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第一回転生勇者シレン杯決勝リーグ参加者決定(64)
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64
「早速ご苦労。待たせてすまんな。楽にしてくれ」
マルコとダンは頭を上げた。
セディークは、思いきり正装だった。表敬訪問を受ける、国王としての服装だ。
威厳を漂わせる姿で、王座に座っている。
「今日は王様なの? それとも、名誉親衛隊長? ぼくがお話をしたいのは、名誉親衛隊長のほうなんだけど」
セディークの作戦は、初手から失敗した。
マルコには、国王の権威は関係なかった。
ダンは、吹き出した。
セディークがダンを睨む。
ダンは、顔を伏せ、笑いをかみ殺している。
「あ、うん」と、セディーク一世。「名誉親衛隊長だ」
「よかった。じゃあ、報告します。その前に立ってもいい?」
「構わんぞ」
マルコは、立ち上がった。
ダンも、追随する。
「握手会は難しいですが、シレンは、サプライズでファンの人たちに手を振ってくれます」
「うむ」
「それから、武闘大会への参加も約束してくれました」
「よかった。早速、大会の開催について国民に発表しよう」
「お給料については、払い忘れててごめんなさいって、謝っときました。これからは、ちゃんと払うって伝えてあります」
「うむ」
マルコは、セディークの顔を、じっと見つめた。
「昨日の約束を、書面にまとめていただけましたか?」
「まとめたとも」
セディークは、パンパンと手を叩いた。
王座の背後の垂れ幕の陰からラウンデルが現れた。
お盆の上に巻物を載せた物を、両手で掲げ持って運んでくる。
セディークは、書面の文章をどう認めるかについて、王国財務責任者のラウンデルの知恵を借りていた。
回りくどい表現で認めた公文書は、解釈次第で、どうとでも意味合いが変化する。
一方がこうと思って、確かにそのとおりに文章が書かれている気がしても、特殊な条件が併記されていたりして油断ができない。
セディークは、ラウンデルが恭しく掲げた巻物に手を伸ばしつつ、「そのことなんだが」と何か言いかけた。
「ごめんなさい。忘れてた!」
と、セディークの言葉を遮るように、マルコは声を上げる。
「オフィーリアさんと王妃様には、王様とスラゼントスさんを叱らないよう、うまく話をつけてあります。もし、間違いがあるといけないから、ついでに二人に監査をお願いしたところ、快く引き受けてくれました」
セディークは、取ろうとした巻物を、思わず取り落とした。
巻物は床に落ち、転がりながら、はらり、はらはらと解けていく。
「え!」と、セディークは、間の抜けた声を上げて、マルコを見た。ぎょっとした表情だ。
ダンも、唖然とした顔でマルコを見ている。
ラウンデルは、所詮、人ごとであるためか、涼しい顔だ。
「引き受けましたよ」
と、垂れ幕の背後から、声が上がった。カチェリーナの声だ。
王座の後ろの、密かに隣室から入ってくる扉が隠された場所ではない。
王座とは真正面に当たる、マルコとダンの背後にあたる壁の垂れ幕の裏からだった。
マルコとダンが入ってきた扉がある壁である。
本来であれば、護衛の戦士たちが潜んでいる垂れ幕だ。
ということは、セディークはもちろんのこと、マルコやダンが部屋に入ってくるよりも前から、護衛の戦士に代わって、垂れ幕の陰に潜んでいたことになる。
今まで、ほくそ笑んで見ていたのだ。
垂れ幕の陰から、カチェリーナが姿を現した。
もちろん、もはや夜着ではない。
王妃としての、本格的な正装だった。
現在のセディークの衣装に対して、王妃として、対になる服装だ。
「わたしも引き受けさせていただきました」
澄ました顔で、カチェリーナの後から、オフィーリアも姿を現す。
カチェリーナとオフィーリアは、マルコの背後まで歩いてくると、二人並んで足を止めた。
