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第四王道『異世界にトリップ、てきな? Ⅱ』
6.漫画の世界になれば良い
しおりを挟む「え!? いやいや、気になるし! 先輩、先輩はどうなっちゃうんだよ!」
手にした漫画をめくっても、今月号はここで終わっていた。先輩にそっくりな漫画の主人公は、俺にそっくりな恋人の腕の中で気を失っている。
そして俺達にそっくりな異世界の住人。突然、裸にされてどうなるのか。先輩の妹・律子が連載している雑誌は、結構大人な腐女子向けだ。これからきっと、俺達は漫画の世界であれやこれやなことになるはずなのに。
「くっそ~! やるな、律子ちゃん」
連載されている漫画をもう一度見ようと、パラパラページを戻った。本当に俺と先輩にそっくりな主人公だった。体つきがリアルすぎて怖いくらいだ。
マーブル色をした空が出てくる世界。これは先輩が夢に見た世界だった。律子と一緒に聞いていたせいで、俺も似たような夢を見てしまったけれど。
夢の世界では、俺と先輩は大人な関係になれる。先輩が受けた子供の頃のトラウマも気にしなくて良い。キスも、セックスも、きっとできる。
律子の漫画が叶えてくれる。
ほうっと溜息をついていると、コンコンッとガラスを打つ音がした。見ればシャワーを浴び終えた先輩が手招きして呼んでいる。うっすら透けて見える裸に生唾を飲みながら立ち上がった。
ここはラブホテル。以前、先輩が白目をむいて倒れた時に担ぎ込んだホテルだった。
~*~
「お兄ちゃん! 素股なんかで成人男性が満足する訳ないでしょう!? 見損なったよ!」
「……まて……律子、お前……まさか……」
「せっかくこんなに良い体に恵まれて! こんなに素敵な彼氏が居るのに! むしろお兄ちゃんが誘わないと!!」
先輩の家に一泊させてもらった翌朝のことだった。三人で朝食を取ろうと、先輩がキッチンで用意をしていたのだが。
起きてきた律子は、バンッとテーブルを叩いて開口一番言った。
「何でセックスしないの!?」
と。俺はあまりにびっくりして、そそごうとしてたお茶を零してしまった。先輩もまた、割ろうとしていた卵を握りつぶしてしまった。
それから律子はくどくどとお説教モードに突入していった。成人男性がそれではいけない、もっと充実したセックスライフを送るべきだと、握り拳を作って力説していた。
呆然としていた先輩は、我に返ると手を洗い、律子の握り拳を握りしめた。
「また盗撮したな?」
「萩野さんのこと好きなんでしょ?」
「話をそらすな。盗撮は止めろと言っただろう?」
少し、強めに怒っている先輩。ハラハラしながら見守った。兄弟の話だ、俺が出て行ってよいものか。いやまて、盗撮とはどういうことだろう? また、ということは以前にもあったのだろうか。
ちょっと、欲しい。
思った俺の前で、二人はまだ言い争っている。
「犯罪だぞ。兄弟じゃなかったら捕まる行為だぞ」
「だって……」
「何だ?」
律子は急に押し黙った。握られていない手で目元を覆っている。小柄な体が震え始めると、涙がこぼれ落ちていった。
「ネタが無くて……! 次の連載がもらえるか分からなくて……!」
「……!」
「駄目だって分かってるけど……! お兄ちゃんの体最高だし、萩野さんもイケメンだし! リアルなモデルがほしくて……!」
うっ、と泣いた律子に、先輩が慌てている。宥めるように律子を抱き締めた。ポンポンと頭を撫でてやっている。
「漫画のためだとは分かっているが、萩野君は駄目だ。他人の裸を断りもなく見てはいけない」
「他人じゃないでしょう? 恋人なんでしょう? ね、萩野さん?」
急に話を振られ、答えて良いのかと先輩を見れば、困ったように眉根を寄せながらも頷いている。
「……えっと、はい。お付き合いさせてもらってます」
「家族! 本番が見たい! リアルを追求したい!」
「律子!」
「お願い、お兄ちゃん! 萩野さんも! 素股じゃ読者は喜ばないわ!!」
何かのスイッチが入ってしまった律子は、俺と先輩の本番が見たいと何度もねだってきた。でも、さすがに先輩もそれは駄目だと懸命に宥めた。
律子は朝食を食べている間もずっと、こういったシチュエーションが見たい、あれをやってくれと止まらなかった。
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