58 / 123
初恋トルネード
1-5
しおりを挟む「……何してんすか!」
「いや~、あれだ。お客さんと喧嘩してねぇか心配でよ!」
「兄ちゃん、ホモだった……いてっ!!」
「二人とも、今すぐ出ていってくれ!!」
親方の背を押し、蓮司の頭に拳骨を落とした俺は、二人を追い出した。しぶしぶ離れた二人を確認し、部屋の中を振り返る。
何故、どうして、彼がここへ。
熱を出したまま唸っている彼を見つめ、階段を駆け下りた。棚から解熱剤を取りだし、水を汲んでタオルを手にすると急いで戻る。襖をきっちり閉めた俺は、そっと純の側に佇んだ。
「……何で来たんだよ」
苦しげに上下する胸を見つめ、着ていた彼のジャケットを脱がせていく。黒いTシャツは汗で濡れていた。気持ちが悪そうなのでTシャツも脱がせ、ズボンもはぎ取った。
テニスをやっていると聞いている。ユニフォームからはみ出した腕や足は日焼けしているのに、元の肌が白いのか、焼けていない部分がくっきりと浮かび上がって見えた。
生白い。
大の字になっている純をまじまじと見つめていた俺は、慌てて首を振って冷静になる。今は彼の看病を最優先しなければ。
トランクス一枚になった純の体からは汗が噴き出し続けている。タオルで拭い、俺のTシャツを着せてやる。大きかったのか、ぶかぶかだった。
「おい、薬持ってきたぞ。飲めるか?」
ようやく体と心が熱を意識したせいか、一気に症状を出してしまっている。そのためか、意識がかなり混濁しているようだ。俺の声に起きない。
「純。純……」
無理にでも起こそうとして、止めた。彼の体を支えながら抱き起こす。俺の胸に彼の背中を当て、固定した。コップの水を口に含み、彼の舌には解熱剤の錠剤を置いた。
顎を持ち上げ、口に含んでいた水を口移しで飲ませてやる。流れ込んでいく水と一緒に、錠剤が落ちたことを確認してから寝かせてやった。
濡れた彼の唇が、一際赤くなる。指で触れ、知らず顔を寄せていた。
ピルップルップ~ピルップルップ~。
「……うぉっ!?」
突然、鳴った機械音に、純から飛ぶように離れた。飛び出してしまいそうなほど心臓がドックンドックン、鳴っている。
機械音の正体は、純の携帯だった。脱がせた上着の中で鳴っている。ポケットから取り出してみれば、音が大きくなった。
ディスプレイには榎本修治と出ている。人の携帯に出るのは気が引けるけれど、この際、仕方がない。通話ボタンを押した。
「もしもし」
【純? 純! 何処に居るの! 皆心配してるよ!】
「純じゃねぇよ。俺だ、大介だ」
【……大介!? 何で大介が純の携帯持ってるの!?】
「うっせーな! 叫ぶな! 聞こえてる」
【……ちょっと待ってよ。まさか純、東京に居るの!?】
「そうなるな」
珍しく慌てている修治の声に、状況を聞いた。
純が熱を出したのは今ではなく、その前だった。
高熱を出し、家で寝ていたはずの純が忽然と姿を消したらしい。朝、起こしに行った母親が、純の姿が無くて修治に電話した。親友の所に行ったと思って。
ところが修治の所にも居なかった。修治も親も、何度も携帯に掛けたが繋がらず、ようやく繋がったと思えば俺だったという訳らしい。
【はぁ~、とりあえず無事なんだね】
「ああ。寝込んでやがるがな」
【良かった。ご家族には連絡しておくよ】
「……つか、これ引き取ってくれねぇか? 今日はたまたま休みだったから良いようなものの、明日からまた、俺も仕事に出るぞ」
【ご家族に相談してみるよ。それまで純のこと、お願いしても良いかな。大介に会いたかったみたいだし】
ホッとしたからか、クスクス電話口で笑っている。口を尖らせながらも、苦しそうに上下する純の胸を見ていると、溜息で承諾した。
「わーったよ。しかしこいつ。どうやって来たんだか」
【愛の力だね~】
「……ふざけてんじゃねぇぞ」
【ふざけてなんかいないよ】
笑っていた修治の声が真剣なものになる。思わず俺も、ゴクリと唾を飲み込んだ。
【迎えに行くまで、宜しく】
「……分かった」
【じゃ。また後で連絡するね】
「……ああ」
切れた携帯電話を暫く握っていた俺は、こうしていても仕方がないと側に置いた。
とりあえず今日は、家に居るしかなさそうだ。買い物は蓮司に頼もう。
深い深い溜息をつき、純の額をタオルで拭った後、そっと部屋を出た。家事を全て終わらせてから側に居てやろう。
熱が引けば、いつもの純に戻る。
一階に降りた俺は、なるべく物音を立てないよう掃除機をかけ終えた。
10
あなたにおすすめの小説
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる