SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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番外編

1-5

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「………………」

 もぞもぞ、寝返りをうった。

「……………………」

 また、寝返りをうつ。

「…………………………!」

 バッと飛び起きた。

 握り締めた布団が千切れそうな不快な音を立てている。

 フルフル肩を震わせながらキッと眉を吊り上げる。

「てめーはいちいちエロくさいんだよ!!」

 夢の中の純に怒鳴った俺は、震えた体にまいった。

 これで何夜連続だ。純の夢を見て、あれが大変な事になってしまったのは。



 頼むから、俺を誘うな!



 そんな……や、優しい目で俺を見るな……!



 エロくさい声で喘ぐな……!



『……大介…………大好きだよ』


「……さ、囁くんじゃねぇ――!!」

「兄ちゃんうっせー!! 何回目!? 何回目!?」

 隣の部屋から壁を蹴る蓮司の怒鳴り声が響く。

 頭を抱え込んだ俺は、どうしても夢に出てくる純の姿に、ほとほとまいっていた。

「……てめーは凄すぎんだよ!」

 たった一回、抱き合っただけなのに。体の隅々まで、純に洗脳された気がする。純で埋め尽くされている。

「……くそっ!」

 バフッと布団を被って寝転んだ。無心だ、無心を心がける。

 目を閉じ、呼吸を落ち着けようと深呼吸をしたけれど。


『……ぁ……大介……すごっ!』


「うっ……」


『はぁっ……! ん……良いよ……もっと来ても……』


「……ぁ……」


『ほら……我慢しないで……好きなだけ……やっちゃいな』


「…………だ――!! 寝れねぇ!!!」

 叫んだ俺の声に、壁を蹴る音が重なる。

「俺も寝れねぇし!! 兄ちゃんうっさい!!」

 バンッと襖を開け放つ音がした。ドタドタと階段を下りていく蓮司。

「親父~! 俺も下で寝る~!」

 そう、叫ぶ声が遠ざかった。

 一人二階に残った俺は、思い出してしまう純の姿にどうしようもなかった。

「純のバカヤロ――! エロくさいにもほどがあんだろうがよ!!」

 なるべく小声で叫んだ俺は、今度こそ寝るぞ、と目を閉じた。

 エロくさい純ではなく、笑っている純なら大丈夫なはず。なるべく、いつもの普通の純を思い浮かべた。

 そう、出会ったばかりの純だ。痴漢を捕まえて、まだ友達にもなっていない頃の純。喧嘩が得意な訳でもないのに、妹のために痴漢を捕まえに行った男の顔を思い浮かべよう。

 爽やかな、イケメンだ。


『何だよ、大介。ジロジロ見ちゃって』


 にこにこと笑っている純が居る。そうだ、これで良い。

 笑ってろ。


『あ、もしかしてキスしたい? キスしちゃう?』


 違う! そうじゃない!

 お前の髪が、なんかサラサラしてんなって、思っただけで……。


『そう? お前も伸ばせば綺麗だと思うよ。少し硬いけど、癖っ毛でもないし、顔に掛かってイケメン度アップするよ』


 にこりと、笑っている。

 そうして、俺の髪に手を乗せた。


『うん、男らしい髪だ。撫で撫でしてあげる』


 長い指が、俺の髪に絡まった。

 見上げている瞳が、真っ直ぐに見ていて。


『……キス……する?』


 囁いた唇が、迫ってくる。

 そこから目が離せなくなる。

 フルフル、唇が震えた。

「……だから!! エロくさくなんじゃねぇ――――!!」

 叫びながら飛び起きた俺は、どうしても思い出す純の姿に項垂れる。



 純は凄かった。



 嫌と言うほど骨身に染みた。



「くそっ……!」

 何となく悔しい。俺だけがこんなに悶えているのだろうか。

 今頃、純はどうしているのだろう? ぐっすりすやすや寝ているのだろうか。

 もらったアルバムを乱暴に取り出し、純の顔を確認した。自分の裸を撮っている物もある。

 日焼けをしていない胸の辺りが浮かび上がっていて……。

「…………ぅっ!」

 あの夜の純をまざまざと思い出した俺は、もう観念した。抵抗したところで長引くだけだから。

「……ぜってぇ克服してやる……!」

 純という存在を。

 エロくさい声と体に負けない!

 猛ったモノを握った俺は、負けないと言いながらアルバムを見つめていた。

 余裕の笑みを浮かべている純の顔は、何もかもお見通しだといわんばかりに笑っていた。

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