マルコの右と左の肩にそれぞれ手を置き、セディークと対峙するように、並び立つ。
文字通りの後見人だ。
王国最強のツートップである。
マルコは、わざわざ振り向かない。
多分、どこかにいてくれるんじゃないかなと、オフィーリアを信頼していた。
「あ、そう」と、力なくうなだれるセディーク一世。目を白黒とさせている。
「確認しても?」
と、カチェリーナが、床に転がった巻物を目で示す。
セディークは、慌てた様子で巻物を拾うと、くるくると巻き付けて紐でとじ、ラウンデルに、ぐいと押しつけた。
ラウンデルは、澄ました顔で巻物を懐にしまうと、別の一本を代わりに取り出した。
「真正直な文面の物もありますが」と、セディークに囁く。
セディークは、ラウンデルから、巻物をひったくるようにして受け取ると、素早く開いて、書き記された文章を目で追った。
誰が読んでもわかりやすい、解釈に異論が入りようのない表現で、シレンに支払う給料の内容について文章が書かれていた。昨日、マルコと約束したとおりの内容だ。
「うむ」と、セディークは新しい巻物をカチェリーナに渡した。
カチェリーナは、自分は読みもせず、巻物をオフィーリアに、そのまま渡す。
オフィーリアは、巻物の内容を確認した。
昨夜、マルコから聞いたとおりの内容だ。
但し、末尾に署名がない。
「ご署名を」
オフィーリアは、つかつかとセディークに歩み寄ると、巻物を手渡す。
カチェリーナも、マルコの元を離れて、セディークの近くに移動した。
ラウンデルにとっては、予想された事態であったのだろう。
ぬかりなく、携帯型の筆と墨壺を取り出して掲げている。
セディークは、ラウンデルから筆を受け取ると、王座の手すりを下敷き代わりにして、巻物に署名を行おうとする。
カチェリーナが、セディークの手元を覗き込んだ。
カチェリーナとオフィーリアが突然現れた驚きから抜けきれないのか、セディークは、ぶるぶると手が震えている。
「そんなに怖がらなくても、叱りませんわよ」
と、カチェリーナ。にやにやと笑っている。
「なぁ?」と、オフィーリアに同意を求める。
「ええ」と、魔女のように微笑むオフィーリア。
確かに、二人とも笑っているから、怒ってはいない。
恐れおののく、セディーク一世の様子に、マルコは、ほんの少しだけ可哀想になった。
ただし、ほんの少しだけだ。
マルコは、貫禄のついたエリスとシレンが、自分の前に立ちはだかる姿を想像した。
恐ろしすぎて、気絶しそうだ。絶対に勝てるわけがない!
おそらく、セディークが取り落とした最初の巻物の中身は、複雑怪奇な、どうとでも解釈がとれる文章になっていたのだ。
まったく、自分は詐欺まがいの商売はしない、なんて言ってたくせに!
セディーク一世が、文書への署名を終えた。
「確かに」とオフィーリアが受け取る。
「マルコさん、あなたが管理してくださいな」
マルコは、オフィーリアから巻物を受け取ると、フウフウと息を吹きかけて、署名を乾かした。
くるくる巻いて、紐でとじる。
懐にしまった。
カチェリーナがマルコの前にやってくると、マルコの顔をしげしげと覗き込んだ。
「おまえがマルコか! なるほど、イケメンだ。オフィーリアが、おまえのことを、べた褒めだったぞ」
「王妃様、王様を叱らないでくださいね」
マルコのお願いに、あはははは、と、カチェリーナは大笑いした。
「今も言ったろ。もちろん、約束だから叱らねぇよ。少なくとも、今回の件ではな」
と、カチェリーナは、セディークを睨みつけた。
「おとうさんもですよ」
ダンには、オフィーリアが釘を刺す。
「話は終わった。行くぞ、マルコ」
カチェリーナは、先頭に立って、『謁見の間』を出て行った。
「あ、それじゃ、失礼します」
マルコは、セディークにぺこりと頭を下げてから、カチェリーナを追いかけた。
オフィーリアが、後に続いた。
「では、わたしもこれで」
ラウンデルは、自分の役目は終わったとばかりに、出てきた垂れ幕の背後に消え去る。
