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初恋トルネード
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しおりを挟む「おめーも二十歳だ。大人の仲間入りだ。丸ごとてめーを受け入れてくれる奴が誰なのか、飲んで考えろ!」
「……はい」
受け取ったコップを見つめ、喉を鳴らすと一気に飲んでいく。全く薄められていない酒を流し込むように飲んだ俺は、ダンッとコップを置いた。
「……ひっく」
何だか目がとろけてくる。瞼が降り始めるのに、胸の奥が熱を持ったかのように熱くてたまらない。
「……あれ、何かやばくね?」
「そうか? 二十度くれぇなんだが……」
「え!? それって高い奴じゃね?」
「そんなに高くねぇだろう?」
「親父の基準で考えちゃ駄目じゃん! 兄ちゃん、酒デビューなんだからさ!」
「仕方ねぇ。ビールにするか」
「って遅いし!」
パンッと親方に横ツッコミをした蓮司を見つめ、焼けそうな胸を握り締めた。
二人だったはずなのに、四人居る。何で増えているのだろう、うとうと考えながら、ぼやんと純の顔が浮かんだ。
しわくちゃになった写真をフラフラしながら見つめる。純の姿も二人にだぶって見えた。
「……好きって、エッチしたいってことっすか~?」
「……やばいよ、兄ちゃん! エッチとか言ってるし! 目が据わってるし!」
「水持ってこい、水!」
「こいつ見てるとさ~、肩の力が抜けるっつーか……ひっく。妙にキスしたくなるっちゅーか……」
フラリと倒れた体が仰向けになる。顔を覗き込んできた蓮司と親方に笑った。
「触ってみたくなってさ~……でも素喜のこと反対しちまったし……ひっく。実際男同士なんて訳わかんねぇし……」
「素喜って、兄ちゃんの弟?」
「お~彼氏が居たぞ~」
「……うわっ。それで!?」
蓮司が手で顔を扇いでくれている。ヘラリと笑いながら、瞼を閉じた。
「すげー笑ってた。不器用なんだよ、素喜も、俺も……ひっく。でもさ~あいつがあんな顔で笑えるのは、彼氏のおかげなのかな~とか思ったり……でも男同士なんて認められねぇし……ひっく……殴ってみたけどどっちも引かなくて……ぅ」
「で、許してやった訳か」
「……ぅう……」
胸が気持ち悪くなってくる。何だろう、このもやもやは。
「すげー! 兄ちゃんの弟と彼氏、見てみたくね?」
「大介の弟ならべっぴんだろうな。お前も頑張れよ! 男にも女にも、もててこい!」
「おう!」
二人の会話が遠ざかる。
胸のもやもやは酷くなった。
「……ぅえ」
「……え?」
「……蓮司! バケツもってこい、バケツ!」
「………………うええぇ……!」
我慢ができなかった。畳の上に吐いてしまう。
「兄ちゃん超刺激的!!」
「バカ言ってねぇで雑巾取ってこい!!」
親方に背中を擦られながら、純の顔がチラついた。
彼なら、こんな俺でも笑いながら受け入れてくれる気がして。
家族一番である俺も。
喧嘩っぱやい俺も。
飲んだ酒で吐いてしまった情けない俺でも。
笑いながら俺の頭に手を乗せるのだろう。
頑張っている俺を、褒めるように。
『兄ちゃん、頑張ってるよ』
家族から一人孤立して、皆が俺を非難するように見ていた時も、純だけは来てくれた。
『一人くらい、聞いてやらないとな』
俺がどうして反対しているのかも、彼はちゃんと理解しようとしてくれた。
感情に任せて怒鳴る俺を包み込むように受け止め、冷静になれるよう導いてくれた。
純が居なければ絶対に、素喜と修治を認めてやれなかっただろう。意地になって反対していただろう。
そして。
今頃、皆に嫌われて、独りになっていたかもしれない。
家族を守ってきた俺が、家族から孤立していたかもしれない。
純が居たから、俺は……。
「親方……」
蓮司が階段を駆け下りる音を聞きながら、背中を擦っている親方を呼んだ。
「どうした?」
俺にとって、二人目の親父だ。二重に映る顔を見ながら口元を拭った。
「……純に会いてぇ」
酒がくれた素直な言葉が出てくる。
背中を擦っていた親方は、くしゃっと頭を撫でてくれた。
「それが好きってこった」
言われた言葉に、素直に頷いた。
グラグラ揺れる頭が傾いていく。
「おっと、ゲロの中に倒れんじゃねぇ」
引っ張られた体が仰向けに倒れた。
そこで俺の意識はプツリと途切れた。
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