てんくろ。ー転生勇者の黒歴史ー

仁渓

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転生勇者親衛隊長の憂鬱(44)

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               44
 マルコとシレンは、以前、ベティから聞いていたエリスとベティのバイト先に到着した。
 薬草の調剤施設だ。
 王都クスリナの調剤施設は、基本的に王国営である。
 建物も一つではなく、大小様々だ。
 つくっている薬の種類も、希少な材料を使った難病向けの治療薬から、一般的な発熱や腹痛の薬に至るまで様々だった。
 エリスとベティのバイト先は、一般薬の調剤施設に該当する。
 普通の学校の生徒が行う、できた薬を袋に詰めたりするような仕事もあるが、エリスとベティは、クスリナ王立薬草学院の生徒であるため、本格的な調剤作業に回されている。
 その分、お給料も少しいい。
 様々な薬効植物を、煮たり焼いたり干したり混ぜたり、ある意味、料理のような内容だ。
 エリスとの待ち合わせ場所は、建物の玄関の前である。
 十二時を少し過ぎていたが、エリスは、まだ出てきてはいなかった。
 既に、どこかへ行ってしまったということはないはずだ。
「待ってて。ちょっと聞いてくる」
 マルコは、シレンを外に残して、玄関の開き戸を開けると建物の中に入った。
 王都クスリナの他の施設同様、木造の建物だ。
 玄関には、沢山の下駄箱が並んでいた。下駄箱の前には、が敷かれている。
 調剤施設内に泥汚れを持ち込まないよう、内履きと外履きを履き替える仕組みだ。
 下駄箱内は、二段になっており、上段が内履き、下段が外履きだ。
 玄関に受付窓口はない。元々、関係者以外は出入りしない施設なのだ。
 来客用のための外履きが置かれている下駄箱もあるが、勝手に履き替えて、施設内をふらふらするのは、さすがにはばからられる。不法侵入で捕まるかも知れない。
 その時、玄関前の通路を、白衣を着て、白い帽子で髪の毛を隠した中年の女性が通りかかった。
 マルコと目が合い、なぜ、人がいるのかと、ちょっと不思議そうな顔をした。
「あの。エリスがまだ中にいるか分かりますか? 今日からバイトしてる、薬草学院の生徒です」
「ごめんなさい。学生さんのことは分からないわ。でも、薬草学院の子なら、ベティがいたわよ。呼びましょっか?」
「うん」
 ベティがやってきた。
 中年女性同様、白衣を着て、白い帽子を被っている。
「マルコさん。エリスなら、今着替えているところよ。もうすぐ来ます」
「わかった」
 そこへ、待ちくたびれたシレンが、玄関の引き戸を開けて中を覗き込むと入ってきた。
 シレンとベティの目が合った。
 シレンは、ベティにぺこりとした。
 マルコの脇に立つ。圧倒的な大男に見える。
「え!」と、ベティは声を上げた。
「もしかして?」
「し!」とマルコ。立てた人差し指を自分の口の前にあてた。
「気づいた?」
 ベティは、こくこくと頷いた。
「嘘! 一緒にご飯行くの?」
 ベティは、あえて、シレンの名前は出さなかった。
 ということは、誰だか分かっている証拠である。影響の大きさを理解している。
「わたしも行きたい!」
「いいよ」
「やった。午後、休もっと」
 ベティは、身を翻そうとした。
 その時、私服に着替えたエリスと、白衣の中年女性がやってきた。先程、ベティを呼んでくれた人とは別の女性だ。
「マルコ、お待たせ」と、エリスは、マルコに声をかけた。
 マルコは、軽く手を上げて、エリスに応えた。
 シレンが、エリスにもぺこりとする。
 エリスは、見知らぬ大男に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに誰だか分かったようだ。シレンに、にこりと微笑みかけた。
 エリスは、続いて、一緒に歩いてきた白衣の女性に、「お疲れ様でした」と挨拶をした。
「どう? やっていけそう?」と、白衣の女性。
「はい」
「よかった」
「あ、バイト長」
 割り込むように、ベティが白衣の女性に話しかけた。そういう役職なのだろう。
「わたしも午後休みます」
 じとっとした目で、ベティを見るバイト長。
「何で?」
「わたしもエリスと一緒にご飯に行こっかなって」
「ダメです」
 と、一刀両断。
「あんたは、午後もシフトがあります」
「じゃなくて、急にお腹が」
 ベティは、逃げ腰になる。
「いい薬を知っているわ」
 バイト長は、逃がさないように、がしっ、と、ベティの腕を掴んだ。
「これからつくるのは腹痛薬です」
 バイト長は、ベティを引きずるようにして、連れて行く。
 その際、エリスの顔を見て、
「じゃ、エリス。また来週。お疲れ様」
「お疲れ様でしたぁ」と、エリス。
「ベティ、お先にぃ」と、付け加える。
「やだ。わたしも行くぅぅ」
「さ、行こっか」
 何事もなかったかのように、エリスが宣言した。
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