SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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初恋トルネード

3-3

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「こいつ照れ屋なもんで。さ、どうぞ撮っちゃって下さい」

「写真はもう良いの。それより大介ちゃん。恋してるんだよね?」

「……あ?」

「隠さなくて良いの。恋に悩みはつきものだもの。アタシ達、相談に乗るわ!」

「………………」

「大介、顔が崩れてるぞ! スマイル、スマイルだ!」

 顔中に寄った皺に、先輩が耳打ちしてくるけれど。勝手に恋だと決めつけられ、きゃーきゃー煩い女に相談に乗ってやると言われてもムカツクだけだ。

 ここは無言で離れよう。立ち上がり掛けた時だった。現場近くが騒がしくなる。すぐ側の歩道を自転車が猛スピードで走っていく。

「待てって言ってんでしょ!! 返せよ!!」

 数秒遅れで人が走ってきた。ロゴの入ったTシャツとジーンズ姿の青年は、自転車を追い掛けている。

「……純!!」

 思わず叫んだ俺に、青年の足が止まった。

「……え……何で……大介?」

 汗だくの彼に追いつき、追い越した。手には現場のヘルメットを掴んで。

「訳わかんねぇけど、あれ止めれば良いのか?」

「……あ! あいつ! 婆ちゃんのバッグ取ったやつ!」

「……オッケー!!」

 ずいぶん距離が空いている。人は避けるばかりで捕まえることはできないでいる。

 走りながらヘルメット投げた。思い切り蹴り飛ばす。勢い良く飛んだヘルメットが途中で転がったけれど、角を曲がろうとした犯人の自転車がそれを運悪く踏み付けた。

 自転車が横転し、その間に俺達は追いついた。起き上がろうとした犯人の手を踏み付ける。

「つっ!?」

「ばーさんは大事にしろや、あん?」

「……う、煩い! 離せ!」

「離すか、ば~か!」

 踏み付ける力を強くし、痛みに怯んだ犯人の頭部に肘鉄を落とした。呻く男の背中に乗った俺は、両腕を捻り上げてやる。

「いたたたたた!!」

「警察呼べ」

「うん」

 純が携帯を取りだし、警察に掛けようとしたその側に、スクーターが突っ込んできている。咄嗟に犯人の腕を離し、純を抱き込んで歩道の隅に逃れた。

 携帯が転がり、スクーターに乗っていた男が自転車の男を引き起こしている様を見送ることしかできない。

 今まさに、二人乗りしたスクーターが発進しようとしたけれど。

「ど~こへ行くのかな~?」

「俺達から逃げようなんて、百年早いぜ?」

「観念しな」

 ガテン系の先輩達が、スクーターを捕まえていた。取り囲まれた二人の犯人が逃げようとしたその先にも、先輩が回り込んでいる。

 指の骨を鳴らした先輩二人が、犯人の両腕を捻るように持ち上げ、膝を付かせて終わった。殴ってやりたいところだけれど、そうすれば仕事に影響してしまう。大人な先輩達は、犯人に傷を負わせることなく捕まえた。

「……なんか、大介がいっぱい居るんだけど」

「俺なんか、まだまだだぜ?」

 抱き込んだ純を見下ろして笑った。彼もまた、笑っている。

 お互い、ハッとなって顔を見合わせた。

 そっと一歩、離れた。

「つ、つかお前、何で居るんだよ?」

「……妹の受験の下見。実は今週だったんだよね~」

「なるほどね。で、ばーさんは?」

「あ、あの人だよ。お~い!」

 手を振りながら走っていく。その先に、サラリーマンに支えられたお婆さんが居た。

 先輩達からバッグを受け取り、お婆さんに運んでやる。足腰が弱っているのか、曲がった腰を更に曲げて礼を言われてしまった。

「もう、良いから。ね? それよりちゃんと抱えて歩かないと危ないから」

「ほら、バッグ」

「ありがとう、本当にありがとうね」

 涙ぐんだお婆さんを支えた純は、改めて警察に連絡を入れている。親方が持ってきたワイヤーで犯人をグルグル巻きにしてしまうと歩道に座らせた。俺達が見張っているせいか、もう、逃げようとはしなかった。

 パトカーが到着するまで見張っていた俺は、先輩達には戻ってもらった。仕事が滞ってはいけない。皆が皆、俺の肩や背中を叩いては帰っていった。

 首を傾げながら、お婆さんを気遣う純を横目で見つめた。イケメンのくせに気取らず、優しいと思う。そんなところは、好きだった。



 ……好き?



 自分の思考に疑問符が浮かぶ。

 いやいや、好きは好きでも、人としてだ。それだけだから。

 頭を掻きながら知らずウロウロしてしまう。俺は何を動揺しているのだろう?

「……大介? 仕事気になるなら行って良いよ。この姿じゃ逃げられないだろうし」

「……いや、大丈夫だ」

「そう? あ、丁度良かった。これ、ついでに返そうと思ってたんだ」

 お婆さんから少し離れ、俺の所に来る。お婆さんに預けていたのか、紙袋を手にしていた。

「この間借りた服と、お礼のエプロンね」

「……んだよ、エプロンって」

「すんごい小さかったじゃない? 大きいの探してみたんだ」

 広げられた白いエプロン。俺でも余裕があるくらい大きな物だった。

 大きさは良い。

 だが、フリルが付いていた。

「おい、これを俺に着ろってか?」

「ふくよかな女性用しかなくてさ。大丈夫、可愛い可愛い!」

「……気色わりぃ!」

 フリル付きのエプロンを身に着けている自分を想像し、ぞわっと鳥肌がたつ。

「せっかくだが着れねぇよ」

「そう? 俺は平気だけど。ま、気が向いたら使って」

 服と一緒に押し付けられた紙袋。再びお婆さんに寄り添った彼の背中を見つめながら、髪を掻き回した。

 突き返すことは、できなかった。
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