27 / 87
第二王道『ラブ☆アタック』
6.漆黒の美人に抱き付き隊!
しおりを挟む鴉団を壊滅させた俺とミルフィーは、全国の有名人になった。
特にミルフィーの人気は凄かった。見かけは美人だし、優しい微笑みが女達を虜にして止まなかった。
俺は嫉妬で狂いそうになった。
だから。
一刻も早く、この手に、彼を抱き締めたかった。
それはもう、必死に剣を磨いた。
今まで以上に。
磨いて、磨いて、磨きまくった!
そして。
正直、俺はどんな剣で立ち向かっていたのか、思い出すことはできなかった。最強の剣士ミルフィーを相手に、俺の体は擦り傷だらけだし、青あざもできている。
同じ様に、ミルフィーの体も傷ついていた。俺の前で片膝を付き、肩で息をしながら見上げている。
会場はしんと静まり返っていた。膝をついた事のないミルフィーが、片膝をついた。見守っていた兵士達が、息を飲む音を響かせる。
俺の二十歳の誕生日。何百回と数えた勝負を挑んだ。全敗し続け、それでもめげずに食らいついていった日々。
倒れているのは、俺ではなく、ミルフィーで。
彼は剣を離し、地面に置いた。
それが負けた事を認める合図だった。
「……勝った……のか?」
ズキズキと痛む両手に、しかと握り締めた剣を見つめた。闘うために短く切った金髪は乱れ、汗だくになった体。
鍛え続けた体は逞しく成長し、目指していたミルフィーと同じ身長まで追いついた体。
何度も何度も、負け続けた体が。
今やっと。
彼を超えた。
「俺が……勝った!」
確かめるように叫んだ俺を見上げ、ミルフィーは嬉しそうに微笑んでいる。
「ぼっちゃまの勝利です」
彼自身が認めてくれた。
剣を放り投げた俺は、片膝をついている彼に飛び込んだ。
「俺のお嫁さん!!!」
「……はい」
「父上!! 父上!! 早く結婚式の準備を!!」
ミルフィーを胸に抱きながら急がせる。いや、その前にやることがあった。
苦笑している彼を正面から見つめ、血を流している頬を舐めてやる。お嫁さんになるのだから、触れても良いはずだ。
ドキドキしながら顔を近づけ、闘いで興奮し、熱を持った唇にキスをした。瞼を閉じた彼は、素直に受け取ってくれた。
じわりと胸が熱くなる。もっと深くキスをしたくて、押し倒そうとした。
その肩が掴まれる。二人がかりで引き離された。
「何するんだよ!」
「人前で破廉恥な事をするな! 一国の王子と、……その、なんだ、姫……ではないな。とにかく、妃になる者なのだぞ。慎みを持て!」
「俺がいったい何年待ったと思ってるんです! ちょっとくらい触っても良いでしょう!」
「ならぬ!! そういうことは部屋の中でしなさい!」
騒ぐ俺をもう二人、兵士が捕まえるようにして引き離す。国王ガトーに手を引かれ、立ち上がったミルフィーを連れていこうとする。
「父上!! まさかミルフィーを横取りしようって言うんじゃ……!!」
「やかましい!! お前は大人しく部屋で待っておれ!! すぐに行かせる!!」
「ミルフィーに手を出したら父上でも容赦しませんからね!!」
「誰が手を出すか!!」
顔を真っ赤にして怒った国王ガトーは、戸惑うミルフィーの背を押して連れていってしまった。会場に残された俺は、ふてくされて座り込む。
やっと、やっと彼に勝ち、これからベッドインだと思ったのに。二十歳になるまで色々な事を我慢してきた俺にとって、このお預けは痛すぎる。
負けを認め、今すぐにでも抱かれる覚悟が、ミルフィーにはあった。それなのに父のせいで引き離されるとは。
「……くそうっ! 俺のミルフィーを!」
「まあまあ。落ち着いて下さい。逆にチャンスでは?」
俺を抑えていた一人、若い兵士がクスクス笑いながら目線を合わせてくる。良く、俺達の周りでウロウロしている兵士だった。俺達を見ては楽しそうに笑っていたのを覚えている。
「お前は?」
「名乗るほどの者では。強いて言えば、お二人の味方、といったところでしょうか」
「怪しいな……お前、ミルフィー狙ってるな?」
「まさか。俺はボインちゃんが好みなんです」
王子相手に面白い事を言う男だった。興味をそそられ、立ち上がりながら話を続ける。彼が言う、チャンスとやらを。
「父上に連れられて行ったのが、何でチャンスなんだ?」
「準備ができるではありませんか」
「準備?」
「おや、まさか準備も無しに、経験の無いミルフィー様をお抱きになるおつもりですか?」
さも驚いたように言う青年に、ハッとなる。
そうだ。ミルフィーもまた、男との経験は初めてになる。まして俺は彼を抱く側だ。男である彼が、男を受け入れる心の準備を整えずに抱かれるのは辛いだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
起きたらオメガバースの世界になっていました
さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。
しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。
【完結】後宮に舞うオメガは華より甘い蜜で誘う
亜沙美多郎
BL
後宮で針房として働いている青蝶(チンディエ)は、発情期の度に背中全体に牡丹の華の絵が現れる。それは一見美しいが、実は精気を吸収する「百花瘴気」という難病であった。背中に華が咲き乱れる代わりに、顔の肌は枯れ、痣が広がったように見えている。
見た目の醜さから、後宮の隠れた殿舎に幽居させられている青蝶だが、実は別の顔がある。それは祭祀で舞を披露する踊り子だ。
踊っている青蝶に熱い視線を送るのは皇太子・飛龍(ヒェイロン)。一目見た時から青蝶が運命の番だと確信していた。
しかしどんなに探しても、青蝶に辿り着けない飛龍。やっとの思いで青蝶を探し当てたが、そこから次々と隠されていた事実が明らかになる。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
⭐︎登場する設定は全て史実とは異なります。
⭐︎作者のご都合主義作品ですので、ご了承ください。
☆ホットランキング入り!ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる