52 / 87
第三王道『恋してふっさふさ☆』
5-2
しおりを挟む***
さわさわ、さわさわ。
「……ぅん」
ぎゅっ……すりすり、すりすり。
「……やめ」
……チュッ。
「んぁっ……!」
体が跳ねていた。見開いた目に映ったのは、自室の天井で。被っていた掛け布団がベッドから滑り落ちていた。
「ぁ……はぁ……はぁ……!」
体が熱い。
燃えるようだ。
耐えがたい体の疼きに丸まってしまう。
「んだよ……これっ!」
体中に力が入ってしまうような、抜けてしまうような。例えようのない疼きに顔が真っ赤になっていくのが分かった。
こんなこと、今まで経験したことがない。体が、特に下半身が、熱を帯びて仕方がない。
まさか、睡眠薬に他の薬も混ざってたのか?
考え、唇を噛み締めた。ランスロット総団長がそんなことをするとは思えなかった。もし、他の薬を盛っていたのなら、俺を帰しはしないだろう。
何かに掴まりたくて、枕を握りしめて気が付いた。俺の手に、白い体毛が伸びている。人間ベースの手だったはずが、まるで兎の手だ。
「まさか……」
そんなはずはない。自身の体を確認して愕然とした。
白い体毛が、部分的に伸びていた。脇腹や足がふさふさした毛に覆われている。
そのくせ、大事な部分には生えていない。まるで誘っているかのように露わになっている。
「誰に……発情してんだよ、俺!」
獣の血を混ぜて作られた種族は、発情するとその血が強く出る。子孫を残そうと、血が騒ぎ出すのだ。
「くそっ……!」
もう、日が昇っている。部下が起こしに来てしまうかもしれない。自分で慰めるしかないと、猛ってしまった下半身に手を伸ばした時だった。
「たいちょー! 朝っすよ-! まだ寝てるんですか?」
ノックと声が同時にかかる。この姿を部下に見られたくはない。ベット下に落ちた掛け布団を体に巻き付けると、窓から飛び出した。
耳から耳栓を抜き、人の声が無い森の方へと走って行く。体はどんどん熱くなっている。
今、誰かに会ったらまずい。
「俺は……愛玩動物じゃねぇ……!!」
宿舎から距離を取り、深い森の奥まで走ると、そのまま崩れ落ちてしまった。丸まりながら下半身に手を添え刺激を与えてやる。早くイッて熱を散らさないと、獣の血がどんどん勝ってきてしまう。
「ん……ん……!」
すぐに処理できなかったせいか、熱はなかなか引きそうにない。目尻に浮かんだ涙で視界がぼやけてくる。震える手で刺激を与えていた俺の長い耳が、僅かな足音を拾った。
目を開け、顔を上げた時にはもう、人が居て。
「チェスター隊長? どうしてこんな所に」
鍛錬をしていたのだろう。手に槍を持っているランスロット総団長。
首筋から流れる汗が、シャツに染みこんでいくのを目で追ってしまう。
鼻を擽る、汗の匂い。
「顔が赤いようだが、気分でも悪い……ぅん」
体が、勝手に動いていた。
重ねた唇は、俺よりも大きくて。
飛びついた勢いをそのままに、逞しい首にしがみついた。彼の汗が俺の体に移ってくる。両足を彼の腰に絡めてしがみついた。
「……ん! 待った! 待ってくれ!」
「体が……言うこと……きかねぇ……!」
どんどん熱くなってくる。総団長の汗に目眩がしてたまらない。
舐め取りたくて甘噛みした。はむはむ、噛みつく俺を引き離すように持ち上げられてしまう。逆らうようにしがみつこうとした俺を真正面から見つめた総団長は、持ち上げる手に力を込めた。
「チェスター!!」
「……!!」
ビクッとなった体が、少し正気を取り戻させてくれる。持ち上げられたままフルフル震えてしまう。
「誰に発情を? 相手がいるならその人の所へ連れていく」
問われても、分からなかった。声を出せば変なことを言ってしまいそうで、必死で首を横に振った。
「……居ない、のか?」
頷くしかなかった。垂れた長い耳で顔を覆ってしまう。情けないことに涙が込みあげていた。噛み締めた唇から血が出ても、体の熱は上がるばかり。
本当に、俺は誰に発情したのだろう?
憧れていた人に、こんな情けない姿を晒すことになるなんて。
これ以上、みっともない姿は見せられない。総団長にはこの場を去ってもらって、どうにか自分で処理をしてしまいたい。
降ろしてもらおうと、見上げた時だった。顔を赤くした総団長が、俺を強く抱き締めた。
「私が……手伝っても?」
手伝う?
手伝うとは何だろう?
涙で滲む視界に映った総団長は、俺の長い耳にキスをした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる