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転生勇者親衛隊長の憂鬱(50~51)
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50
昼食だけでなく、しっかり夕食までペペロにおごらせた後、マルコはエリスを王立クスリナ薬草学院女子寮へ送ってから、帰路についた。
シレンのお見送りは、ペペロに任せている。
二人きりで会話が成立するのかは知らないが、それくらいできなくては、ペペロがシレンを食事に誘うなんて話は、夢のまた夢だ。
マルコが、トボトボと日の暮れた通りを歩いていると、前方から走ってきた馬車が、幅寄せするように近づいてきて、マルコの脇でぴたりと止まった。
馬も黒、馬車も黒の黒ずくめの四人乗り馬車だ。
ペペロではないが、御者はフードを目深に被って、顔を隠していた。
「マルコだな?」と、御者が尋ねる。
「うん」
答えた瞬間、馬車からとんがり頭巾で顔を隠した人間が二人飛び出してきて、マルコの頭にズタ袋をすっぽりとかぶせると、馬車に引きずりこんだ。
「我々は転生勇者親衛隊の者だ。おとなしくしていれば危害は加えん」と、とんがり頭巾。
マルコは、席に座らされた。
馬車は、直ちに動き出した。
51
しばらく走ってから馬車は止まった。
マルコは袋を頭に被されたまま、馬車から降ろされた。
とんがり頭巾の一人に手を引かれて、ゆっくりと歩かされる。
どこかの建物の中に入った。
さらに歩かされる。
「前に手をつけ」
マルコが、見えないまま、前方を手で探ると台があった。
両手を台につく。
背後から、ズタ袋が外された。
円形のホールのような部屋だった。
円の中心が一番低く、周囲を階段式の座席が囲んでいる。
マルコが立っているのは、円の中心だ。
被告人席である。
マルコの周囲は、腰の高さよりやや高い程度の木製の柵で囲まれている。
椅子はない。マルコは、立たされたままである。
階段式の座席の二段目、三段目以降は無人だった。
最前列のみ、六人のとんがり頭巾たちが、マルコの前方から、マルコを半円形に囲むように、やや間隔を開けて座っていた。
誰も一言も口を利かない。緊迫した空気だ。
マルコが振り返ると、マルコを拉致し、たった今ズタ袋を外したとんがり頭巾とその相棒が離れていくところだ。
マルコを囲む柵の一部が、柵でできた扉になっており、開いていた。
二人のとんがり頭巾は、開いた扉を通り抜けると、扉を閉めてロックをかけた。
扉の前方は通路になっている。
恐らくマルコは目隠しをされた状態で手を引かれて、その通路を歩かされてきたということなのだろう。
通路の突き当たりの壁には、部屋から出て行く扉があった。
通路の左右は階段式の座席があるために、壁のようにそそり立っている。
とんがり頭巾たちは、扉前方の通路の左右に分かれて、直近の座席に座った。
マルコが逃走しないように、見張る役割であるのだろう。
マルコの前方と背後をあわせて、部屋全体では、八人のとんがり頭巾たちが、マルコを囲んでいる。
二段目、三段目以降の席には椅子があるだけだが、最前列のみ、座席の前にはカウンターがついていて、机代わりに使えるようになっていた。
マルコは、柵とカウンターで二重に囲まれている形である。
柵とカウンターの間は、人が歩けるような通路となっている。
とんがり頭巾たちは、名札のように、胸に転生勇者様ストラップをつけていた。
マルコを前方から半円形に囲んでいるとんがり頭巾たちは、赤マント。
マルコを拉致した背後の二人は、ちらりとした見えなかったが、青マントであるようだ。
それぞれのストラップは、相手から背中の番号が見やすいように、転生勇者様の顔が、自分の胸の方を向く方向でつけられている。
ペペロの言葉では、赤マントは総勢十人であるはずだ。
この場には六人しかいないので、四人が欠席か遅刻なのだろう。
同じく、ペペロの言葉では、背番号の若い方の番号は、親衛隊結成時に国の偉い人たちに割り振られたもの、なのだともいう。
だとすると、マルコの前方に座る者たちは、アスラハン王国の重鎮たちということだ。
マルコと、ほぼ真正面から向き合う形の、直前方の三つの座席のみ、カウンターも椅子も他より豪華だった。
中央の座席を空けて、恰幅のいい人物と細身の人物の二人が、左右に分かれて座っている。
胸のマントのストラップの番号は、赤の1番と2番だった。
