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第四王道『異世界にトリップ、てきな? Ⅱ』
5.一歩前へ からの?
しおりを挟む後輩の萩野進は、今時の男だった。
爽やかな見た目、お洒落にも詳しい。僕と違って人付き合いも良く、友達も多い。
そんな彼が、僕を好きだと言う。
キスはできない、セックスに興味も無い、こんな僕と付き合いたいと。
彼と一緒に居るのは、それなりに楽しい。僕は僕のままで良かった。キスをしたいと思った時は、歯を磨いてきてくれる。子供の頃のトラウマを理解し、僕に合わせてくれていた。
会社の先輩と後輩、親しい友達、その少し先に進んだ関係。それが僕たちだった。
僕はそれで満足していた。彼もそうだと思っていたけれど。
何度も遊びに行きたいとせがまれ、BL漫画家の妹・律子にくれぐれも失礼のないようにと言い聞かせ、萩野を家に招いた。
両親は旅行中だったけれど、萩野は僕の家を色々と散策していた。律子にモデルをねだられても笑って受け入れてくれた。
良い後輩だ。律子がどうしても泊まっていけとねだり、萩野に来客用の布団を敷いて一緒の部屋で眠った。
夜中に、息苦しさを感じて目が覚めた。淡い光を背に、下の布団で寝ていたはずの萩野が僕に覆い被さっていて。瞼は閉じていたから、寝ぼけているのだろうと彼を捕まえ戻そうとした。
でも、彼の力は思いの外強く、服を脱がせてきた。僕の苦手なキスを何度も仕掛けてきた。こんな寝ぼけ方をする男だったのか、眉間に皺を寄せながら蹴り落とそうとした僕の目の前で、萩野は泣いた。
『頭が……おかしくなりそうです! もっと……もっと……先輩に触れたい!』
僕にしがみつきながら、そう懇願された。引き離そうとした手から、力が抜けてしまう。ずっと、萩野は我慢していたのかと思うと、分かっていなかった自分に呆然とした。
体に触れられ、苦手なキスをされながら、彼を抱き締めた。寝ぼけたまま僕を襲っていると後で知れば彼も傷つくだろう。
まずは目を覚ましてもらい、考えよう。
彼が望んでいることを、少しでも叶えられる方法を。
そう、考えている自分に驚いた。
僕はどうやら、彼を手放したくないらしい。
苦手なキスを、興味の無かったセックスを、彼のためにできるだけしようと考えるほどに。
僕は萩野を、初めて人を、好きになったようだ。
「また……この世界、か」
ぼんやりとマーブル色をした空を見上げた。仰向けのまま見上げていると、少し気持ちが落ち着いた。
僕の家に泊まった萩野。夜中に襲われて、なんとか素股まで頑張ってみた。彼が興奮気味に僕の太ももで擦っているのを、最初は気持ちが悪くて仕方がなかった。
でも、彼の手が僕に触れて、しがみつかれて、首筋にキスされた時、今まで感じたことがないような体の疼きがわき起こった。
それが何なのか分からなかった。壁に手を突いたまま、どうしようもなくなった。彼が達したことが分かっても、彼のモノが自分に掛かっていると分かっていても、動けなくなった。
自分の体が自分のものではない感じだ。彼に握られて、促されるままに達していた。
それからの記憶が無い。どうやらそのまま眠ってしまったのだろう。だからこの世界に居るのか。脱いでいたはずのパジャマを着ているあたり、妙にリアルな夢だった。黒縁眼鏡だけは無い。
思考がハッキリしている分、これからのことをゆっくり考えられそうだ。夢の中のはずなのに、現実の様な感じもする不思議な世界。
湖からは甘い匂いがしている。この中に入るとサキュバス化すると言ったハリスは、また出てくるだろうか。
体を起こした僕は、人の気配を感じて振り返る。
「……萩野君?」
「……え、本物の先輩?」
以前、出会った金髪碧眼の、萩野似の男ではなく、萩野そのものが立っていた。
彼もまた、僕をまじまじと観察し、駆け寄ってくる。
「本物の先輩だ! え、これ、俺また夢見てます?」
「君の夢? 僕の夢だと思うが」
「いやいや、俺の夢ですよ、たぶん」
お互いに、自分の夢だと思っているようだ。僕はパジャマ、彼は僕が貸したティシャツとジャージ姿だった。
寝る前の姿を、お互いしている。
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