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第一回転生勇者シレン杯決勝リーグ参加者決定(56~57)
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56
マルコが、スラゼントス邸に馬車で送り届けられた時刻は、夜の十時を過ぎていた。
何のことはない。マルコが拉致されて連れて行かれた建物は、本物の王都の裁判所だ。
王宮周辺に立ち並ぶ政府関係施設の一つだった。
戦士団寮やスラゼントス邸が、王宮の北側にあるのに対して、裁判所は、王宮の南側に位置している。
裁判所の前を出発した馬車は、王宮周辺の政府関係施設沿いの大通りを走り、まず、ペペロを戦士団寮で降ろした後、スラゼントス邸へマルコを送り届けた。
スラゼントス邸前に馬車が止まると、御者が降りてきて、扉を開けてくれた。
マルコを拉致した際の御者だ。
馬車には、同じくマルコを拉致した際の青マント二人が乗っている。
但し、もうとんがり頭巾は被っていない。
青マント二人は、終始無言だ。
「ありがとう」と、マルコは馬車を降りた。
馬車が止まった音を聞きつけ、オフィーリアが家から出てきた。
「あら、マルコさん。おとうさんと一緒だったの?」
当然、馬車には、王宮に呼ばれたダンも乗っていると、オフィーリアは思っている。
けれども、ダンは降りてこず、「我々はこれで」と、慌てて、馬車は走り去った。
「ぼくだけ、先に帰ってきた」と、マルコは応えた。
「やっぱり一緒だった? ということは、もしかして?」
「うん。親衛隊案件」
はぁぁ、と、オフィーリアは盛大に息を吐いた。
呆れたようにも、安心したようにも、どちらにもとれる。多分、両方だ。
「王国始まって以来の危機に、私が呼ばれていない時点で、そんなことだろうと思ったのよね。おとうさんがいたなら大丈夫だと思うけれど、セーブルちゃんにいじめられなかった?」
オフィーリアは、王子を『ちゃん』付けである。
オフィーリアと王妃カチェリーナの親密性がよく分かる。
建前上は家臣と王妃の関係だが、若い頃から、ダンもセディークも含めて、家族同然に、友人として、相棒として生き抜いてきたのだ。
家族同然のメンバーの中には、もちろん、ダンもセディークも含まれているのだが、ダンやセディークからすれば、家族の中に、頭が上がらない奥さん級が二人いるのと同じ環境だ。
大抵の夫は、奥さん一人が相手でも勝てはしない。まして、二人なら絶対に不可能だ。
ダンはともかく、セディークまでオフィーリアに叱られたくない理由が分かる気がする。
夫が何人束になっても、結託した奥さん連合には叶わない。
「王子にはいじめられなかったけれど、王様をいじめてきた」
マルコの返事は、オフィーリアの想像を越えたようだ。
オフィーリアの目が、きらりと光った。
「なにそれ! 面白そう!」
57
マルコは、親衛隊に拉致されてからの内容を、オフィーリアに全部ばらした。
セディークとの約束は、オフィーリアに、ばれないようにするのではなく、ばれてもセディークとダンが、オフィーリアに叱られないですむようにすることだ。
「毎月、前月の親衛隊収入の五パーセントってかなりの大金よ!」
目を丸くしながら、驚いた口調で、オフィーリアは声を上げた。
「そうなの? 金額は全然わかんない」
「よく陛下が、そんな条件で承知したわね。どんな顔してた?」
「額に汗を浮かべて、目を白黒させてた」
ククククク、と、オフィーリアは、楽しそうに喉の奥から声を漏らすような笑い声を上げた。魔女みたいだ。
「マルコさんに、やり込められてるセディークの顔をみたかったわ」
自然と、陛下ではなく、名前で呼んでしまうところに、建前上の上下関係ではない、仲の深さがにじみ出ている。
「明日、約束を書面にしたものをもらうことになってる」
「あら。そういう書面は、その場で書かせなければダメよ。言い訳して逃げるかも知れないわ」
「もし、王様が変なことを言い出したら、監査は、オフィーリアさんと王妃に、もう頼んであります、って言おうと思って」
オフィーリアは、再び、目を丸くした。
「ああ。そんな感じで、セディークをいじめてきたのね」
マルコは、ニヤリとした。
「だから、オフィーリアさんには、王様とスラゼントスさんを叱らないでおいてもらって、話に一枚乗って欲しいんだ」
「よろこんで。カチェリーナにも話をするわ。絶対、のってくるわよ。男たちにばかり、好き勝手やらせてたまるもんですか」
「ちょっと不思議だったんだけれど、オフィーリアと王妃は、親衛隊の赤マントストラップをもらってないの? 査問会にいなかったから」
「あるわよ。カチェリーナが3番で、私が10番。でも、査問会とか、女に聞かせたくない話をする時は呼ばれないの」
「そういうことか」
「セーブルちゃんから、おとうさんには呼び出しがあったけれども、私にはなかったもの。きっと、カチェリーナも蚊帳の外よ。明日行って、教えてあげなくちゃ。マルコさんも、シレンさんのところへ行くのでしょ?」
「そのつもり」
「でも、シレンさんも大会に出るのは困ったわね」
「ぼくがそう言っちゃったんだけれど、ダメだった? シレン、勝てない?」
「難しいわね。誰かと戦った経験が無いから怖がると思うし。本気を出し過ぎても行けないし」
「何で本気を出したらダメなの?」
「みんな、真っ二つになっちゃうもの」
オフィーリアは、楽しそうに、クツクツと笑った。
「でも、木刀とか刃のない武器で戦うんでしょ?」
「だとしてもよ。まぁ、シレンさんには、私が何か対策を考えるから、安心して試合に出るように言ってあげて」
