てんくろ。ー転生勇者の黒歴史ー

仁渓

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転生勇者親衛隊長の憂鬱(53)

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               53
「だからといって、他の誰かが転生勇者様とデートをしていたら悔しい!」
 転生勇者親衛隊長ことセーブル王子は、力説した。
「こどもかっ!」
 マルコは、反射的に一喝する。
「自分が声をかけられないからって、誰も声をかけちゃダメだなんておかしいよ。シレンが可哀想すぎる。そんなの、本当の親衛隊じゃない!」
「もっともな意見だな。隊長、現行の親衛隊方針もそろそろ潮時では?」
 ダンが言った。
「むう。だが、名誉親衛隊長が何と言うか。転生勇者様は、貴重な観光資源だと仰っていたからな。近づきがたいミステリアスな存在として打ち出す現行方針を変えるのであれば、代替案を提示しないと」
「そんな人もいるんだ」
 と、マルコ。何だ、名誉親衛隊長って?
「ミステリアスと言ったって、握手会はしてるじゃない。だったら、もっとふれあいの面を増やして、いっそ、会いに行けるアイドルってのは? 近づきがたい存在としてではなく、身近な存在として売り出すんだ」
 マルコは、転生勇者の夢から得た知識を口にした。笠置詩恋が聞いていたラジオで、そんなキャッチコピーを聞いた気がする。
「考えを詳しく話してみなさい」
 先程ペペロが駆け込んできた扉が開き、とんがり頭巾の男が入ってきた。
 どういう方法か、室内で行われていた会話について把握しているようだ。
 露払いとして、別のとんがり頭巾が先導をしている。
 露払い役は赤マント、声の主は、白マントの転生勇者様ストラップを胸につけていた。
 白マントの背番号は、0が二つで、『00ダブルオー
 見ようによっては、『むげんだい』だ。
 後方に立ち尽くしていた青マントの四人が、慌てて、膝をつき、頭を垂れた。
「名誉親衛隊長!」
 親衛隊長が立ち上がり、やはり膝をつき、頭を垂れた。
 ダンら、他の赤マントたちも同様にする。
 ペペロもだ。
 呆然と立っているのは、マルコだけだ。
 ペペロが、マルコの袖を引いてしゃがませようとする。
 マルコは、慌てて、ペペロの真似をした。
「良い良い。皆、なおりなさい」
 名誉親衛隊長は、つかつかと歩きながら、そう言った。
 物腰が柔らかい人物のように感じられる。
 マルコは、おずおずと顔を起こした。
 膝は床についたままだ。
 名誉親衛隊長は、親衛隊長と副親衛隊長の席の間にある、空いている席に、ゆったり座った。
 露払い役の赤マントも、別の席に座る。
 もともといた赤マントたちは、全員、自分の席に座り直した。
 青マントたちは、マルコ後方の柵の外で、直立不動の姿勢をとっている。
「ほれ、立たんか」と、名誉親衛隊長。
 手振りで、マルコとペペロに立つように促す。
 マルコは立ち上がった。
 ペペロは、マルコの隣で、青マントたち同様、直立不動だ。
 名誉親衛隊長の正体は、それほどの人物ということだ。
『王子より偉い人って誰だ?』
 マルコは、一瞬だけ考えて、
「セディーク一世陛下!」と、思わず、口をついて出た。
「これ、ここで本名を言うでない」
 副親衛隊長が叱責した。
 当たりみたいだ。
「良い良い」と、名誉親衛隊長。
「なぜ、こちらへ」と、親衛隊長が問う。
「転生勇者が王都に男連れで戻った、という噂を聞いていてな。どんな男か顔を見に来た」
 名誉親衛隊長は、冗談めかした口調で言った。
「そんなことより、今の話だ。会いに行けるアイドルとは、どういうものだね?」
「例えば、王子みたいにシレンとボートに乗りたい人って他にもいると思うんだ」
「王子ではなくて、親衛隊長な」と、ダン。
 マルコは気に留めない。
「だから、シレンがボート乗り場にいて、一緒に乗るの。みんな、乗りたがるよ」
「ふむ」
「ボートじゃなくて馬車だっていいし、クスリナガーデンの食べ歩きだっていい。王都の観光案内だっていいんじゃないかな。とにかく、そこに行けばシレンがいて、会えるんだ。転生勇者様ファンの人ならば、きっと喜ぶよ」
「転生勇者一人が相手にできる人数などたかが知れてるぞ」
「いいんだよ、すれ違うだけだって。でも、王都に来れば、絶対にシレンはどこかにいるし、会えるかも知れないんだ。たまたま乗った王都巡回の馬車に、シレンが乗っていたら、びっくりしない?」
「するな」
「逆にシレンだけ馬車に乗っていて、すれ違った人たちに、馬車の中から手を振るとかね」
 あの有名な夢の国に住む、ネズミのキャラクターみたいだ。
「時間は秘密にして、転生勇者様は湖でボートに乗るのが日課だと噂を流せば、すれ違えるかも知れないと考えて、恋人同士ではなくてもボートに乗りたがる客が増えるな」
 名誉親衛隊長も案を出した。
「そう。そういう奴。それで、すれ違ったら、シレンが手を振ってくれるの」
「面白い」
「そういう偶然の出会いイベントの他に、特別に選ばれた人だけが、シレンと何かできるイベントもあったっていいかな。例えば、くじで当たった人だけ、シレンと一緒にボートに乗れるんだ。もちろん、二人きりじゃなくて、お付きの者がつくけどね」
「王都に宿泊する観光客の中から抽選で選ぶとか、お土産をいくら以上買ったら、くじがひけるとかだな」
「そう。でも、お金持ちほど確率が高くなるようなのは、ちょっとヤだな。シレンが守銭奴に見られちゃう。それに、王都の住人も参加できないとね」
「武闘大会の優勝賞品とするのでは?」
 親衛隊長が口を挟んだ。
「何で、そこで闘いになっちゃうの?」
「え! そりゃあ、基本的に親衛隊のイベントは、戦士団が協賛をするからさ」
「ま、第一回大会は、それでいいだろう。戦士団には武闘大会開催のノウハウがあるからな。第二回は手芸大会とか料理大会、クスリナ湖での釣り大会でもいいな。何大会かはアンケートで決めても良い。年齢設定や内容を変えれば、誰もが参加できる。もちろん、参加費はとる。オッズを決めて、誰が優勝するかの賭けもできる。武闘大会なら、試合の見物料も取れるな。採用。マルコ、いいアイデアだ」
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