SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

文字の大きさ
107 / 123
番外編

5-5

しおりを挟む


~*~



「素喜君、ほっぺたにクリーム付いてるよ」

「……ぁっ!」

 口ではなく、頬にケーキを付けてしまった素喜は、慌てたようにティッシュで頬を拭っている。呆然としてしまった修治もまた、口の端にクリームを付けている。

「……大胆だね、純は」

「あはは! 父さんが理解してくれたのが嬉しくてさ。ついつい、襲っちゃった」

「お父さんは下にずっと?」

「そう。親方が引き受けてくれたし、下の階で寝たから。……まあ、気付いてたかもしれないけどね」

 思い出しながらクスクス笑った。

 一戦交えた後、俺達はしばらく部屋に居た。大介の汗が俺にも移っていたので、下の階が寝静まってから、風呂に入った。

 でっかい背中を擦ってやった。俺の背中も擦ってくれた。

 シャワーだけ浴びた後、部屋に戻る時に、トイレから出てきた父さんに会った。三男とかなり飲んだのか、顔が赤味を帯びていた。

 すぐに大介が緊張して、背筋を伸ばすものだから。俺は本気で噴き出した。大介も緊張するのかと思うと笑えた。

 そんな俺を見た父さんも少し笑いながら、大介の背中をポンッと一つ押した。父さんなりの、愛情表現だった。

 部屋に戻った俺達は、改めて布団を敷いた。ようやく緊張の取れた大介が、しみじみと言ったものだ。


『お前の親父さん、男だな』


 と。

 大介の中で、父さんの存在は大きくなったようだった。反対されると思い込んでいたらしい。彼は弟素喜と修治の関係を強く反対した時期があったから。

 俺の父さんを尊敬した大介は、布団に入ってから腰を抱いてきた。

「俺は驚いたよ」

「何が?」

 その時の事を思い出し、顔が崩れて仕方がない。興味津々の二人に見つめられながら、ケーキをツンツンつついた。

「あの大介が……自分から二戦目を申し込んできたんだ……!」

「……え~っと……またしたの?」

 修治の問いに頷きながら、グサッとケーキにフォークを差した。

「……あの夜は燃えた……!!」

 そう、二戦目は凄かった。

 さすがの俺も、後は大人しく寝ていようと思っていたのに。

 大介が服を脱がせてくるから。

 転がしてくるから。

 あんな、エロくさい顔で真剣に言うから……!

「…………恥ずかしい!!」

 フォークを放り投げ、手で顔を覆った。素喜が驚いたように修治にしがみ付いている。修治も素喜を抱き締めると目を見開いた。

「な、何があったの……?」

 勇気を出した修治に聞かれ、俺はもう、崩れ落ちた顔を修復することもできずに笑ってしまう。

「…………内緒」

「ここまで来てそれはないよ、純! 言いたくて来たんだろう?」

「駄目! お前が大介に惚れたらまずい!」

「…………!!」

 俺の言葉に素喜が焦る。修治の耳を両手で塞いでいる。顔を真っ赤にした彼は、俺に何も言うなとフルフル首を横へ振っている。

 言いたい。

 でも知られたくない。

 そんなジレンマと闘いながら、体と心に刻み込まれた大介という存在に、胸が熱くなっている。

「……もう、何のために来たんだか」

 素喜の手を握り締め、耳から離させると引き寄せた。後ろから抱き付く形になった素喜に笑っている。

「僕が大介を好きになるって? ないない。僕の心は素喜君一筋なんだから!」

「…………!」

「大好きだよ、素喜君。大好き。とっても大好き」

 頬を擦り寄せ合う甘いカップルを見つめながら、崩れてしまったケーキを口に運んだ。

 甘い。甘ったるくて幸せだ。


『純。俺は決めた』


 半分ほど減ったコーヒーに、大介の顔が映って見える。


『お前の親父さんに恥じねぇくらい、大事にする』


 じっと、コーヒーを見つめた。ユラユラ、揺れる中で大介の顔がハッキリと映る。


『…………愛してる……すげー好きだ』


 耳に吹き込まれた言葉。

 体中に駆け巡る、電流にも似た甘い痺れ。

「…………たまらん!!!」

 叫んだ俺に、キスをしようとしていた二人が仰け反った。

 俺は残りのコーヒーを一気に飲み干した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...