赤の2番をつけた恰幅のいい人物の体型に、マルコは見覚えがある。
「何やってんですか、スラゼントスさん?」
と、マルコは聞いた。
「し! ここでは本名は言わないことになっている」
慌てたように恰幅のよい人物、顔を隠したダン・スラゼントスは、そう言った。
「なぜ、わかった?」
「だって、そのストラップ。赤マントの2番だから」
「副親衛隊長、私語は慎め」
厳かな口調で、赤の1番が言った。
「戦士団長が副隊長だってことは、え! じゃあ隊長は、もっと偉い誰か?」
けれども、親衛隊長は答えない。
「赤マント六人出席により本査問会は成立する。これより査問会を始める」
親衛隊長は、無機的に開会を宣言した。
「被告人マルコ。公園のボートに転生勇者様と二人で乗ったそうだな?」
「乗ってないよ。ぼく、本当はエリスと一緒に乗りたかったんだけれども、にいちゃんがシレンと二人で乗るのにびびっちゃったから、エリスはシレンと、ぼくはにいちゃんと乗ったんだ」
副親衛隊長ことダンは横を向き、親衛隊長の隠された顔を、じとりとした視線で見た。
半円形に座る他の構成員たちも、同様の冷めた視線を親衛隊長に送っている。
親衛隊長は、「エリスって誰だ?」と、小声でダンに聞いた。
「マルコの許嫁です」
皆に聞こえるような声で、ダンが答える。
親衛隊長は、えふん、おふん、と咳をして、威厳を取り繕った。
「ウソを申すな。見た者がおる」
「そんなわけないんだけどなぁ。見た人って誰?」
特異な状況だが、相手にダン・スラゼントスがいるので、マルコは焦ってはいなかった。
何だか分からないけれども、そうひどいことはされないだろうと思っている。
「事務局から説明を」
「はい」と、マルコの後方に座る青マントの一人が、親衛隊長の発言に答えて立ち上がった。
「見たわけではなく、公園に行くなら一緒にボートに乗るのだろうな、という連想です」
「あー」と、赤マントたちから、声にならない声が漏れた。
緊迫していた室内の空気が、急速に弛緩した。
誰かから、「やっちまったな」という呟きがあがる。
その時、マルコ後方にある、マルコが入ってきた際にも使ったであろう扉がバタンと強く開いて、室内に駆け込んでくる者がいた。
とんがり頭巾は被っていない。
ペペロであった。
昼食だけでなく、しっかり夕食までペペロにおごらせた後、マルコはエリスを王立クスリナ薬草学院女子寮へ送ってから、帰路についた。
シレンのお見送りは、ペペロに任せている。
二人きりで会話が成立するのかは知らないが、それくらいできなくては、ペペロがシレンを食事に誘うなんて話は、夢のまた夢だ。
マルコが、トボトボと日の暮れた通りを歩いていると、前方から走ってきた馬車が、幅寄せするように近づいてきて、マルコの脇でぴたりと止まった。
馬も黒、馬車も黒の黒ずくめの四人乗り馬車だ。
ペペロではないが、御者はフードを目深に被って、顔を隠していた。
「マルコだな?」と、御者が尋ねる。
「うん」
答えた瞬間、馬車からとんがり頭巾で顔を隠した人間が二人飛び出してきて、マルコの頭にズタ袋をすっぽりとかぶせると、馬車に引きずりこんだ。
「我々は転生勇者親衛隊の者だ。おとなしくしていれば危害は加えん」と、とんがり頭巾。
マルコは、席に座らされた。
馬車は、直ちに動き出した。
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しばらく走ってから馬車は止まった。
マルコは袋を頭に被されたまま、馬車から降ろされた。
とんがり頭巾の一人に手を引かれて、ゆっくりと歩かされる。
どこかの建物の中に入った。
さらに歩かされる。
「前に手をつけ」
マルコが、見えないまま、前方を手で探ると台があった。
両手を台につく。
背後から、ズタ袋が外された。
円形のホールのような部屋だった。
円の中心が一番低く、周囲を階段式の座席が囲んでいる。
マルコが立っているのは、円の中心だ。
被告人席である。
マルコの周囲は、腰の高さよりやや高い程度の木製の柵で囲まれている。
椅子はない。マルコは、立たされたままである。
階段式の座席の二段目、三段目以降は無人だった。
最前列のみ、六人のとんがり頭巾たちが、マルコの前方から、マルコを半円形に囲むように、やや間隔を開けて座っていた。
誰も一言も口を利かない。緊迫した空気だ。
マルコが振り返ると、マルコを拉致し、たった今ズタ袋を外したとんがり頭巾とその相棒が離れていくところだ。
