生が続いていくことになる。
仕事をしないと食っていけない。リューテシアと一緒になるなら尚更だ。
「キャアァァァァァァ!!」
まだ見ぬ未来を思い描いた時、甲高い悲鳴がホール内に響いた。
「リ、リューテシア様がッ!!」
頭が真っ白になった。
気づけば、俺は横たわるリューテシアを抱き起こし、何度も彼女の名前を叫んでいた。
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