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戦争初期(1941~1942)

日米開戦一 開戦

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 よもの海みなはらからと思ふ世になど波風の立ちさわぐらむ


 ウェーク島には一七〇〇名の米兵が、駐屯していた。
 ここは、真っ先に狙われるだろう。ウェーク島総指揮官、ウィンフィールド・カニンガム中佐は日米開戦の報を聞くと、そう予見した。とは言え、この島には、『エンタープライズ』が運んできた一二機のF4F戦闘機しか、航空機がなく、日本が空母なりを出してくれば、太刀打ちはできないであろう。
「ジャップの編隊が、接近中!」
 見張員の報告を皮切りに、ウェーク島は慌ただしく動き始めた。空襲警報が鳴り響き、対空砲に砲員が取り付き、F4Fに、パイロットが走り寄る。
「敵の機種は、何だ?」
「単発機です、恐らく艦載機」

『蒼龍』『飛龍』率いる第二航空戦隊は、ウェーク島南西二五〇浬にいた。
「第一波攻撃隊だけで、十分か」
 二航戦司令長官山口多聞中将は、そう呟いた。彼らの任務はウェーク島攻略部隊の地ならしであった。米軍がこの島の要塞化を進めていることはGFも承知している。その為、万全を期す意味を込めて、二航戦が、この任務に就くことになった。上陸部隊は南から接近している。
「江草機より入電。『第二次攻撃の要有りと認む』」
「そうか。第二波攻撃隊、発進せよ!」

 江草隆茂少佐率いる第一波攻撃隊の前に、先ず立ちはだかったのは、一二機のF4Fである。とは言え、それらは一斉に現れた分けではなく、数機ずつがバラバラに現れた。第一波攻撃隊に含まれる艦戦は一五機である。更には、人殺し多聞丸と呼ばれる程の訓練の鬼である長官のもと、日夜訓練に励んだ乗員達である。F4F数機ずつの相手など、役不足も良いところであった。
 彼らは、一機も失うことなく、進み、ウェーク島の上空に侵入した。彼らを次に歓迎したのは、同島に備え付けてあった、対空火器である。
 江草少佐は、飛行場の破壊を最優先とした。既にこの島には航空機は無く(先程彼らが全機撃墜した)これを行う意味は、無いも同然であったが、彼らはそんなことを知らない。
 その為に、トーチカの一部を破壊し損ねた。
「艦爆が、二五番(二五〇キログラム)爆弾なのも、問題だな。破壊力が、無さ過ぎる」
 しかし、兵装に文句を言っても仕方ない。あるだけの装備で、戦わなければいけないのが、現実である。
「司令部に、打電。『第二次攻撃の要有りと認む』」
 山口長官に、どやされるかな。しかし、五〇〇キログラム爆弾を搭載できる艦爆がいれば、こんなことにはならなかった。彼にとっては、戦艦より、新型艦爆の方が、望まれた。

 爆弾が飛行場に命中するたびに、火焔と土煙が、濛々と立ち込める。滑走路は穴だらけとなっている。燃料タンクも、直撃を受け、派手に燃えている。指揮所や、倉庫も、火焔に包まれている。
 カニンガム中佐は目の前の後継が信じられなかった。日本海軍は、卑怯な手を使ったのか?ノウだ。自分はこの攻撃を予測できなかったのか?ノウだ。日本は油断ならん相手だ。彼は背筋に冷や汗を流さずにはいられなかった。
「新たに、ジャップの編隊!」
 新たな叫び声が、聞こえる。そうだ。戦闘はまだ終わってはいない。
「太平洋艦隊司令部に、攻撃を受けた報告を。残った者は対空配置に付け!」
 カニンガム中佐は自分と兵を奮い立たせる為に、意識して大声を出した。

 この日、日本はウェーク島のみならず、グアム、フィリピン、マレー半島にも攻撃を仕掛けた。
 一二月八日未明、マレー半島では、帝国陸軍の上陸が行われようとしていた。
 この上陸作戦に、陸軍は大きな期待を寄せていた。
 彼らの攻撃は奇襲となったものの、英軍の強力な抵抗に苦しめられた。砲撃や、航空機の攻撃によって、輸送船は沈められ、準備砲撃等を行わない奇襲の為に、重機関銃の雨に曝され、兵が次々と倒れ伏した。しかし、盛況なる陸軍は、これらを突破し、九日にはコレヒドールを陥落させることに成功した。

「それで、日本は本当に引き金を引いたのだね」
 東洋艦隊司令長官トーマス・フィリップス大将は、そう尋ねる。
「はい、間違いありません」
 連絡してきた、兵は頷く。
「そうか。しかし、同時にアメリカにも宣戦布告したのは幸いだったな。日本の目はどうしても、そちらに向く。たとえ、こちらに戦艦が有ったとしてもな」
 彼の率いる東洋艦隊は、キングジョージⅤ世級戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』とレナウン級巡洋戦艦『リパルス』を有している。特に、キングジョージⅤ世戦艦は、英軍の最新戦艦であり、主砲は一四インチであるものの、四連装砲二基、連装砲一基の一〇門を搭載している。防御力も、一六インチ砲に対抗でき、速力も三〇ノットある。
 対して、日本の戦艦はアメリカを恐れ、トラックか本土にいるはずである。
「輸送船団を、襲う。東洋艦隊の、全兵力でな」
 一二月八日一八時五分、シンガポールのセレター軍港から、六隻からなる艦隊が、出港した。戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』巡戦『リパルス』駆逐艦『エレクトラ』『エキスプレス』『テネドス』『ヴァンパイア』で構成されたその艦隊は、Z部隊の名を冠していた。
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