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抱き締めても良いですか?
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慎二が病院に来院してから数日が経っている。一日だけ休んだ彼は、その後は元気に出勤していったそうだ。タフな人だった。
休憩時間になり、病院の中にある執務室で昼食を食べていた。秘書の沢村浩介が食後のコーヒーを淹れてくれる。
書類整備を彼に任せているので、私は悠々とくつろげた。午後から手術が入っているので、今のうちに休んでおきたい。
「それで、ちゃんとした?」
熱々のコーヒーを吹きながら、さりげなく切り出した。浩介と慎二の進展具合を確かめたくて。この間、ちゃんとイチャイチャするよう促しておいたけれどどうなったのだろう。
怪我をした慎二と一日一緒に居たし、もしかしたら盛り上がっていたのではないだろうかと思って。
浩介は棚にファイルを仕舞っていた手を止めた。少し冷めたコーヒーを飲みながら待っていると、僅かに口角が上がっている。素人目には分かりづらいかもしれないが、これはかなり機嫌が良い。きっと大きく進展したに違いない。ドキドキしてしまう。
「……キスを……させてもらえました」
小さく、囁いた浩介。
私は人生で初めて、飲んでいたコーヒーを口の端から流すという漫画みたいなことをやってしまった。
「……あっつ!!」
垂れていく熱々のコーヒー。襟に染みが付いてしまう。
「どうしました?」
浩介がすぐに拭くものを持ってきてくれた。口元を拭われ、襟に滲みているコーヒーを拭いてくれるけれど、もうこれは着替えるしかない。
いや、それよりも。
「こ、浩介君? 今、何て?」
「……キスを……させてもらったと」
「待って待って、ほんっと待って! え、あれ、どういうこと!?」
二人は番になっている。番になったということは、やっているということだ。それもヒート中にやっているので、結構、どろどろに抱き合ったはずだ。私と茜もそうだった。本能のままに抱き合った。
そんな二人が、キスをして頬を赤らめているのか?
「あの、ごめん。人の情事を根掘り葉掘り聞く趣味はないんだけど……聞く。聞かせて。二人って……セックスしてないの?」
「しています」
「……ますますわかんないんだけど!?」
浩介の手を引っ張ると隣に座らせた。このままでは手術に集中できそうにない。時計を確認し、まだ少し時間がある今のうちに情報を整理したい。
「浩介君、君が恋愛に不慣れなのは知っているよ。私も人の事は言えないけれど、茜さんとはラブラブしてる」
「ラブラブ……?」
「正直に答えて。セックスする時、キスしたり、愛撫したり、してる? まさかいきなり入れてないよね?」
「指で……慣らしてはいますが……」
「ジーザス!!」
頭を抱えて叫んだ私に驚いている。思わず浩介の肩をバンッと叩いてしまった。
「琴南さんが可哀想!!」
「……!!」
「それじゃなに、濡れてないのに指入れてるの!? 痛いよ、それじゃ!!」
浩介の目が見開いている。思い当たる節があるのか、顔がだんだん青ざめていく。引き結んだ唇が震えている。
「あの、外まで聞こえていますよ。声を抑えて下さい」
ノックと一緒に番の茜が入ってくる。入ると鍵を締めている。銅像のように固まってしまった浩介の背中を撫でてやっている。
「深呼吸して下さい。息が止まっています」
「浩介君、ちょっと見てて!」
「え……」
茜の細い体を抱き上げると、ソファーに押し倒した。腕を突っぱねられているけれど気にしない。
「瑛太さん、ここ、病院!」
「ごめん、茜さん、振りだけだから我慢して」
浩介を立たせると、私の茜への愛撫の仕方を見せた。
「髪撫でたり、頬を触ってみたり、脱がせながらキスしたり。あと、相手は男の子なんだから、下もちゃんと触ってあげる」
「あの……ちょっと……! 恥ずかしいんですけど!」
「感じてくると、Ωの子は濡れてくるから。濡れてから指入れないと痛くてたまらないよ。ね、茜さん?」
「……知りません」
私の上着に顔を隠してしまった。可愛い仕草にムラムラしそうになるけれど、今は浩介の方をどうにかしなければ。
「なんとなく分かった?」
見上げれば頷いている。けれど、眉間に濃い皺が寄っている。
「どうしたの?」
茜を起こし、膝に乗せてやりながら聞けば、唇を噛み締めている。
「私が触れて……嫌ではないでしょうか」
「嫌だったら、番になんてならないでしょ?」
茜を下ろすと立ち上がった。浩介の両腕を思い切り叩いてやる。
「しっかりしなさい、浩介君! 怖がってばかりじゃ相手も応えられないだろう?」
「はい……」
「もう、今日は帰って良いから! むちゃくちゃ美味しいご飯作って、そんで一緒にお酒を飲んで、ほろ酔い気分でベッドイン!! オーケ-!?」
「……善処します」
「引っぱたかれる覚悟でめっちゃキスしてきなさい! でも傷には気をつけてね!」
広い背中を押した。執務室から追い出してしまう。仕事を気にしているようだったけれど、大人しく帰っていった。愛撫が足りなかったと猛反省していることだろう。
茜の隣にドサリと座ると、細い太腿に頭を乗せた。髪を撫でてくれる。
「まさか、愛撫を知らなかったなんて……」
「知らないと言うより、触っちゃ駄目って思ってるんだよ、浩介君は」
心地よい細い手にまどろんでしまう。浩介が、慎二へ触れることを躊躇っている理由は分かっている。
けれど浩介から触れないと、慎二も応えられない。彼は男であることを気にしている。浩介が自分に触れないのは、男だからと思っているかもしれない。
「想い人のために必死ですね?」
「元、想い人だよ。嫌だな~」
「焼けますね。あんなに必死になって」
「ごめんよ。今夜も頑張るから許して」
ゴロリと方向を変えると、茜のお腹に手を当てた。
「もうそろそろ、ここに私の子ができると思うんだけどな」
「男Ωは妊娠し辛いですから」
「うん、だからいっぱいしないとね」
「もう……」
笑っている顔を引き寄せた。重なった唇はとても潤いがあって瑞々しい。
「浩介君達も気になるけど、真澄の様子も見に行きたいな」
「院長代理で忙しいですからね」
「そうなんだよ! 父さん、早く帰ってこないかな」
父はイギリスの学会に呼ばれている。まだ最低、半年は戻らない。その間、私が院長代理として働いているため、どうしても帰りが遅くなる。
運命の番である真澄と愛歩。二人が寄り添えば、真澄にとって良い環境なると思うけれど確認に行けていない。
元気にしているだろうか。ご飯を食べることはできているだろうか。
「やっぱり、近々覗いてくるよ」
「じゃあ、僕との回数を減らして……」
「それはやだ」
見下ろす茜の柔らかい髪を撫でる。毎夜、愛している成果が出てお肌はツヤツヤ、色気もあり、唇の潤いも充分。
「睡眠減らすよ」
「駄目です。手術に触ります」
「大丈夫。こうして茜さんの膝で眠るから」
僅かな時間でも、茜が側に居て眠ると深い睡眠と同じ効果が得られる。番になっているαとΩの特権のようなものだ。
手術の時間が来るまでの僅かな時間、茜の膝で眠った。撫でてくれる手は、とても優しかった。
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