後には、呆然としたセディークとダンだけが残された。
「早速ご苦労。待たせてすまんな。楽にしてくれ」
マルコとダンは頭を上げた。
セディークは、思いきり正装だった。表敬訪問を受ける、国王としての服装だ。
威厳を漂わせる姿で、王座に座っている。
「今日は王様なの? それとも、名誉親衛隊長? ぼくがお話をしたいのは、名誉親衛隊長のほうなんだけど」
セディークの作戦は、初手から失敗した。
マルコには、国王の権威は関係なかった。
ダンは、吹き出した。
セディークがダンを睨む。
ダンは、顔を伏せ、笑いをかみ殺している。
「あ、うん」と、セディーク一世。「名誉親衛隊長だ」
「よかった。じゃあ、報告します。その前に立ってもいい?」
「構わんぞ」
マルコは、立ち上がった。
ダンも、追随する。
「握手会は難しいですが、シレンは、サプライズでファンの人たちに手を振ってくれます」
「うむ」
「それから、武闘大会への参加も約束してくれました」
「よかった。早速、大会の開催について国民に発表しよう」
「お給料については、払い忘れててごめんなさいって、謝っときました。これからは、ちゃんと払うって伝えてあります」
「うむ」
マルコは、セディークの顔を、じっと見つめた。
「昨日の約束を、書面にまとめていただけましたか?」
「まとめたとも」
セディークは、パンパンと手を叩いた。
王座の背後の垂れ幕の陰からラウンデルが現れた。
お盆の上に巻物を載せた物を、両手で掲げ持って運んでくる。
セディークは、書面の文章をどう認めるかについて、王国財務責任者のラウンデルの知恵を借りていた。
回りくどい表現で認めた公文書は、解釈次第で、どうとでも意味合いが変化する。
一方がこうと思って、確かにそのとおりに文章が書かれている気がしても、特殊な条件が併記されていたりして油断ができない。
セディークは、ラウンデルが恭しく掲げた巻物に手を伸ばしつつ、「そのことなんだが」と何か言いかけた。
「ごめんなさい。忘れてた!」
と、セディークの言葉を遮るように、マルコは声を上げる。
「オフィーリアさんと王妃様には、王様とスラゼントスさんを叱らないよう、うまく話をつけてあります。もし、間違いがあるといけないから、ついでに二人に監査をお願いしたところ、快く引き受けてくれました」
セディークは、取ろうとした巻物を、思わず取り落とした。
巻物は床に落ち、転がりながら、はらり、はらはらと解けていく。
「え!」と、セディークは、間の抜けた声を上げて、マルコを見た。ぎょっとした表情だ。
ダンも、唖然とした顔でマルコを見ている。
ラウンデルは、所詮、人ごとであるためか、涼しい顔だ。
「引き受けましたよ」
と、垂れ幕の背後から、声が上がった。カチェリーナの声だ。
王座の後ろの、密かに隣室から入ってくる扉が隠された場所ではない。
王座とは真正面に当たる、マルコとダンの背後にあたる壁の垂れ幕の裏からだった。
マルコとダンが入ってきた扉がある壁である。
本来であれば、護衛の戦士たちが潜んでいる垂れ幕だ。
ということは、セディークはもちろんのこと、マルコやダンが部屋に入ってくるよりも前から、護衛の戦士に代わって、垂れ幕の陰に潜んでいたことになる。
今まで、ほくそ笑んで見ていたのだ。
垂れ幕の陰から、カチェリーナが姿を現した。
もちろん、もはや夜着ではない。
王妃としての、本格的な正装だった。
現在のセディークの衣装に対して、王妃として、対になる服装だ。
「わたしも引き受けさせていただきました」
澄ました顔で、カチェリーナの後から、オフィーリアも姿を現す。
カチェリーナとオフィーリアは、マルコの背後まで歩いてくると、二人並んで足を止めた。
マルコの右と左の肩にそれぞれ手を置き、セディークと対峙するように、並び立つ。
文字通りの後見人だ。
王国最強のツートップである。
マルコは、わざわざ振り向かない。