マルコを囲む柵の一部が、柵でできた扉になっており、開いていた。
二人のとんがり頭巾は、開いた扉を通り抜けると、扉を閉めてロックをかけた。
扉の前方は通路になっている。
恐らくマルコは目隠しをされた状態で手を引かれて、その通路を歩かされてきたということなのだろう。
通路の突き当たりの壁には、部屋から出て行く扉があった。
通路の左右は階段式の座席があるために、壁のようにそそり立っている。
とんがり頭巾たちは、扉前方の通路の左右に分かれて、直近の座席に座った。
マルコが逃走しないように、見張る役割であるのだろう。
マルコの前方と背後をあわせて、部屋全体では、八人のとんがり頭巾たちが、マルコを囲んでいる。
二段目、三段目以降の席には椅子があるだけだが、最前列のみ、座席の前にはカウンターがついていて、机代わりに使えるようになっていた。
マルコは、柵とカウンターで二重に囲まれている形である。
柵とカウンターの間は、人が歩けるような通路となっている。
とんがり頭巾たちは、名札のように、胸に転生勇者様ストラップをつけていた。
マルコを前方から半円形に囲んでいるとんがり頭巾たちは、赤マント。
マルコを拉致した背後の二人は、ちらりとした見えなかったが、青マントであるようだ。
それぞれのストラップは、相手から背中の番号が見やすいように、転生勇者様の顔が、自分の胸の方を向く方向でつけられている。
ペペロの言葉では、赤マントは総勢十人であるはずだ。
この場には六人しかいないので、四人が欠席か遅刻なのだろう。
同じく、ペペロの言葉では、背番号の若い方の番号は、親衛隊結成時に国の偉い人たちに割り振られたもの、なのだともいう。
だとすると、マルコの前方に座る者たちは、アスラハン王国の重鎮たちということだ。
マルコと、ほぼ真正面から向き合う形の、直前方の三つの座席のみ、カウンターも椅子も他より豪華だった。
中央の座席を空けて、恰幅のいい人物と細身の人物の二人が、左右に分かれて座っている。
胸のマントのストラップの番号は、赤の1番と2番だった。
赤の2番をつけた恰幅のいい人物の体型に、マルコは見覚えがある。
「何やってんですか、スラゼントスさん?」
と、マルコは聞いた。
「し! ここでは本名は言わないことになっている」
慌てたように恰幅のよい人物、顔を隠したダン・スラゼントスは、そう言った。
「なぜ、わかった?」
「だって、そのストラップ。赤マントの2番だから」
「副親衛隊長、私語は慎め」
厳かな口調で、赤の1番が言った。
「戦士団長が副隊長だってことは、え! じゃあ隊長は、もっと偉い誰か?」
けれども、親衛隊長は答えない。
「赤マント六人出席により本査問会は成立する。これより査問会を始める」
親衛隊長は、無機的に開会を宣言した。
「被告人マルコ。公園のボートに転生勇者様と二人で乗ったそうだな?」
「乗ってないよ。ぼく、本当はエリスと一緒に乗りたかったんだけれども、にいちゃんがシレンと二人で乗るのにびびっちゃったから、エリスはシレンと、ぼくはにいちゃんと乗ったんだ」
副親衛隊長ことダンは横を向き、親衛隊長の隠された顔を、じとりとした視線で見た。
半円形に座る他の構成員たちも、同様の冷めた視線を親衛隊長に送っている。
親衛隊長は、「エリスって誰だ?」と、小声でダンに聞いた。
「マルコの許嫁です」
皆に聞こえるような声で、ダンが答える。
親衛隊長は、えふん、おふん、と咳をして、威厳を取り繕った。
「ウソを申すな。見た者がおる」
「そんなわけないんだけどなぁ。見た人って誰?」
特異な状況だが、相手にダン・スラゼントスがいるので、マルコは焦ってはいなかった。
何だか分からないけれども、そうひどいことはされないだろうと思っている。
「事務局から説明を」
「はい」と、マルコの後方に座る青マントの一人が、親衛隊長の発言に答えて立ち上がった。
「見たわけではなく、公園に行くなら一緒にボートに乗るのだろうな、という連想です」
「あー」と、赤マントたちから、声にならない声が漏れた。
緊迫していた室内の空気が、急速に弛緩した。
誰かから、「やっちまったな」という呟きがあがる。
その時、マルコ後方にある、マルコが入ってきた際にも使ったであろう扉がバタンと強く開いて、室内に駆け込んでくる者がいた。
とんがり頭巾は被っていない。
ペペロであった。
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