王道ですが、何か?

樹々

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第二王道『ラブ☆アタック』

6.漆黒の美人に抱き付き隊!

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 鴉団を壊滅させた俺とミルフィーは、全国の有名人になった。

 特にミルフィーの人気は凄かった。見かけは美人だし、優しい微笑みが女達を虜にして止まなかった。

 俺は嫉妬で狂いそうになった。

 だから。

 一刻も早く、この手に、彼を抱き締めたかった。



 それはもう、必死に剣を磨いた。



 今まで以上に。

 磨いて、磨いて、磨きまくった!



 そして。





 正直、俺はどんな剣で立ち向かっていたのか、思い出すことはできなかった。最強の剣士ミルフィーを相手に、俺の体は擦り傷だらけだし、青あざもできている。

 同じ様に、ミルフィーの体も傷ついていた。俺の前で片膝を付き、肩で息をしながら見上げている。

 会場はしんと静まり返っていた。膝をついた事のないミルフィーが、片膝をついた。見守っていた兵士達が、息を飲む音を響かせる。

 俺の二十歳の誕生日。何百回と数えた勝負を挑んだ。全敗し続け、それでもめげずに食らいついていった日々。

 倒れているのは、俺ではなく、ミルフィーで。

 彼は剣を離し、地面に置いた。

 それが負けた事を認める合図だった。

「……勝った……のか?」

 ズキズキと痛む両手に、しかと握り締めた剣を見つめた。闘うために短く切った金髪は乱れ、汗だくになった体。

 鍛え続けた体は逞しく成長し、目指していたミルフィーと同じ身長まで追いついた体。

 何度も何度も、負け続けた体が。



 今やっと。



 彼を超えた。



「俺が……勝った!」

 確かめるように叫んだ俺を見上げ、ミルフィーは嬉しそうに微笑んでいる。

「ぼっちゃまの勝利です」

 彼自身が認めてくれた。

 剣を放り投げた俺は、片膝をついている彼に飛び込んだ。

「俺のお嫁さん!!!」

「……はい」

「父上!! 父上!! 早く結婚式の準備を!!」

 ミルフィーを胸に抱きながら急がせる。いや、その前にやることがあった。

 苦笑している彼を正面から見つめ、血を流している頬を舐めてやる。お嫁さんになるのだから、触れても良いはずだ。

 ドキドキしながら顔を近づけ、闘いで興奮し、熱を持った唇にキスをした。瞼を閉じた彼は、素直に受け取ってくれた。

 じわりと胸が熱くなる。もっと深くキスをしたくて、押し倒そうとした。

 その肩が掴まれる。二人がかりで引き離された。

「何するんだよ!」

「人前で破廉恥な事をするな! 一国の王子と、……その、なんだ、姫……ではないな。とにかく、妃になる者なのだぞ。慎みを持て!」

「俺がいったい何年待ったと思ってるんです! ちょっとくらい触っても良いでしょう!」

「ならぬ!! そういうことは部屋の中でしなさい!」

 騒ぐ俺をもう二人、兵士が捕まえるようにして引き離す。国王ガトーに手を引かれ、立ち上がったミルフィーを連れていこうとする。

「父上!! まさかミルフィーを横取りしようって言うんじゃ……!!」

「やかましい!! お前は大人しく部屋で待っておれ!! すぐに行かせる!!」

「ミルフィーに手を出したら父上でも容赦しませんからね!!」

「誰が手を出すか!!」

 顔を真っ赤にして怒った国王ガトーは、戸惑うミルフィーの背を押して連れていってしまった。会場に残された俺は、ふてくされて座り込む。

 やっと、やっと彼に勝ち、これからベッドインだと思ったのに。二十歳になるまで色々な事を我慢してきた俺にとって、このお預けは痛すぎる。

 負けを認め、今すぐにでも抱かれる覚悟が、ミルフィーにはあった。それなのに父のせいで引き離されるとは。

「……くそうっ! 俺のミルフィーを!」

「まあまあ。落ち着いて下さい。逆にチャンスでは?」

 俺を抑えていた一人、若い兵士がクスクス笑いながら目線を合わせてくる。良く、俺達の周りでウロウロしている兵士だった。俺達を見ては楽しそうに笑っていたのを覚えている。

「お前は?」

「名乗るほどの者では。強いて言えば、お二人の味方、といったところでしょうか」

「怪しいな……お前、ミルフィー狙ってるな?」

「まさか。俺はボインちゃんが好みなんです」

 王子相手に面白い事を言う男だった。興味をそそられ、立ち上がりながら話を続ける。彼が言う、チャンスとやらを。

「父上に連れられて行ったのが、何でチャンスなんだ?」

「準備ができるではありませんか」

「準備?」

「おや、まさか準備も無しに、経験の無いミルフィー様をお抱きになるおつもりですか?」

 さも驚いたように言う青年に、ハッとなる。

 そうだ。ミルフィーもまた、男との経験は初めてになる。まして俺は彼を抱く側だ。男である彼が、男を受け入れる心の準備を整えずに抱かれるのは辛いだろう。
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