王道ですが、何か?

樹々

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第四王道『異世界にトリップ、てきな? Ⅱ』

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「不思議なこともあるもんですね。あ、それ……」

 萩野は僕の首筋を見つめている。触ってみると、少し腫れていた。彼に吸い付かれたところだ。

 現実の情報をこうも詳細に夢に持って行けるものだろうか。胡座をかいた僕に、萩野も向かい合わせに座っている。

 二人の間には、甘い匂いが漂い続ける。

 そわそわと辺りを見たり、僕を見たりした萩野は、少し距離を詰めてきた。

「キス、したいです」

「……唐突だね」

「さっき見たときは、先輩似さんでしたけど、今度は先輩だから」

「だから?」

「めっちゃキスしたいです!」

 もう少し、詰めてくる。真顔で迫られているけれど、夢の中だからかふわふわした感覚がしている。瞼を閉じて了解を示してやれば、すぐに重なった。

 何度も啄まれている。不思議なことに、気持ち悪さも、嗚咽も、出なかった。萩野も一度、距離を取るとまじまじと顔を見つめてくる。

「……嘔吐きませんね」

「そうだね。この湖のせい……」

「先輩……!!」

 大きな犬に飛び込まれていた。押し倒されながら何度もキスされてしまう。重なっているだけのキスが、だんだん深くなっていく。

 スルリと入ってくる彼の舌。いつもなら気持ちが悪くて吐いてしまうのに、どうしてか受け入れることができた。

 この世界なら、彼が望むことをしてやれるかもしれない。彼も気付いたのだろう、目を潤ませながらパジャマに手をかけてくる。

「先輩……俺……!」

「……練習だと思うことにするよ」

 一つ目のボタンを外される。ゴクリと生唾を飲み込みながら、二つ目を外そうとした萩野は、ふと顔を上げている。

「何か聞こえませんか?」

「……蹄の音?」

「あ! 先輩似さんと……え、俺?」

 一度、この世界に来たときに聞いた蹄の音の正体は、萩野に似たハリスと、僕に似た男が二人で乗っている馬だった。馬上で僕に似た男の腰を抱いているハリスは、爽やかに笑っている。

「来たな、二人とも」

 ハリスがそう言うと、僕に似た男が指を鳴らした。そう言えば、この世界は魔法というものが存在している。咄嗟に萩野を庇うように前に出た僕のパジャマが、どうしてか弾け込んでいった。

 裸になってしまう。状況が飲み込めない僕の胸とあそこを、萩野が必死に背中から抱き締めて隠している。

「先輩似さんが何で先輩の裸を見たがるんです!」

「本当に僕とそっくりだね」

 もう一度、指を鳴らした僕に似た男。今度は萩野の服が弾け飛んだ。背中に当たる、彼の生の肌。自分が裸になっていることは気にしていない萩野は、僕を抱えながら後退していく。

「これならいけるな、アキ」

「そうだね」

 三度指を鳴らした僕に似たアキと呼ばれた男。三回目の指の音を聞いた僕の意識が遠のいていく。

「先輩? 先輩!?」

 萩野の声がどんどん遠ざかっていく。

 僕の意識はそこで途切れた。




……To be continued.

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