王道ですが、何か?

樹々

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第三王道『恋してふっさふさ☆』

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***


 さわさわ、さわさわ。

「……ぅん」

 ぎゅっ……すりすり、すりすり。

「……やめ」

 ……チュッ。

「んぁっ……!」



 体が跳ねていた。見開いた目に映ったのは、自室の天井で。被っていた掛け布団がベッドから滑り落ちていた。

「ぁ……はぁ……はぁ……!」

 体が熱い。

 燃えるようだ。

 耐えがたい体の疼きに丸まってしまう。

「んだよ……これっ!」

 体中に力が入ってしまうような、抜けてしまうような。例えようのない疼きに顔が真っ赤になっていくのが分かった。

 こんなこと、今まで経験したことがない。体が、特に下半身が、熱を帯びて仕方がない。


 まさか、睡眠薬に他の薬も混ざってたのか?


 考え、唇を噛み締めた。ランスロット総団長がそんなことをするとは思えなかった。もし、他の薬を盛っていたのなら、俺を帰しはしないだろう。

 何かに掴まりたくて、枕を握りしめて気が付いた。俺の手に、白い体毛が伸びている。人間ベースの手だったはずが、まるで兎の手だ。

「まさか……」

 そんなはずはない。自身の体を確認して愕然とした。

 白い体毛が、部分的に伸びていた。脇腹や足がふさふさした毛に覆われている。

 そのくせ、大事な部分には生えていない。まるで誘っているかのように露わになっている。

「誰に……発情してんだよ、俺!」

 獣の血を混ぜて作られた種族は、発情するとその血が強く出る。子孫を残そうと、血が騒ぎ出すのだ。

「くそっ……!」

 もう、日が昇っている。部下が起こしに来てしまうかもしれない。自分で慰めるしかないと、猛ってしまった下半身に手を伸ばした時だった。

「たいちょー! 朝っすよ-! まだ寝てるんですか?」

 ノックと声が同時にかかる。この姿を部下に見られたくはない。ベット下に落ちた掛け布団を体に巻き付けると、窓から飛び出した。

 耳から耳栓を抜き、人の声が無い森の方へと走って行く。体はどんどん熱くなっている。


 今、誰かに会ったらまずい。


「俺は……愛玩動物じゃねぇ……!!」

 宿舎から距離を取り、深い森の奥まで走ると、そのまま崩れ落ちてしまった。丸まりながら下半身に手を添え刺激を与えてやる。早くイッて熱を散らさないと、獣の血がどんどん勝ってきてしまう。

「ん……ん……!」

 すぐに処理できなかったせいか、熱はなかなか引きそうにない。目尻に浮かんだ涙で視界がぼやけてくる。震える手で刺激を与えていた俺の長い耳が、僅かな足音を拾った。

 目を開け、顔を上げた時にはもう、人が居て。

「チェスター隊長? どうしてこんな所に」

 鍛錬をしていたのだろう。手に槍を持っているランスロット総団長。

 首筋から流れる汗が、シャツに染みこんでいくのを目で追ってしまう。

 鼻を擽る、汗の匂い。

「顔が赤いようだが、気分でも悪い……ぅん」

 体が、勝手に動いていた。

 重ねた唇は、俺よりも大きくて。

 飛びついた勢いをそのままに、逞しい首にしがみついた。彼の汗が俺の体に移ってくる。両足を彼の腰に絡めてしがみついた。

「……ん! 待った! 待ってくれ!」

「体が……言うこと……きかねぇ……!」

 どんどん熱くなってくる。総団長の汗に目眩がしてたまらない。

 舐め取りたくて甘噛みした。はむはむ、噛みつく俺を引き離すように持ち上げられてしまう。逆らうようにしがみつこうとした俺を真正面から見つめた総団長は、持ち上げる手に力を込めた。

「チェスター!!」

「……!!」

 ビクッとなった体が、少し正気を取り戻させてくれる。持ち上げられたままフルフル震えてしまう。

「誰に発情を? 相手がいるならその人の所へ連れていく」

 問われても、分からなかった。声を出せば変なことを言ってしまいそうで、必死で首を横に振った。

「……居ない、のか?」

 頷くしかなかった。垂れた長い耳で顔を覆ってしまう。情けないことに涙が込みあげていた。噛み締めた唇から血が出ても、体の熱は上がるばかり。

 本当に、俺は誰に発情したのだろう?

 憧れていた人に、こんな情けない姿を晒すことになるなんて。

 これ以上、みっともない姿は見せられない。総団長にはこの場を去ってもらって、どうにか自分で処理をしてしまいたい。

 降ろしてもらおうと、見上げた時だった。顔を赤くした総団長が、俺を強く抱き締めた。

「私が……手伝っても?」

 手伝う?

 手伝うとは何だろう?

 涙で滲む視界に映った総団長は、俺の長い耳にキスをした。


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