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優勝の行方(78)
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78
マルコは、王立クスリナ薬草学院の女子寮ロビーで、ベティと会った。
「なんか、エリス、会いたくないって。調子悪いみたい」
「そぉ」と、マルコはうなだれた。
仮病に決まっている。
「それより、マルコさん、凄いじゃない! 決勝リーグへのご出場おめでとうございます」
ベティが、こんなセリフを言うということは、エリスも号外を目にしたということだ。
絶対に仮病だ。
マルコのコメントに物凄く怒っているのに違いない。騙りなのに。
「いつの間に、予選に出ていたの? わたしもエリスも、ずっと治療のお手伝いに入っていたけれど気づかなかった。それとも、シードの選手ですか?」
「あ、うん、王様推薦?」
語尾に、どうしても『?』がつく。
「やっぱり。マルコさんが、そんな大会に自分から出たがるわけがないって、エリスが言ってたから。誰かが勝手に出したんじゃないか、って」
さすが、エリスはわかっている。
だったら、コメントも、マルコの真意ではないってわかりそうなのに。
「でも、いいんですかぁ?」
ベティの語尾が上がった。いたずらっ子みたいに、にやりと笑う。
「愛するシレン様と闘えますかぁ?」
「愛してないよ」
マルコは、即答だ。
「シレンのことは大好きだけれど、ぼくの許嫁はエリスだもの」
「嘘!」
ベティは絶句した。
「だって、マルコさんは、シレン様の秘密の恋人じゃ?」
「んーん」と、マルコは、首を振った。「誰かが勝手に言っているだけ」
「やだ!」
エリスは、どこかのおばちゃんみたいに、自分の口を手でふさいだ。
「初めて会った時、絶対にそうだとピンときたから、わたし、みんなに広めちゃった」
「おまえか!」
物陰から、突然、エリスが飛び出してきて、ベティの頭を、ポカリとたたいた。
二人の会話を盗み聞きしていたらしい。だったら、最初からでてくりゃいいのに。
「いったーい」とベティ。「あんた、マルコさんが許嫁だなんて、一言も言ってなかったじゃない」
「それは、マルコが勝手に言っているだけだから」
急に、逃げ腰になるエリス。
「じゃあ、あんたが怒んなくたっていいでしょう」
「そ、それは、幼なじみだから。マルコのお母さんから、マルコのことをよろしく頼むって言われてるの」
「ぼくも、エリスの両親から、エリスを頼むって言われてるけど」
「そんなの、もう秒読み段階じゃない! お式はいつ?」
ベティの妄想が始まりそうだ。
エリスは、ベティの発言は無視して、マルコに向き直る。
「ちょっと、あんた。何よ、あのコメントは!」
「やっぱり、それで怒ってたんだ。会ってくれないっていうから、どうしようと思ったよ」
「ふん」
エリスは、そっぽを向く。
「誰かが勝手に書いた話だよ。ぼくだって、自分が出場者だって、今朝、知った」
エリスは、唖然とした顔で、マルコの顔を見た。
「マジで?」
「うん」
けれども、いやいや、そんな馬鹿な、と、エリスは首を振り、
「そんなことあるわけないでしょう。どんな手違いよ」
「手違いじゃなくて、わざとみたい」
マルコは断言した。
「王様に押し切られたって、スラゼントスさん言ってた」
「凄い! マルコさん、王様期待の星じゃないですか! お強いんですか?」
ベティが割り込む。
マルコは、エリスと見つめ合った。
あはははは、と大笑いする。
「ぜんぜん」とエリス。「一般的な村人Aレベル? 畑を襲う猿の群れならば追い払えるぐらい」
それって、そこそこ凄いのでは?
ベティは、エリスに揺さぶりをかけた。
「きっと、あんたに見抜けてない才能を、王様が見抜いたのね。いらないなら、わたしがマルコさんをもらっちゃうけど。ねえ、マルコさん?」
「いや、エリスがいい」と、マルコは即答だ。
「むきー」と、ベティは唸《うな》った。
エリスは、まんざらでもないという顔だ。鼻の穴が、ぷっくらと広がった。
「そんなわけだから、ぼくが怪我したら、二人とも治療してね」
途端に、エリスの顔が曇った。
マルコが大会に、まともに出るとどうなってしまうか、怒りで見えなくなっていた現実に、ようやく思考が至ったようだ。
「どうしても出なきゃダメなの?」
「王様推薦だからね。でも、相手は兄ちゃんだから、多分、大怪我はしないと思う。せいぜい、腕を折られるくらい?」
それを大怪我というのだが。
「無理しないでね」と、エリス。
「大丈夫。いざとなったら、すぐに降参しちゃうから」
二人は見つめ合った。
寸前で、ベティがいたことを思い出す。
ベティは、息を殺して、二人を見つめていた。
「どうぞどうぞ、おかまいなく」
と、冷めた口調で、二人を突き放した。
「いや、何もしないから」とエリス。
危うく、ベティに、妄想のネタを提供するところだった。
「あら残念」と、ベティ。
エリスは、赤い顔をして横を向いた。
どうやら、危機は脱せたようだ。
マルコは、胸をなで下ろした。
マルコは、王立クスリナ薬草学院の女子寮ロビーで、ベティと会った。
「なんか、エリス、会いたくないって。調子悪いみたい」
「そぉ」と、マルコはうなだれた。
仮病に決まっている。
「それより、マルコさん、凄いじゃない! 決勝リーグへのご出場おめでとうございます」
ベティが、こんなセリフを言うということは、エリスも号外を目にしたということだ。
絶対に仮病だ。
マルコのコメントに物凄く怒っているのに違いない。騙りなのに。
「いつの間に、予選に出ていたの? わたしもエリスも、ずっと治療のお手伝いに入っていたけれど気づかなかった。それとも、シードの選手ですか?」
「あ、うん、王様推薦?」
語尾に、どうしても『?』がつく。
「やっぱり。マルコさんが、そんな大会に自分から出たがるわけがないって、エリスが言ってたから。誰かが勝手に出したんじゃないか、って」
さすが、エリスはわかっている。
だったら、コメントも、マルコの真意ではないってわかりそうなのに。
「でも、いいんですかぁ?」
ベティの語尾が上がった。いたずらっ子みたいに、にやりと笑う。
「愛するシレン様と闘えますかぁ?」
「愛してないよ」
マルコは、即答だ。
「シレンのことは大好きだけれど、ぼくの許嫁はエリスだもの」
「嘘!」
ベティは絶句した。
「だって、マルコさんは、シレン様の秘密の恋人じゃ?」
「んーん」と、マルコは、首を振った。「誰かが勝手に言っているだけ」
「やだ!」
エリスは、どこかのおばちゃんみたいに、自分の口を手でふさいだ。
「初めて会った時、絶対にそうだとピンときたから、わたし、みんなに広めちゃった」
「おまえか!」
物陰から、突然、エリスが飛び出してきて、ベティの頭を、ポカリとたたいた。
二人の会話を盗み聞きしていたらしい。だったら、最初からでてくりゃいいのに。
「いったーい」とベティ。「あんた、マルコさんが許嫁だなんて、一言も言ってなかったじゃない」
「それは、マルコが勝手に言っているだけだから」
急に、逃げ腰になるエリス。
「じゃあ、あんたが怒んなくたっていいでしょう」
「そ、それは、幼なじみだから。マルコのお母さんから、マルコのことをよろしく頼むって言われてるの」
「ぼくも、エリスの両親から、エリスを頼むって言われてるけど」
「そんなの、もう秒読み段階じゃない! お式はいつ?」
ベティの妄想が始まりそうだ。
エリスは、ベティの発言は無視して、マルコに向き直る。
「ちょっと、あんた。何よ、あのコメントは!」
「やっぱり、それで怒ってたんだ。会ってくれないっていうから、どうしようと思ったよ」
「ふん」
エリスは、そっぽを向く。
「誰かが勝手に書いた話だよ。ぼくだって、自分が出場者だって、今朝、知った」
エリスは、唖然とした顔で、マルコの顔を見た。
「マジで?」
「うん」
けれども、いやいや、そんな馬鹿な、と、エリスは首を振り、
「そんなことあるわけないでしょう。どんな手違いよ」
「手違いじゃなくて、わざとみたい」
マルコは断言した。
「王様に押し切られたって、スラゼントスさん言ってた」
「凄い! マルコさん、王様期待の星じゃないですか! お強いんですか?」
ベティが割り込む。
マルコは、エリスと見つめ合った。
あはははは、と大笑いする。
「ぜんぜん」とエリス。「一般的な村人Aレベル? 畑を襲う猿の群れならば追い払えるぐらい」
それって、そこそこ凄いのでは?
ベティは、エリスに揺さぶりをかけた。
「きっと、あんたに見抜けてない才能を、王様が見抜いたのね。いらないなら、わたしがマルコさんをもらっちゃうけど。ねえ、マルコさん?」
「いや、エリスがいい」と、マルコは即答だ。
「むきー」と、ベティは唸《うな》った。
エリスは、まんざらでもないという顔だ。鼻の穴が、ぷっくらと広がった。
「そんなわけだから、ぼくが怪我したら、二人とも治療してね」
途端に、エリスの顔が曇った。
マルコが大会に、まともに出るとどうなってしまうか、怒りで見えなくなっていた現実に、ようやく思考が至ったようだ。
「どうしても出なきゃダメなの?」
「王様推薦だからね。でも、相手は兄ちゃんだから、多分、大怪我はしないと思う。せいぜい、腕を折られるくらい?」
それを大怪我というのだが。
「無理しないでね」と、エリス。
「大丈夫。いざとなったら、すぐに降参しちゃうから」
二人は見つめ合った。
寸前で、ベティがいたことを思い出す。
ベティは、息を殺して、二人を見つめていた。
「どうぞどうぞ、おかまいなく」
と、冷めた口調で、二人を突き放した。
「いや、何もしないから」とエリス。
危うく、ベティに、妄想のネタを提供するところだった。
「あら残念」と、ベティ。
エリスは、赤い顔をして横を向いた。
どうやら、危機は脱せたようだ。
マルコは、胸をなで下ろした。
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