SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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番外編

3-8

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***


 大人の第二戦が始まった頃。



 修治は一人、風呂場で悶えていた。

 頭からシャワーをを浴びながら、腫れてしまったそこを刺激する。



 口の周りいっぱいに付いていたホワイトチョコレートを舌で舐め取った素喜君。



 口の中に入れたホワイトチョコレートを右へ左へ動かして溶かしていた素喜君。



「……うぅ……! 何処で覚えてきたの……! そんな煽り方……!」

 可愛い素喜君が、どんどん大人の色気を身に着け始めている。それも急速に。

 早く大人になりたいと、彼が焦っているのは知っている。でも僕は、彼にはもっとゆっくり大人になって欲しかった。

「……ぁ……も……!」

 握ったモノが熱くなる。壁に手を突きながら、なんとか達した。体がフルリと震え、どうにかこうにか、熱を発散させることができた。

 ほうっと一息つきながら、後数ヶ月の我慢だと自分に言い聞かせる。そうすれば、誰にも何も言わせない。

 僕と素喜君は、ずっと一緒に居るのだから。

「……よしっ!」

 パシッと頬を叩いて気合いを入れ、手早く体を洗い、何度も深呼吸を施した僕はいつもの僕になる。トレーナーにジャージを着ると、髪を拭きながら戻った。

「お先に入ったよ。素喜君も入って……おい……で……」

 パサリと、タオルが落ちていく。一歩、後ずさってしまった。

「……ぁ……ぁの……ご……ごめんなさ……!」

 か細い声に体が震えてしまう。せっかく引かせた波がぶり返してきそうだ。

 慌てたように、蹲っていた素喜君がズボンを上げている。

 白い肌が、赤く染まり。

 乱れた息を整えようとしている。

 はぁはぁと、赤い唇が吐息を吐き出し。

 プルプルと、体が震えている。

「…………!!」



 これはあれだ!!



 男の現象……!!



 まさか素喜君までもがなるなんて……!



 落としたタオルを踏んづけ、滑りながらも駆け寄った。何か言う前に横抱きに抱え上げてしまう。汗ばむ額を見ないようにしながら、さっきまで自分が入っていたお風呂場に押し込んだ。

「ご、ごゆっくり!!」

 狭い脱衣所に降ろすとドアをピタリと閉めてしまう。

 僕は何も見ていない、知っていない。

 閉じたドアから急いで離れた。

「…………うぅっ」

 徐に蹲りながら、唸ってしまう。可愛くエロスを含むようになった素喜君に、僕の息子さんは我慢の限界を超えつつある。

「もうちょっとだから……! 我慢して!」

 ペシッとそこを叩き、大きく空気を吸った。波をやり過ごそうと無心になる。

 そうだ。

 今はまだ、素喜君は弟なのだから。

 可愛い可愛い、弟。

 弟。



 弟……!!



 自分に暗示を掛ける。掛け替えのない大切な弟と、一緒に居ると思えば良い。僕はお兄さんで、彼を守っていく存在だ。

 そう、大介になろう。

 素喜君を大切にしている、大介の代わりだ。

 ウロウロ、オロオロ、部屋の中を歩き回る。そうしていると落ち着いてきた。

 弟は今、ちょっと思春期を迎えている。大人になろうとしている心と体がアンバランスになっているだけだ。

 優しく受け止めてあげるのが、兄としての役目。

 自分に言い聞かせていた僕は、すぐに開いた浴室のドアをビクビクしながら振り返る。

「……ごめんね、修治さん……俺……」

「…………ズボンを履きなさい!!」

 まるでお母さんのように叱った僕は、トランクスと薄手のティシャツだけで出てきた素喜君に叫んでいた。驚いた彼は、反射的に頷いたものの、困ったように濡れた髪をかいている。

 そしてその姿のまま、近付いてきた。拭き切れていない雫が黒髪から滴っている。

「も……素喜君!」

「ご、ごめん! でも、替えのズボンが無くて……」

 どうしたら、そう下から見上げられ、お風呂で紅潮した赤い頬をしている素喜君に、僕の息子さんは立派な大人になってしまった。

「…………は……」

「は?」

 小首を傾げると、黒髪からポタリを雫が落ちていった。

「走ってくる――――!!」

「……え!? い、今から!?」

「先に寝てて――――!!」

 素喜君から遠回りするように部屋を移動すると、靴を半分履いたところで玄関から飛び出していた。

「しゅ、修治さん!?」

「頭冷やしてくる――――!!」

 叫ぶ素喜君を一人残した僕は、暗い世界をひたすら走っていく。

 邪な気持ちを全て捨ててしまおうと、僕はひたすら走り続けた。

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