抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
111 / 152
抱き締めても良いですか?

35-2

しおりを挟む

~*~

「いてーな、マジで……」
「申し訳ありません」
「お前、本当に今日はどうしたんだよ。むちゃくちゃ手を握り締めてくるし、首絞めてくるし、観覧車で暴走するし」
 打った額がじんじんしている。愛歩が真澄を横抱きにして観覧車から降りるのを見ていた浩介は、何を思ったか俺を抱え上げた。俺も浩介も長身だ。一人通るだけでも狭かったのに、抱きかかえてなんて出られない。当然のように額を打ち付けた。
 観覧車は緊急停止させてしまうし、俺は痛みで暫く動けなかったし。遊園地のスタッフに怒られるという恥ずかしさ。
 管理室からようやく解放され、無駄に過ごしてしまった時間が過ぎていく。そろそろデートの時間は終わるだろう。真澄と愛歩を迎えに行かなければならないが。
「理由を言え」
「申し訳ありません、知識が足りず……」
「知識?」
「次こそは」
 何のことなのか、俺の手を握り締め歩き出す。もらった氷を額に当てながら浩介を止めた。
「そろそろデートの終わりの時間だろう? 真澄君が倒れたら意味がないぞ」
「……もう、そんな時間ですか?」
「説教くらってる間に過ぎてるよ」
 腕時計を確認した浩介は、踵を返すと駐車場の方へ向かっている。繋がったままの手を引かれ歩いた。
 結局、浩介は何がしたかったのだろう。待っていた真澄と愛歩が、額を冷やしている俺を見て笑っている。
「豪快にぶつけてましたね」
「慎二さん、大丈夫?」
「もう、訳がわかんねぇよ……」
「お待たせしました。ホテルまでお送りします」
 また俺を助手席に押し込み、真澄のためにドアを開けてやっている。乗りこんだ真澄と愛歩は溜息をつく俺に笑ってばかりだ。浩介は淡々と運転している。
「今日の秘書さん、面白すぎなんですけど」
「もう、何がなんだか。額、腫れてない?」
「少し膨らんでる。青痣になりそう」
「今度やったら股間蹴り飛ばすからな」
 運転している浩介の肩を軽く小突いたけれど、黙々と運転している。無口になってしまった浩介。
「浩介さん、大丈夫? 風邪がぶり返してない?」
「……いえ、大丈夫です」
 どんよりしている雰囲気が俺にも、真澄達にも伝わっている。赤信号で止まった時、浩介の頭を叩いた。
「お前、二人のデートを台無しにするなよ? 二人を送ったら、ちゃんと聞くから」
 俺の言葉に顔を上げている。振り返り、真澄達に向かって頭を下げている。
「申し訳ありません。私としたことが」
「僕達は大丈夫だから」
「てか、きついなら運転手さんでも良かったのに」
「いえ。桃ノ木様からぼっちゃんを託されているのです。私が責任を持ってお送りします」
 いつもの秘書面に戻った浩介は、安全運転で走らせている。向かっている先は、この辺では高級なホテルだった。車が入っていくとスタッフが出迎えに来ている。駐車した浩介は後部座席のドアを開けた。
「さ、どうぞ」
「ありがとう、浩介さん」
「どうもです」
 二人が降りるのを待っていた俺は、スタッフに開けられた助手席のドアに断りを入れた。
「いえ、俺達は帰るので……」
「行きましょう」
「は?」
「さ、早く」
 浩介に腕を引っ張られ降ろされた。そのまま連れて行かれる。真澄達も後ろをついてくる。ホテルのカウンターに向かった浩介は、二部屋分のチェックインを済ませている。
 待っていた俺達のところへ戻ってきた浩介は、一部屋分のカードキーを愛歩に渡している。
「夕飯はレストランでもルームサービスでもお好きな物をどうぞ。桃ノ木様が支払って下さいます」
「了解です。行こう、真澄さん」
「うん。浩介さん、慎二さん、お休みなさい」
「ああ、お休み」
 二人に手を振り見送った後、浩介を睨んだ。
「で? 何、これ」
「桃ノ木様のご配慮です。先日のお詫びに、と」
「まあ、それは良い。あのさ、やっぱり俺、仕事が終わってから来ても良かったんじゃないか?」
「私は……」
 言いかけた浩介は口を噤んでしまった。真澄達がエレベーターで上がったのを見届けて、筋肉逞しい腕を掴んで歩いて行く。
「とりあえず、部屋で話そう」
「はい」
 浩介が受け取ったルームキーは最上階のスイートルームのものだった。おそらく真澄達もそうなのだろう。広い部屋に入ると、大きな窓ガラスから夜景が飛び込んでくる。明かりを点けるのがもったいないほど、ネオンの瞬きは綺麗だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

人気者の幼馴染が俺の番

蒸しケーキ
BL
佐伯淳太は、中学生の時、自分がオメガだと判明するが、ある日幼馴染である成瀬恭弥はオメガが苦手という事実を耳にしてしまう。そこから淳太は恭弥と距離を置き始めるが、実は恭弥は淳太のことがずっと好きで、、、 ※「二人で過ごす発情期の話」の二人が高校生のときのお話です。どちらから読んでも問題なくお読みいただけます。二人のことが書きたくなったのでだらだらと書いていきます。お付き合い頂けましたら幸いです。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

処理中です...