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初恋トルネード
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しおりを挟む「…………って何でだよ!!!」
ガバッと起き上がり、夢に怒鳴った。汗だくの体は息切れしている。
蹴り飛ばした掛け布団が足下にわだかまり、トランクス一枚で寝ていた俺は、自身に起こった信じられない出来事に頭を抱えた。
確かに、時々、彼の夢は見ていた。
そのどれもが、ただ笑っている彼の姿で。
それがどうして、今日に限って、裸なのか。
「嘘だろ……! 俺は変態か……!!」
山本大介、一生の不覚!!
男の夢を見て、あれな状況を垣間見ることになろうとは。
抱え込んだ頭を激しく振っても、下半身のあれな状況は収まりそうにない。
どうして、よりによって、立川純なのか。
弟素喜の彼氏である、榎本修治の親友だ。ただ、それだけだ。
お節介で、俺が素喜を普通の道に戻そうと躍起になっていた時、ずっと説得にきていた男だ。
それだけのはずなのに。
何故、彼の夢を見続けるのか。
それも、あれな状況になってしまったのか。
収まりのつかない下半身に絶望した。
「……もう、うっせーよ、兄ちゃん。まだ四時だぞ~」
ガラッと襖を開けたのは、俺が住み込みで働かせてもらっている大塚大工店の一人息子、大塚蓮司だった。茶髪に染めた彼は、高校二年生の少年だ。
トランクスとタンクトップ姿で瞼を擦りながら入ってくる。
「兄ちゃんの声、でかいんだから。遠慮してくれよ~」
「わ、わりぃ……」
「でかぱいねーちゃんに迫られた夢でも見たの~?」
でかぱいとは何だろうか。
それよりも、今は入って来ないで欲しい。
布団を蹴っていたので、隠す物が無い。
俺の動揺に気付かない寝ぼけ眼の蓮司は、ストンと目の前に座っている。
「ふあぁ~~……ねむっ」
「へ、部屋で寝直せ。な!」
「……そうする~」
ドサリと倒れるように布団に転がっている。
「って、ここで寝るな!!」
「いいじゃん~……歩くのめんどい~」
「や、やべーんだよ! とにかく帰れ!」
「……ええぇ~~」
ゆさゆさ揺さぶった俺に、いやいやと丸まっている。こっちはまだ、下が大変なのに。
焦って引き起こせば、トロンとした目が俯いた。
その視線の先は、俺のあれな部分で。
「…………でけーよ、兄ちゃん」
「う、うるせぇよ! ほっとけ!」
「つか、兄ちゃんでも朝立ちってするんだな。ちょっと待ってなよ」
蓮司はゴシゴシ目を擦りながら出ていった。その間にこれをどうにかしなければ。俺も男だ、それなりにこういった事は時々、ある。
とはいえ働き始めて忙しくて、それどころではなくなっていたせいか、かなりご無沙汰だった。トランクスを引っ張って、とっとと終わらせてしまおうとした俺の部屋に、蓮司が戻ってくる。
「ほい、兄ちゃん」
「……んだよ」
「何って、エロ本だよ、エロ本」
「……高校生がんなもん見るんじゃねぇ!!」
「ええ~だって親父がくれたんだぜ?」
「……はぁ~、また親方かよ」
盛大な溜息を吐き出してしまった。
俺が働いている大塚大工店の親方、大塚三男は、早くに妻を亡くしたせいか、一人息子の蓮司とは親子と言うより兄弟に近い接し方をしている。
そのため、こういったエロ本を堂々と与え、一緒になって盛り上がるような親父さんだ。親方としては尊敬している三男だが、時々俺のツッコミが入らざるを得ない時がある。
夜中に二人でエロビデオを見て騒いでいる声を聞いては、注意に行っている。この家では何故か、俺が父親的な立場になってしまうことがあった。
「とにかく兄ちゃんも男なんだから」
「うるせぇよ。ガキは寝てろ!」
「ちゃんと処理しちゃいなよ! あ、汚さないでね」
「うっせーっつってんだろう!! さっさと寝ろ!!」
「はいは~い」
俺の怒鳴り声に慣れている蓮司は、意味ありげにニヤリと笑って出ていった。彼の気配が隣の部屋に消えるまで待った俺は、急いでトランクスを引っ張ってしまう。
早くあれな状況を終わらせないと、また蓮司が来てしまう。置いていかれたエロ本をチラリと見、そっとページを捲った。この際、藁にもすがりたい気持ちでいっぱいだ。
「……つか、でけーな。どうやったらこんなに膨らむんだ?」
外人女性がほとんど裸で乗っているエロ本をまじまじと見てしまう。エロ本を見るのはこれが初めてだった。興味に引かれてページを捲っていく。
「……うぉ、ちょ、何だこれ。どうなってんだ?」
どんなポーズで映ったらこんな姿になるのか。新体操選手並の柔らかさだ。裸でこんなポーズを決める意味が分からない。
頭を掻きながら、役に立たないエロ本に溜息をついた。これを見て、何が楽しいのか理解できなかった。
「……あいつの方が艶っぽいよな」
ぼんやり浮かぶ、立川純の姿。夢の中で迫ってきた彼は、男の体なのに妙に色っぽくて。
『……大介』
「……ぅ」
夢の中で聞いた声に体が反応した。無意識に手が動いてしまう。
『……大介』
目を閉じた俺は、ただ、純の声を、姿を、思い描いた。
置いていかれたエロ本を蹴り飛ばし、彼の声に神経を集中させた。
『……大介……俺を……好きにして良いよ』
「…………!」
ハッと我に返った時、俺の手もあれな状況も、大変なことになっていた。
「…………あ……あ……ありえねぇ――――!!」
「……兄ちゃんうっせー! イクなら静かにイッてくれよ~!」
叫んだ俺の声に、隣の部屋からドンドンと壁を蹴る蓮司の声が重なった。
俺は激しく項垂れるしかなかった。
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