多分、どこかにいてくれるんじゃないかなと、オフィーリアを信頼していた。
「あ、そう」と、力なくうなだれるセディーク一世。目を白黒とさせている。
「確認しても?」
と、カチェリーナが、床に転がった巻物を目で示す。
セディークは、慌てた様子で巻物を拾うと、くるくると巻き付けて紐でとじ、ラウンデルに、ぐいと押しつけた。
ラウンデルは、澄ました顔で巻物を懐にしまうと、別の一本を代わりに取り出した。
「真正直な文面の物もありますが」と、セディークに囁く。
セディークは、ラウンデルから、巻物をひったくるようにして受け取ると、素早く開いて、書き記された文章を目で追った。
誰が読んでもわかりやすい、解釈に異論が入りようのない表現で、シレンに支払う給料の内容について文章が書かれていた。昨日、マルコと約束したとおりの内容だ。
「うむ」と、セディークは新しい巻物をカチェリーナに渡した。
カチェリーナは、自分は読みもせず、巻物をオフィーリアに、そのまま渡す。
オフィーリアは、巻物の内容を確認した。
昨夜、マルコから聞いたとおりの内容だ。
但し、末尾に署名がない。
「ご署名を」
オフィーリアは、つかつかとセディークに歩み寄ると、巻物を手渡す。
カチェリーナも、マルコの元を離れて、セディークの近くに移動した。
ラウンデルにとっては、予想された事態であったのだろう。
ぬかりなく、携帯型の筆と墨壺を取り出して掲げている。
セディークは、ラウンデルから筆を受け取ると、王座の手すりを下敷き代わりにして、巻物に署名を行おうとする。
カチェリーナが、セディークの手元を覗き込んだ。
カチェリーナとオフィーリアが突然現れた驚きから抜けきれないのか、セディークは、ぶるぶると手が震えている。
「そんなに怖がらなくても、叱りませんわよ」
と、カチェリーナ。にやにやと笑っている。
「なぁ?」と、オフィーリアに同意を求める。
「ええ」と、魔女のように微笑むオフィーリア。
確かに、二人とも笑っているから、怒ってはいない。
恐れおののく、セディーク一世の様子に、マルコは、ほんの少しだけ可哀想になった。
ただし、ほんの少しだけだ。
マルコは、貫禄のついたエリスとシレンが、自分の前に立ちはだかる姿を想像した。
恐ろしすぎて、気絶しそうだ。絶対に勝てるわけがない!
おそらく、セディークが取り落とした最初の巻物の中身は、複雑怪奇な、どうとでも解釈がとれる文章になっていたのだ。
まったく、自分は詐欺まがいの商売はしない、なんて言ってたくせに!
セディーク一世が、文書への署名を終えた。
「確かに」とオフィーリアが受け取る。
「マルコさん、あなたが管理してくださいな」
マルコは、オフィーリアから巻物を受け取ると、フウフウと息を吹きかけて、署名を乾かした。
くるくる巻いて、紐でとじる。
懐にしまった。
カチェリーナがマルコの前にやってくると、マルコの顔をしげしげと覗き込んだ。
「おまえがマルコか! なるほど、イケメンだ。オフィーリアが、おまえのことを、べた褒めだったぞ」
「王妃様、王様を叱らないでくださいね」
マルコのお願いに、あはははは、と、カチェリーナは大笑いした。
「今も言ったろ。もちろん、約束だから叱らねぇよ。少なくとも、今回の件ではな」
と、カチェリーナは、セディークを睨みつけた。
「おとうさんもですよ」
ダンには、オフィーリアが釘を刺す。
「話は終わった。行くぞ、マルコ」
カチェリーナは、先頭に立って、『謁見の間』を出て行った。
「あ、それじゃ、失礼します」
マルコは、セディークにぺこりと頭を下げてから、カチェリーナを追いかけた。
オフィーリアが、後に続いた。
「では、わたしもこれで」
ラウンデルは、自分の役目は終わったとばかりに、出てきた垂れ幕の背後に消え去る。
後には、呆然としたセディークとダンだけが残された。
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