「わかった」
「明日が楽しみだわ」
マルコが、スラゼントス邸に馬車で送り届けられた時刻は、夜の十時を過ぎていた。
何のことはない。マルコが拉致されて連れて行かれた建物は、本物の王都の裁判所だ。
王宮周辺に立ち並ぶ政府関係施設の一つだった。
戦士団寮やスラゼントス邸が、王宮の北側にあるのに対して、裁判所は、王宮の南側に位置している。
裁判所の前を出発した馬車は、王宮周辺の政府関係施設沿いの大通りを走り、まず、ペペロを戦士団寮で降ろした後、スラゼントス邸へマルコを送り届けた。
スラゼントス邸前に馬車が止まると、御者が降りてきて、扉を開けてくれた。
マルコを拉致した際の御者だ。
馬車には、同じくマルコを拉致した際の青マント二人が乗っている。
但し、もうとんがり頭巾は被っていない。
青マント二人は、終始無言だ。
「ありがとう」と、マルコは馬車を降りた。
馬車が止まった音を聞きつけ、オフィーリアが家から出てきた。
「あら、マルコさん。おとうさんと一緒だったの?」
当然、馬車には、王宮に呼ばれたダンも乗っていると、オフィーリアは思っている。
けれども、ダンは降りてこず、「我々はこれで」と、慌てて、馬車は走り去った。
「ぼくだけ、先に帰ってきた」と、マルコは応えた。
「やっぱり一緒だった? ということは、もしかして?」
「うん。親衛隊案件」
はぁぁ、と、オフィーリアは盛大に息を吐いた。
呆れたようにも、安心したようにも、どちらにもとれる。多分、両方だ。
「王国始まって以来の危機に、私が呼ばれていない時点で、そんなことだろうと思ったのよね。おとうさんがいたなら大丈夫だと思うけれど、セーブルちゃんにいじめられなかった?」
オフィーリアは、王子を『ちゃん』付けである。
オフィーリアと王妃カチェリーナの親密性がよく分かる。
建前上は家臣と王妃の関係だが、若い頃から、ダンもセディークも含めて、家族同然に、友人として、相棒として生き抜いてきたのだ。
家族同然のメンバーの中には、もちろん、ダンもセディークも含まれているのだが、ダンやセディークからすれば、家族の中に、頭が上がらない奥さん級が二人いるのと同じ環境だ。
大抵の夫は、奥さん一人が相手でも勝てはしない。まして、二人なら絶対に不可能だ。
ダンはともかく、セディークまでオフィーリアに叱られたくない理由が分かる気がする。
夫が何人束になっても、結託した奥さん連合には叶わない。
「王子にはいじめられなかったけれど、王様をいじめてきた」
マルコの返事は、オフィーリアの想像を越えたようだ。
オフィーリアの目が、きらりと光った。
「なにそれ! 面白そう!」
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マルコは、親衛隊に拉致されてからの内容を、オフィーリアに全部ばらした。
セディークとの約束は、オフィーリアに、ばれないようにするのではなく、ばれてもセディークとダンが、オフィーリアに叱られないですむようにすることだ。
「毎月、前月の親衛隊収入の五パーセントってかなりの大金よ!」
目を丸くしながら、驚いた口調で、オフィーリアは声を上げた。
「そうなの? 金額は全然わかんない」
「よく陛下が、そんな条件で承知したわね。どんな顔してた?」
「額に汗を浮かべて、目を白黒させてた」
ククククク、と、オフィーリアは、楽しそうに喉の奥から声を漏らすような笑い声を上げた。魔女みたいだ。
「マルコさんに、やり込められてるセディークの顔をみたかったわ」
自然と、陛下ではなく、名前で呼んでしまうところに、建前上の上下関係ではない、仲の深さがにじみ出ている。
「明日、約束を書面にしたものをもらうことになってる」
「あら。そういう書面は、その場で書かせなければダメよ。言い訳して逃げるかも知れないわ」
「もし、王様が変なことを言い出したら、監査は、オフィーリアさんと王妃に、もう頼んであります、って言おうと思って」
オフィーリアは、再び、目を丸くした。
「ああ。そんな感じで、セディークをいじめてきたのね」
マルコは、ニヤリとした。
「だから、オフィーリアさんには、王様とスラゼントスさんを叱らないでおいてもらって、話に一枚乗って欲しいんだ」
「よろこんで。カチェリーナにも話をするわ。絶対、のってくるわよ。男たちにばかり、好き勝手やらせてたまるもんですか」
「ちょっと不思議だったんだけれど、オフィーリアと王妃は、親衛隊の赤マントストラップをもらってないの? 査問会にいなかったから」
「あるわよ。カチェリーナが3番で、私が10番。でも、査問会とか、女に聞かせたくない話をする時は呼ばれないの」
「そういうことか」
「セーブルちゃんから、おとうさんには呼び出しがあったけれども、私にはなかったもの。きっと、カチェリーナも蚊帳の外よ。明日行って、教えてあげなくちゃ。マルコさんも、シレンさんのところへ行くのでしょ?」
「そのつもり」
「でも、シレンさんも大会に出るのは困ったわね」
「ぼくがそう言っちゃったんだけれど、ダメだった? シレン、勝てない?」
「難しいわね。誰かと戦った経験が無いから怖がると思うし。本気を出し過ぎても行けないし」
「何で本気を出したらダメなの?」
「みんな、真っ二つになっちゃうもの」
オフィーリアは、楽しそうに、クツクツと笑った。
「でも、木刀とか刃のない武器で戦うんでしょ?」
「だとしてもよ。まぁ、シレンさんには、私が何か対策を考えるから、安心して試合に出るように言ってあげて」
「わかった」
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